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私が彼に恋した理由

 有川朝矢は最悪だった。


 口は悪いし乱暴者。近所のおばあちゃんがせっかく面白い話をしてくれていたというのに、こともあろうか上から砂をぶっかけるし、下級生を脅して荷物を持たせたりする。ときおり小さい子に手を出すところを見かけたこともある。

 もちろん私にも嫌がらせをするのだ。

 友達の桜花ちゃんと公園でゆりかごで遊んでいると、いつも一緒にいる子たちとともに思いっきりゆりかごを思いっきり揺らしたりする。まあ、結局は自分がゆりかごに当たって打撲したんだからざまあみろといった感じだ。学校でもそうだ。

 扉のところに黒板消しは仕掛けたり、虫嫌いな子の机の上に虫を載せたりとか、まあガキ大将丸出しな行動をする。

 だから、彼のあだ名は『ちっちゃいジャイアン』と呼ばれていた。

 行動がドラえもんに出てくるジャイアンっぽいけど、見た目が小柄でクラスで背丈順で並べば、かろうじて一番前ではなかったのだが、二番目だった。

 男女あわせて二番目。この学校の五年生四クラス全部合わせても身長低い順で三位内をキープしている。

 ちなみに私よりも頭一個分小さかった。

 だから、私を見上げる形になるのだが、こいつが見上げてにやりと笑う度に一種の恐怖を感じてしまうのだ。

「私、やっぱり、有川くん苦手」

 それを桜花ちゃんに話すと、

「ビビる。必要ないじゃない。ただのくそちびよ」

 という。

 桜花ちゃんにとっては対したことがないのだろう。いや、桜花ちゃんだけじゃない。『ちっちゃいジャイアン』はどんなにいたずらをしても、どんなに口が悪くても、なぜかだれも嫌っている節はなかった。


 私にはわからなかった。


 どうして恐れないのだろう。


 あんなに怖いのに


 なにをしでかすか分からないのに


 いたずら好きで


 小さい子を泣かせたこともあるのに


 どうして、彼の周りには人が集まるのか。


 私にはさっぱりわからなかった。


 そんなある日


 10月ごろだったのだろうか。


 彼の様子が少しちがっていた。


 相変わらず、悪戯もするし、荒々しい口調でいうけれど、どこか影を落とすようになったのだ。


「最近、有川くん。変だね」


 私が言った。


「そう? とくに変わらないと思うけどなあ」


 桜花が首を傾げている。すると、別の友達がなぜかニヤニヤと私を見ていた。


「へえ、めぐちゃんにはわかるんだね」


「え?」


「私たちにはまったく変わらないように思うけど、めぐちゃんにはささやかな変化がわかるんだあ」


 どういう意味なのかさっぱりわからなかった。


「ちょっと、めぐにへんなこと言わないでよね」


 桜花が相変わらずクールに言う。


「桜花ちゃも気づいていたんだねえ」


「……」


「え? なにが? 桜花ちゃん。なにが知っているの?」


 私が尋ねるも桜花ちゃんは答えてはくれなかった。


「教えてあげようか」


 他の友達がなぜか楽しそうにいう。


「やめてちょぅだい。ぜったいに面倒なことになる」


 桜花ちゃんのその一言でなぜかみんなが口をつぐんだ

 。


「そうね。いわないでおこう」


「え? どういうこと?」


 私にはまったく理解ができなかった。


 けれど、彼女たちが気づいた何かに私が気づくときがくるのは、もう少ししてからの出来事になった。


 11月の連休。私たちの地区の子どもクラブで山へ出かけたときのこと。


 私は、見たこともない化け物に襲われたことがあった。その時に助けてくれたのが朝矢だった。


 そのとき、なんとなくわかった気がした。


 怖かった。

 

 ものすごく怖い人だと思った。


 小学五年生のときに初めて同じクラスになって、初めてその存在を認知した時から本当に怖い人だと思った。気づけば、朝矢のことばかり追いかけていた自分がいる。


 そうか。


 私はこの人が怖いんじゃない。


 私はこの人が好きなんだ。


 本気で恋しているんだと思った。




 *********************************************************





「だから、いやだったのよねえ」

 

 桜花がうんざりしたような顔をしながら、愚痴る。

 

「どうしたの? そんな顔してえ」

  

 私はこんなにウキウキしているのに、なんで桜花はこんなに疲れた顔をしているのかしら?

 せっかくだから楽しめばいいのにと私は思う。


「せっかくのダブルデートよあ。楽しみなきゃ。損よ。そん」


 そう私がウキウキしているのは、いま遊園地にきているからだ。


「だれがダブルデートだ。ボケ」


 そんなことをいうと、不機嫌そうな顔をした朝矢の姿があった。その隣には、朝矢の親友であるヤギの姿がある。

 

 ヤギというのは私がつけたあだ名で本名は高柳成都。一時期、私たちの故郷の街に滞在したことのある人物だ。


「朝矢ああああああ。デートよ。デートでいいじゃないのーーー」


「うるせえ、だれもテメエと付き合ってねえだろうがこらっ。こら、くっつくな」


 私は朝矢に抱き着こうとしたが、思いっきり手で抑え込まれそこまで至らず。


 ふううう♡

 

 そういうぶっきらぼうなところもいいのよねえ。


 もう、もっと叱ってえええ


「なににやけてんだよ。ボケ。さっさといくぞ。遊びにきてんじゃねえんなだよ。わかってるのか?」


「はーい。わかってまーす。さっさと鬼退治として、デートしましょ♡」


「だれがするか。ボケ、よそでやれ。よそで」


「もういい加減にしてよお。ほらほら、騒ぎになり始めたわよ」


 桜花がいうと、さっきまで楽しそうな顔をしていた人たちから笑顔が消えて、恐怖へと変わっていった。


 こういうのって本当にただの恐怖よね。


 確かにそうよ。


 だって、目の前には見たことのない化け物がいるんだもの。


 あーんな化け物にはさすがに恋心抱けないわね。


 よし、


 あの化け物さっさと倒して、遊園地満喫するわよおおおおお



 そういうことで私たちは遊園地に現れた鬼になる前の状態であるアヤカシ退治へと向かった。



 

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