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第十四話 : 弓道少女とシャベル男


熱中症にかかる方が増えて来るほどの暑い日が続いています。


皆さんもしっかり熱中症対策をしましょう!

じゃないとこんにゃくみたいになりますよ!



「おーい、パンが焼けたみたいだよー」


 川の近くに居る語歌堂さんに呼びかける。


 共有農場から少し離れた所に流れている、首都を挟むようにして位置する二つの川のうちの一つ。


 その川べりにおれ達は避難してきていた。


 ここから共有農場はそう遠くなく、こちらからは大きく広がる農場の白い柵と自動改札もどきなゲートを遠目に伺うことが出来る。

 いつ魔物が農場から飛び出してきても対応可能な地点だ。


 咄嗟に思いついた、『もし野菜の魔物が追ってきてもこっちは川を渡ることで逃げられ、相手は背が低いから川を越えづらい』という案に語歌堂さんも賛成したため、こっちに退避してきたのだった。


 でもその心配は杞憂だったようで、今の所どんな野菜も出て来る気配は無い。

 やはりベジタブルは改札を通れないのだろうか。


 想像してみる。

 おれと戦ったマッチョなジャガイモが改札機の前に立ち、懐からおもむろにICカードライクな紙を取り出す。


 ピョンピョンとジャンプする。


 そしてマッチョな腕でペタンと認証部分に紙を当てて、目の前の改札がガションと開く。


 …………。


 ……。


 いや、そこは下をくぐった方が早いんじゃ無いかな!?


 おれが頭の中でツッコむと、妄想の中のジャガイモはなぜかこっちにサムズアップした。


 何者なんだおまえ。

 妙に漢らしいな。


 ちなみに、その改札の所には看板が倒れていた。

 もちろん別に『ジャガイモ』とか書いてある看板ではない。


 『立入禁止』と書かれた看板だ。


 朝来た農場管理人のギルドの人が異変(腕の生えた野菜なんて異常に決まってる)に気付き、すぐさま看板を立てて皇宮に伝えに言ったらしい。


 しかしその人が焦っていたためか看板の据え付けが緩く、強風によってパタリと倒れてしまったようだ。

 確かにこの草原、今日は風が強い日みたいだな。


 つまりおれが入る時に看板が倒れていたため注意書きが読めず、ほいほいとあの中に入り込んでしまったのだ。

 どうりで受け付けの管理人とかも居なかった道理である。


 おれとジャガイモが戦った理由が完全に判らなくなった。



 それでまあ、現在は小休止を兼ねて農場の見張り中だ。


 でも、大体の敵は語歌堂さんがあの一瞬で倒しちゃったらしいんだけどね!

 確か、スターレインとか言う技。


 しかし、とんでも無い威力である。

 あの時飛び出してきた野菜を、全て打ち倒していたのだ。

 おれがポテト一体に苦戦していたのと比べて、別次元の強さだった。


 付け加えると、おれが最後に彼女と衝突事故を起こしたのは、全くの無意味だったという事になる。


 そうして申し訳ないやら済まないやらで倒れた語歌堂さんの手を引っ張って起こし、謝りつつ農場からの脱出を測ったのだ。

 謝罪率が100%である。


 お詫びと言っちゃあなんだが、現在は焚き火にパンを当てて乾燥させて消毒し、半分ほど振る舞うことにした。


 パンをそのまま持つと熱いのでツルハシの柄で突き刺して炙っている。

 人間としてその道具の使い方はどうなんだろうと思わなくもない。


 だが柄は川で洗ってから火で乾かしているし、語歌堂さんも大して気にしてはいないようだった。

 お互いガサツな性格なのである。


 と、川で土に汚れた上着を大胆に水洗いしていた、弓道着姿の少女が戻ってきていた。

 おれの分も洗っていてくれて、乾かすために火の近くの岩に並べて置く。


 ……色々おかしい所はあるが、取り敢えずパンを食べよう。

 そんなことよりおなかがすいたよ。


「もう焼けたのかな?」

「多分ね。もう水分がすっかり抜けてラスクみたいになってるよ」

「それは良いのだろうか……?」


 おれも知りません。


 でも、これを食べようとすると飲み物が欲しくなるな。

 いや最悪そこの川で構わないんだけど。


 それは語歌堂さんも同じ意見だったようだ。


「ふむ……」


 何やら自分の座る川原の石の横に置いていたバッグを探る。

 どう見ても合成繊維で出来ているあのスポーツバッグは、もしかして元の世界の物か?


