昼休みの物語
組体操は結果からいうと盛り上がらなかった。
それは別に技がしょぼいとかではない。
練習不足からミスの連発だったのだ。
まずは1人技のブリッジで頭が上がらなかったり、全然足がピンと伸びてないかたとうりつ。
続いて2人技で倒立が出来ない人が多数いたり、サボテンをミスったりしていた。
まあ、この1人技、2人技は前座みたいなものだからハイクオリティーは求めてない。
なぜなら今年から始まった競技のため練習時間が取れないことと危険を伴うため練習はマットを引いた体育館だけだったのでさらに練習時間が短くなる旨をプログラムに書かれていたのである。
なので来賓の人達の3割は早々に昼食を取りに行っている。
そして練習時間が短い中で先生たちが来年も組体操をやらせようと考えているのなら大技を中心に練習させると踏んでいたのである。
だがしかし本当の問題は大技であった。
3人技の飛行機では2人が下で前後に並び1人を持ち上げるというものなのだが、後ろの人が力がなく不格好な飛行機になっていたり、タワーでも1番上に乗った人が落ちたりと初っ端からグダグダであった。
5人技の扇では扇形になっていなかったり、最後の大技、ピラミッドもうまくいかなかった。
まさかここまでグダグダになるとはさすがの俺も予想できなかった。
しかもフリースローが意外に盛り上がったため組体操の盛り上がらなさは際立っていた。
生徒は途中から組体操を見ることを放棄し昼ご飯をどこで食べるとか、何を食べるかとかで盛り上がっていた。
俺達も組体操の間に昼休憩の相談をしていた。
「零君、お昼ご飯どこで食べる?」
「そうだな……恵たちも来るだろうから昼飯用意したら中庭集合で良いんじゃいか?」
うちの高校は普段でも学校外に昼食を取りに行くことを許可している。
もちろん学食で食べてもいいし昼飯を用意して教室や中庭、屋上で食べるのもありだ。
そして体育祭などのイベントごとでは親が学校に来るので外食にしているところが多い。
なので普段は混んでいる学食や生徒のたまり場になっている中庭は現在人が少ない。
俺達プレイヤーはもとから親などいないし(現実にいるのでゲーム内にはいないという意味)美咲も親がくるのは午後からになるそうだ。
なんでも仮装レースだけは絶対に見に行くと言ってるらしい。
美咲が出ると決まったわけでもないのに気の早い親御さんだな。
ちなみに美咲のお姉さんは体育祭の日はレストランにお客がたくさん来るので時給が上がるとか言ってバイトに行ってる。
しかも客が多い時の臨時バイトらしいので午後の部が始まり客が減ったらこちらに来れるそうだ。
あの人もちゃっかりしてんなー。
「分かった。じゃあ恵ちゃん達にも言っとくね」
「ああ、頼んだ」
俺は美咲と別れた後鞄から弁当と水筒を取り出し場所取りに向かう。
もちろん組体操が終り休憩時間になってからなので問題はない。
中庭に行くと見知った人がいた。
俺の友人の異世界君だ。
異世界君は高そうな一眼レフカメラをいじっている。
そして腕にはカメラマンと書かれた腕章をつけている。
「あれ、逢坂か?」
異世界君がこちらに気づいた。
俺も異世界君の方へ歩いていく。
「異世界君も久しぶりだな」
「ああ、逢坂って高校ここだったのか」
「まあな。そういう異世界君は例のデザイン高校か?」
「ああ、そうなんだよ。まったく休日だというのにメンドクサイッたらありゃしない」
「まあまあ。それよりどんな写真を撮ったんだ?」
異世界君は俺にカメラを貸してくれる。
俺は写真を見ていく。
どの写真もきれいに撮れている。
さすが写真を専門に勉強してることだけはある。
俺はその中の1枚の写真に注目する。
その写真にはバスケのフリースローを決めガッツポーズをしている俺の写真があった。
しかも背景のゴールのネットが揺れていてボールが空中に浮いている。
まさしくゴールを決めた直後の写真だ。
「この写真いいな!」
「だろ。俺もこれは良いのが撮れたと思ってたんだよ」
俺はしばらく異世界君と雑談を交わしていた。
主に体育祭の話であったが……
「それじゃ俺はそろそろ行くよ。昼休憩の間にバッテリーとSDカード代えときたいから」
「わかった。またな」
「ああ、またな」
そういい異世界君はグランドの方へ走って行った。
俺がちょうど日陰になっている所を見つけたときに美咲たちはやってきた。
「零君おまたせー」
「零にしては良い場所見つけたじゃない」
「零さん、よくこんな良い場所とれましたね?」
「うん。ここは風が通っていて涼しいね」
美咲、恵、奏ちゃん、愛さんの順に感想を述べてくる。
概ね好評のようだ。
「だろ?見つけるの苦労したんだぞ」
「「「ありがとうございます」」」
4人が声を合わせてお礼を言ってくる。
これはもしかして示し合わせたのかもしれないな。
4人全員が敬語でハモるというのは示し合わせないと出来ないと思う。
「それじゃ早速昼飯食べようぜ」
「そうだね」
俺達は日陰になっているところに腰を下ろした。
日陰になっているところは上手い具合に段差になっていたので上の段をいす代わりにして座る。
俺は弁当を開く。
今日のメニューは玉子焼き、から揚げ、おにぎり、ハンバーグといったお弁当にありがちなおかずをたくさん持ってきた。
「すごーい。これ零君が作ったの?」
「ああ」
「そういえば零って料理上手だったよね」
「へーそうなんですか?」
「それは楽しみだね」
女性陣が作った本人を差し置いて俺の弁当を食べ始めた。
ちょっ!?