 おれもバッグぐらい持ってくれば良かったなあ……。

 通学用のカバンは元の世界に置いてきちゃったけど、今は元気にしているだろうか。


 そして語歌堂さんは青色の液体が入った小瓶を二本取り出した。


「アケミヤ君はさっき戦っていたようだが、」


 おれに一本渡して言う。


 ビンは厚めのガラスで出来ていた。

 カップ酒などに使われているようなビンにコルクの上蓋うわぶたを嵌めたような感じ、と言えば形の説明になるだろうか。


 ガラスに厚みがあるのは雑な扱いを受けても割れないように、とか理由があるのかもしれない。


「戦闘でダメージは負っているのかな?」

「ああ、確かHPは減っていたかな」


 ジャガイモの突進をシャベルで受け止めたりしていたからな。

 多少は傷付いていたハズだ。


 腹部に手を当ててみると、ズキリと痛んだ。


「それなら丁度良かった。これ、ライフポーションを飲むといい」

「ポーション? てことは回復薬?」

「そうらしい」


 水も無しに食事というのも変だからな、と言ってコルクを爪を立てて引き抜く。

 途端、辺りの河原に薬っぽい匂いが広がった。


 焚き火を挟んで斜めに座ったおれの所までやって来るほどの強い匂いだ。


 ……食欲とかそういうものを根刮ねこそぎ奪っていく臭いだ。


「アケミヤ君、飲まないのか?」

「え、パンと一緒に飲むの!?」

「そうだが?」


 さも当然のように言う。

 え? これって食中に飲んでいい薬なの?


 もしかしたらヤバげなのは匂いだけで、味は普通かもしれない。

 嗅覚はアウトを出したが、味覚はGOサインが出るかもしれない。


「あ、ありがとう。いただきます」

「うむ。いただきます」


 あっさりと口を付けて飲む語歌堂さん。


 ……すぐに口を離した。

 顔をしかめる。


「……苦い」

「やっぱり苦いんじゃん!!」


 ほら見ろ言わんこっちゃない!


「やっぱり川で水を汲んで……」

「いや、まずはキミも試してみるんだ。話はそれからにしよう、是非そうしよう」

「えぇええ」


 微妙に恨めしげな顔でこちらを見てくる。


 なぜだ。


 なぜおれが悪いみたいな目で見るんだ。


 きっと飲んでみないと彼女は納得しないだろう。

 そもそもおれがダメージを受けていたためにポーションをくれたんだからな。

 コルク栓を開ける。



「にがっ!!」



 既に苦い!!


 臭いから既に苦いじゃんか!

 これでパンの付け合わせに食事メニューなんて考えつく方がどうかしてるわ!!


「さあ、ぐいっと飲むんだ」

「ら、ラジャー」


 それでも嗅覚を無視してビンに口を付ける。


 ごくり。


 途端に青汁が少し薄くなったようなエグい味がした。

 うおええ……。


「ああ、やっぱりコレはパンには合わないよ……」

「うむ。私も初めて飲んだが、ひどい味だ」


 えっ、あちらも飲むのは初めてなのか。


 まあそりゃあこの味知ってたら食事と一緒に飲もうなんて思わないよな……。

 それでこのタイミングで飲んでみようとするなんて、語歌堂さん、なかなかガサいや豪胆な性格の持ち主のようである。


 あれ、でもこの味、どこかで知ってるような……。

 この青汁ライクな苦味。


「そうか! これゼンノ草から出来てるのか!」

「む?」

「いや、味が似てるんだよ。おれが前食べた薬草に」


 ちょっと味は渋みや苦味が抑えられているが、これは間違い無くゼンノ草から生成された薬だった。

 ゼンノ草は回復薬、ライフポーションになることが確かに判明したのだ。


「なるほど。それならそのゼンノ草とやらから出来てる回復薬なのだろう」

「だね」


 そうして納得すると、身体が緑色に発光するのが判った。

 体力が回復したらしい。


 ステータスを簡易的に表示すると、HPが満タンになっている。


「体力が回復したみたいだ、ありがとね」

「構わないぞ」


 そう言いつつ半分にちぎったおれのパンを受け取る語歌堂さん。

 ポーションを膝の上に載せ、パンをぱりっと一口分に割って口に入れる。


「む、中々美味しいパンだな」

「そう?」

「そうだな、生地がしっかりしてるから食べ応えがあるな」

「へぇー……」

「甘みもあるから、ポーションを飲んだ後だと更に甘く感じるぞ」


 おれも齧ってみる。

 うん、美味しい!


 口の中の苦味がパリパリした生地で洗い流されていく。


「これならポーションもいけるかもしれないな」

「それはちょっと賛成しかねます」


 おれはその言葉に遺憾の意を示した。

 強気だか弱気なんだか判らない外交である。


 それに気にせず彼女はもぐもぐとパンをライフポーションと共に、いけるいけると言いながら食べ続ける。


 おれはまだかなり中身の残った瓶を手に途方に暮れた。

 いや、あんまり積極的にはお世話になりたくない味かな、コレ……。


 コルクを再度嵌めて返そうかと言うと、キミにあげようと断られた。

 どうせただで貰った物なので、別段あげても困らないとの事。

 それなら有難く戴いておこう。


 しばらくパンを食べ続ける。



 結構量の多いパンをお互いに食べきる頃には、焚き火のお陰で水洗いしたパーカーも乾いてきていた。

 半分にしても一人分以上はあったな、フランスパン。でけえ。


 フランさんから貰ったパンという事でフランズパンと言いたくなったが、まあどうでもいいか。


「あれ、そういや焚き火ってどうやって作ったの?」


 ふと気になった疑問を訊いてみる。


 おれが目を農場に注意を向けている間に、彼女が素早く焚き火を作っていてくれたのだ。

 でも一体全体どうやって火種をおこしたのかが未だに判らない。


 気合い?


 いや、それはテニス界の炎の妖精でもないとムリだろう。


「あれか?」


 空になったビンをしまいつつ、またごそごそとバッグを探る。

 と、すぐに何やら道具を取り出した。

 一見小型の銃のような、棒のような形状。


 ……チャッカ○ンのような形をした道具だ。


 最近あまり見ないよね、アレ。

 おれが使う機会が無いだけ?


「……それは?」

「火を付ける魔道具らしいぞ」


 河原にある適当な流木の中で、小さい枝を手に取る。

 それに向けて道具の先端を当てた。


「フレームは鉄で出来ているようだが、こうして引き金を引くと……」


 ボッ!


 ガチっと音がして、道具の先端から小さな炎が出た。

 火が当たった部分の枯れ枝が燃え出す。


 語歌堂さんはそれを見届けてから、枝を川に向かって放り投げて消火。


「先に取り付けられた炎の魔鉱石とやらが反応して、火が出る仕組みらしい」

「いや、チャッカ○ンだよそれ!!」

「……便利だろう?」

「便利だけど! 便利だけども!!」


 だけどそこまで形状を似させる必要は無いじゃん!

 外見から中身まで全くもってそっくりさんだった。


 いや、逆に考えるんだ。

 きっとそれを作った職人は、『火を付ける』という機能性を突き詰めていった結果その形がベストだと気付いた。

 そして偶然、元の世界、地球で見た着火装置と同じ形に落ち着いただけ。


 つまり、これは収斂しゅうれん進化のせいで似ているのだ。

 テクノロジーの進化の先は一点に収束するんだ。


 ……だいぶムリがある!!

 でもこれがおれのフォローの限界だ!!


 これ以上チャッカ○ンをかばうのはムリだ!


「貴重品だそうだが、まあ宮廷から貰った物だ。有難く使わさせてもらうさ」


 そう言って着火装置についての説明を締める語歌堂さん。

 またバッグに装置をしまう。


「そのバッグ、色々入ってるみたいだけど重くないの?」

「ん?」

「さっきもポーションとか取り出してたじゃんか」


 そういや弓は背負っているのに、矢はどこにも置いてあるように見えない。

 矢まで荷物として入れていたとしたら、結構な重量だろう。


「ああ、私はこのバッグを『アイテムボックス』にしたからな」


 さも当たり前のように言う。

 そういやそんな話を宮殿で聞いた覚えがある。


 確か……。


「まさか本当にバッグをアイテムボックスになれ、と念じるだけで収納量が大きく増えるなんてな。しかも重さもあまり無い。

 ヒカリ君は何を『アイテムボックス』に?」


 そうそう、そんな説明だった。

 書記官のリベリオールさんが解説してくれたんだったな。


 …………まあ、おれには無縁な話だけど!