それ俺が作ったのに……
「おいしー」
「変わってないわね。私好みの味だわ」
美咲と恵が俺の料理を褒める。
愛さんと奏ちゃんは一心不乱に食べている。
一応こういうこともあろうかと多めに作ってきてはいるが、コレ俺の分残るのかな?
「なあ?いつまで食べるつもりなんだ?」
「はっ!」
4人は箸をようやく止めた。
俺の弁当はかろうじて残っていた。
「おいしくってつい……」
美咲がばつの悪そうな顔をする。
「俺の分は残ってるみたいだし別に良いよ」
俺は残りの弁当を食べる。
あ~くそ。足りねえ。
コンビニでなんか買ってこようかな。
「あ~お腹いっぱい」
恵がそう言いゴミを片付けている。
ゴミの量が明らかに多い。
1人分ならちょうど良い感じの量だが俺の弁当をあれだけ食べた後に食べれる量じゃなかった。
あなた方どれだけ食べれば気が済むんだ。
太るぞ。
まあこんなこと怖くて言えやしないが。
「逢坂君、悪かったね。あれだけじゃ足りないんじゃないのかい?」
「正直足りないですね」
愛さんが申し訳なさそうな顔をしている。
「何か買ってこようか?」
愛さん優しい。
俺の弁当勝手に食べてたけど優しいわ。
「大丈夫ですよ。自分で買いに行きますし」
「しかし……」
愛さんはなおも渋る。
「愛さんは気にしないでください。もともとみんなと食べようと思って多めに作っておいたのに足りなかったんですから俺の判断ミスですよ」
俺は笑顔を見せ、財布を持ちコンビニへ向かおうとする。
美咲と奏ちゃんと恵はこちらの様子に気づくことなくお茶を飲んでいる。
あれやられると腹が立つな。
「なら私も行こう」
「ん?何?2人ともどこかに行くの?」
恵がようやくこちらに気づいた。
恵が気づいたことによって美咲と奏ちゃんもこちらに気づいた。
「コンビニだよ。コンビニ」
「なら私もついて行きます」
「私もついて行くよ。デザート欲しかったし」
「なら私も行く」
全員ついて来んのかよ!?
しかも美咲と恵にいたってはデザート買いに行きたいだけじゃねえか!
まあここはついてきてくれるだけ良しとしよう。
「逢坂君ー」
ん?今、会長の声がしたか?
俺は周りを見渡すが会長の姿はない。
「零君どうかしたの?」
「今、会長の声が聞こえなかったか?」
「え、別に」
気のせいだったのかな?
俺はもう一度だけ周りを見渡す。
「逢坂君!」
今度ははっきり聞こえたぞ。
いったいどこだ。
どこにいるんだ。
「上ですよー」
俺が上を見ると外階段を降りてくる会長の姿があった。
この学校には1つの校舎に最低1つは外に階段がついているのだ。
移動教室のさいによく使う。
会長が階段を降りきるとこちらにやってくる。
先ほどは気づかなかったが会長の後ろには森がくっついてきていた。
あ、森いたんだ?