 アイテムボックスどころかほぼ全ての『勇者補正』が無いけど。


 ほぼと言ったのは一応『眼』があるからだ。

 あれが無ければ即死だった。人生的な意味で。


 そして適当に誤魔化す。


「ん? ああ、城を出てから、今はちょっと宿に忘れて来ちゃってね! HAHAHA!」


 なぜ笑うおれ。


 やばい、語歌堂さんが変な顔をしてる!

 おれは必死に前の焚き火を眺め、ドモホルンリンクルを眺める仕事をする人のように熱心に注視した。

 更に必死に話題を変える。


「そうだ! 他の皆はどうしてる?」


 しばらく互いに無言で佇む。

 川の流れる音だけが妙に辺りに響く。


 少しして、小さく嘆息するのが聞こえた。


「後でその件については説明してもらうぞ。

 ……さて、どこから話そうかな」


 どうやら今はスルーしてくれるらしい。

 あからさま過ぎる姿勢を哀れんだ可能性もある。

 非常に悲しい気持ちになった。


「優也とか平野君とかは今何してるの?」

「やはりそこから聞くか……」


 と、今度は語歌堂さんの方が言いづらそうな顔をした。


 何かあったんだろうか。


「昨日あの後、更に詳しい説明を受けたんだが」


 彼女によると、儀式の間はその後尻切れトンボな感じで終わってしまったらしい。

 異世界の召喚に関する説明やこの世界の説明などは儀式の後に宮殿の人達から様々な説明をされたそうだ。


 その説明を受けてから勇者は、


「皆で宮殿の武器庫に案内されて、それぞれの装備を受け取ったんだ。

 八瀬君は巨大な大剣を、平野君は宝石の付いた長剣を貰っていたな。

 あとそれぞれに防具として鎧を誂えていたな、私は弓を扱う為にこのような外套を譲り受けただけだがね。これでも加護が掛かっているから、強力な防御力を有しているらしいぞ?」

「へえー……」


 確かに今干している、彼女の着ていた体格の割に大きめな外套(マント)を見れば、相当に立派な、言葉にするならかなりゲーム内でも『勇者』が持っている感じの装備である事が判る。

 元の世界から一緒に来た人はみんな、無事に勇者っぽくジョブチェンジしたみたいだ。


 おれ以外は。


 更にそのマントの横を見てみれば、流麗さをイメージさせる装飾が施された弓が置いてある。

 語歌堂さんの持っているそのどう見ても弱くは無さそうな大型弓を見る限り、それぞれに強力な装備を与えられた事も窺える。


 ……おれ以外は。


 思わず自分の背中をちらっと見た。


 まごうことなきシャベルがそこにあった。


 そっと目をそむけた。


「だが、武器を貰った後に宮殿での会食(パーティー)や再度皇帝との会談やらがあったのだが、その時くらいから私以外の二人がその、なんというか……」


 ん?


 語る口調が更に沈んだ。

 なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。


 急激に聞きたくなくなってきた。


 でも語歌堂さんはありのままを伝えてくれるようだった。

 続ける。


「なんというか、長い説明に飽きた感じになってしまってな」

「えっ」

「平野君に至っては皇帝との会談の途中、面倒くさい、と言って退出する始末……」

「……優也は?」

「エミリア姫やら会食に来ていた貴族の子女に色目を……」

「………………。」

「それで今日も農場で異変があったため勇者達に訓練がてら調査に向かって欲しい、という事だったのだが……」


 平野君は宮殿にある書庫に籠もり、優也はパーティーで知り合いになった貴族にお呼ばれした、と言って。

 パスしたらしい。


 どうしよう。


 どうしよう。


 四人居た勇者パーティーが2日目にして空中分解してる。

 一人は自分の世界に入り込んで、一人はナンパに行ってしまった。


 そして残る一人は宮殿でドヤ顔で半裸になり、シャベル持って根菜とガチバトルするへっぽこだ。


 誰一人として男性陣にまともな人が居ない。

 特に最後の人。


 ……なんか、非常に申し訳無い気持ちが…………。


「なんか、ゴメン……」

「いや、キミが謝ることでは無いさ。

 私に他の二人をこっちに連れてくる説得力が無かっただけで……」


 沈んだ口調でぼやく語歌堂さん。

 もうそのへこみようと言ったら、座って姿勢で前のめりになり前傾姿勢になっている程だ。


 ポニーテールも力無く垂れ下がっている。


 まあそっちは力強く立ち上がってても困るんだけど。


 おれは口下手なりにフォローする事にした。

 今度はおれの説得力が試されているんだ!


「でも、でもさ! 語歌堂さん一人でもさ!

 おれが苦戦してた魔物を弓で倒してたじゃん!! しかも一気に全部!」


 これが出来る限りのフォローだ。

 立ち直ってくれ!

 じゃないと非常に気まずい!


流星群(スターレイン)か? 確かにあれは強い技だったな」

「だよね! 最初の、確かペネトレイターってスキルだって一矢で何体も倒してたし!」


 たぶん、彼女はゲームで言うところの『弓使い(アーチャー)』に当たる能力を持っているのだろう。宮殿の時も確か「弓の適正がS」とか言ってたしな。おれは何も適正なかったけど。


 その時見た私服とは違って今は弓道着を着ているのはなんでだろうか。

 あれはどう見ても日本の白上着に紺袴だ。


 ちょっとあちらのモチベーションも回復してきたみたいだし、後で聞いてみようかな。

 

「まあ確かに、初めて使った割りには上手く成功したな」

「初めて?」


 あれ、あの技って使った事無かったのか。

 それはそれでスゴイ、けど。


「昨日の参加した、ちょっとした模擬訓練でレベルが2に上がって覚えた技だからな。

 試す機会は無かったんだ」

「へ、へえ……」

「それで今日はこの農場の異変調査ついでに、皇宮の騎士に連れられて実地訓練となる予定だったのだが……」

「………………。」

「他の勇者はおろか、ケビン君らの騎士達も『外せない用事がある』と言って、私一人で……」


 これはダメだ!

 説得は失敗だ!

 黒いオーラが出てるのが見えるもん!


 語歌堂さんのテンションゲージがゼロを振り切ってマイナスに到達してる!!

 放っておいたらそのままフォースの暗黒面に落ちてしまいそうだ。


 でもこれがおれのフォローの限界だ!!

 チャッカ○ンも語歌堂さんもかばえなかったおれの話術って!


 このままでは異世界にやって来た勇者が全員オワタ状態になってしまう。

 逃走1、放棄2、悪堕ち1だ。


 とんでもない事になっている。

 召喚されて二日で異世界がヤバい。


 さすがに彼女にコーホーとか言わせるワケには行かない。

 おれは無理やりに会話を繋げた。


「け、ケビンさんはどうして用事が?

 他にもグストさんとか居るんじゃない?」


 と言って膝に頭を付けた少女に声を掛ける。

 相手はゆっくりと顔を少しだけ上げた。


 ……上げたとは言っても膝から離れた位だけど。


「グスト君は確か今朝、私が任務を拝領して補給品を貰った後で会ったな。

 エミリア姫の部屋の前で立っていた」

「ふむふむ」


 姫様の警護をしていたのだろう。


 どうやらあの後キチンと彼自身の仕事に戻ってくれたらしい。

 そうするとおれも、そこまでグストさんに後ろめたい気持ちを持たなくても良いのかもし



「廊下の窓から外を見て、はあ、と溜め息をついていたぞ」



 何があった。

 彼に一体何があったんだ。


 いや、原因はおれか?

 でも何故そんな恋する少女のような感じになっちゃうんだ。


 おれは銀色の鎧を着込んだ人物が、窓辺に佇んで嘆息するのを想像した。


 ……激しくシュールだ!