「逢坂さん!今、私のこと忘れてましたわね?」
「なぜ分かった!?」
「ひどいですわ!わたくしのことを忘れるなんてどういう頭をしてるんですの?」
「おい…どういう意味だ?」
俺と森が睨み合いになる。
睨み合いといってもどちらも本気で怒っているわけではない。
お約束というやつだ。
森とはこういうやりとりをしないと調子が上がらない。
ただ他の人達──美咲、恵、愛さん、奏ちゃん、会長──は苦笑いだ。
まあ、毎回やってるからな。
「さて、お約束はここまでにしよう。さっさとコンビニに行かないと俺の昼飯がなしになっちまう」
「逢坂君、それなんですけどもし良かったら私の作ったお弁当食べませんか?少し作りすぎてしまったので」
そう言い会長はお弁当を取り出す。
こちらは俺のと対照的に色々な物が入っている。
例えば餃子だとか、ポテトサラダとか、どちらかといえば晩ご飯に出てくるようなものばかりが入っている。
それでも今の俺にはありがたい申し出であった。
「本当に良いのか?」
「はい。構いません」
「羨ましいですわ。わたくしにもくださいな」
「別に良いけど食い過ぎるなよ?」
俺が森に釘を刺すと美咲達が顔を背ける。
さっきの俺の弁当を食ったことを思い出したな。
「わかってますわ」
俺と森は、会長が作ってくれた弁当を食べる。
会長もなかなか料理が上手い。
美味しいな。
「どうですか?」
「ああ、旨いよ」
会長は安堵のため息をはく。
ずいぶん緊張してたんだな。
「さすが会長ですわ。美味しいですわ」
本当に森は会長loveだな。
美咲達は会長の料理が気になるのか食べたそうにしているが先ほど俺の弁当を食べたことに罪悪感を覚えてるのか食べようとしていない。
8割方食べた頃ようやく腹がいっぱいになった。
「あーもう腹いっぱいだ」
俺は箸を置き手で腹をなでる。
「お粗末様でした」
会長はお弁当を片付ける。
俺は校舎についている時計を見る。
午後の競技が始まるまでまだ時間がある。
俺達は日陰でゆっくりすることにする。
「会長のクラスって強いよな」
「当たり前ですわ」
俺の言葉になぜか森が答える。
なぜお前が答える?
別に聞いてねえんだよ。
「でも午前中のバトルを見るに全員のレベルが高いですよね?」
「そうそう。1クラスだけ飛び抜けてますよね」
美咲と奏が講評をしている。
でもまあ午前中の得点を見る限り、会長のクラスだけ飛び抜けている。
「1年生はかなり競ってますね」
会長が俺達、1年生の得点を見て感想を言う。
あれは得点計算表か。
いいなぁ。
便利そうだ。
「そうなんだよな。一応現在、1組は首位だけど午後の競技で普通に逆転できる点差なんだよな」
「そうなのですわ。午後はよりいっそう厳しい戦いになりますわね」
「でもリレーは零君だから大丈夫じゃない?」
俺と森は客観的に見た事実を述べているのに美咲だけ超楽観的だ。
まあ、励まそうとしてくれてるんだろうせど今はいらなかったな。
「あら、逢坂君はリレーに出るのですか?」
「ああ、クラス対抗リレーに出場するんだ」
「どうりで楽そうな競技に零君の名前がないわけですね」
会長もそう思ってたんかい!?
いったいみんなは俺にどんなイメージを抱いてるの!?
「会長、それはひどくね?」
「あ、ごめんなさい。つい本音が」
ぐはっ!
会長が的確に俺の精神を攻撃してくる。
そういうのが1番傷つくんだよ。
「どうせ俺なんて……」
俺は三角座りをして、落ち込む。
「ああっ!零君が落ち込んでるよ」
「零をいじめすぎたわね」
「どうするんだね」
「しっかりしてださいな」
「逢坂君申し訳ありません」
みんなが慌てて謝ってくる。
そんなに俺は運動向きじゃないというのか?
「別に謝らなくていいよ。どうせ俺なんて運動向きじゃないし」
「どうする?零君が面倒くさくなってるよ?」
面倒くさッ!?
俺面倒くさいの!?
「こうなった零はほっとくしかないのよ」
「ああ、たまに卑屈になることあったね」
「ええっ!恵ちゃんも六角さんもひどくないですか?」
「会長、そっとしておくことも大事ですよ?」
「四ツ原さんの言い分もわかりますが……」
「会長、失礼を承知で申し上げますわ。ここは説得するより彼が走るときに応援をしていたほうが効果的ですわ」
この森の一言でみんなは俺一人を残してグランドへ戻っていたった。
俺は誰も戻ってくる気配がないのを確認すると1人寂しくグランドへ戻っていった。
『ただいまより午後の部を開始したいと思います』
ちょうど午後の部が始まるようだ。
こうなったらリレーで勝って美咲達を見返してやる!
俺は決意を新たに応援席に戻るのであった。