「……ケビンさんは?」

「ケビン君はゴネリー隊長に外征の任務を押し付けられて、首都から離れてしまっていたな」

「……もういっそゴネリー隊長に同行を頼むとか!」


 (うずくま)る姿勢のまま、こっちをジトッとした目で見てきた。

 やめて、それ目つきが鋭めの人がやると怖いからやめて。


「キミ、あの騒ぎを見せといてそれを言うか?」

「まあそうなりますよね……」


 儀式の間での顛末を見届けた人に対して、隊長と仲良くしろなんて言う方が無茶だろう。

 一応同じ勇者仲間である彼女なら特に。


 あれではあの鼻息の荒い騎士隊長に良い感情など抱けるはずもない。


「それで私は、皇帝から直々に任務を受けて一人で来たと言うわけさ……」

「なんというか、お疲れ様です……」


 性格とか言動とかを見る限り、苦労しそうなタイプの人ではあるとうっすらは感じていた。

 だがまあ、蓋を開けてみればこんなに苦労性な少女だったとは……。


 おれとは若干違うベクトルで、彼女も不幸な目に遭っているようだ。


 そうだなあ……。


 なら尚のこと、こちらの不運に巻き込む必要は無いな。


「それなら、農場の件は早く顛末てんまつを皇帝に報告しないと行けないんじゃ?」

「む、そうだな」


 それでも任務は任務として果たそうと思ったのか、気を取り直す語歌堂さん。

 流石の真面目さである。


 ……だから損な役回りになっている、という感じもする。


「おれも市場が野菜不足だったからこっちに来たって理由があったからね。さて、昼前には帰らないと……」

「それならまだ時間はあるのでは?

 こちらが話すことは話した、次はキミの話を……」


 おれはよいしょと声をあげて立ち上がる。

 目の前で小さく燻っていた火の名残りを、足で踏んで消した。


 パーカーを羽織る。

 もう既に前に乾いていたパーカーは煙の来ない位置に置かれていたためか、あまり焦げっぽい臭いは付いていなかった。


「色々とためになる話が聞けたよ、助かった」


 この世界で生きる上で必須の知識は、恐らく宮殿に在中している彼女の方が多くたくさん持っているだろう。

 その情報の一端でも教えてもらうことが出来たのは、僥倖ぎょうこうであると言える。


 偶然とは言え、こんな場所で再会出来たのは運が良かった。

 ……うん、運が良かったのだ。


「それじゃ、ボクは農場の件をギルドに報告しなきゃ!」


 素早く荷物をまとめる。

 と言ってもパンを消費した今、持つのはシャベルとツルハシくらいだ。

 あとはライフポーションの飲みかけか。


 おれは語歌堂さんになるべく目を合わせず準備を整え、目を見ずに軽くお辞儀をした。

 冷や汗を見られないようにという匠の温かい配慮である。


「ではお先に!」


 すぐに後ろ、元来た街の方を向いて草原を歩き始める。


 そのまま。

 ゆっくりと十歩ほど歩いてから。

 距離を置いてから。



 スタンディングスタートから思いっきり走り始めた。



「うぉおおおお!! 『ダッシュ』発ど」

「『影縫い(カゲヌイ)』」



 後ろから声が聞こえたと同時、ヒュッと音が聞こえた。

 足元を突然手で掴まれたように引っ張られてバランスを崩す。

 草むらに板のように叩き付けられた。


「ぐわんぎ!!」


 鼻が! 鼻から先に地面に行ったよ!?


 涙目になって鼻を押さえる。

 おれの足はまるで地面に縫い付けられたかのように動かない。


 身体をひねって足を見れば、両足の間に一本の矢が突き立っていた。

 矢の周りを風が渦巻いている。


 スキルを使われたのだ。


 と、視界に影が差す。

 見上げると、紺色の袴が見えた。

 おろした右手で大きな弓を持っている。


「キミは、誤摩化すのが下手なんだな……」


 呆れたような口調。


 こちらからは逆光になって表情を窺い知る事は出来ないが、まあ多分口調と同じくらいには呆れているだろう。


 それでも諦めずにとぼけてみた。

 悪あがきとも言える。


「あの、流石に攻撃するのはヒドイ気が」

「束縛用のスキルだから問題ないさ。

 使うのは初めてだったが、矢張り上手くいったな」


 それに、と続ける。









「私もキミには、色々と聞きたい事があったんだ」



 まあ、そうなりますよね。

 

 


コルクは紀元前からあったらしいです。なのでエリネヴァスでも採用。


チャッカ⚪︎ンは……。

ドワーフの名匠が作り出したということで!


次回更新は明後日を予定しております。

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