96話 雪原に行く準備です
『摩天楼』を出立したミズキたちは、『森の都』の中層にある雑貨店へと来ていた。主に寒い地域へ行く者たちを対象とした品揃えの店だ。
クーに準備は大丈夫なのかと聞かれ、特別なものは何も用意していないと答えた結果。
「馬鹿。無謀。考えなし」などと淡々と罵倒され、最初は炎属性装備もなかったと口を滑らせれば、「自殺行為」と断定されてしまった。
したがって、クーに抱きかかえられたミズキは、有無を言わさずこの雑貨店へと連行されていた。
「これが刺靴」
クーがミズキを抱え上げて見せたものは、靴に装着するタイプのトゲの着いた板だった。傾斜のあるところでは必須だと言う。
次は突杖と呼ばれるものを説明された。こちらは手で持ち、杖にしてバランスを保ったり、突き刺して体を安定させたりするものだ。
クーに次々と説明され、厚手のテントや敷物、火晶石ストーブやロープ、などといった装備をミズキたちは購入させられていた。
「それとこれ」
クーが示したのは薄い青色をした容器だ。保温器となっているこれに回復薬などを入れ、凍結から守るものだと教えられた。
「回復薬凍って死んだ馬鹿がいる」
少し長く話したかと思えば罵倒であった。回復薬が凍りつき、飲めなかった者がいたという話にミズキは笑うに笑えなかった。
一歩間違えれば自分もその一員になっていたかもしれないからだ。
「あ、でもボクの魔法箱は時間が止まってるか、劣化が止まってるらしいんですけど駄目ですか?」
「それなら大丈夫」
どうやら問題はなかったようでほっとした。
「私は買わないといけないね……」
ファティマの魔法箱は容量があるものの、そういった機能はないので保温器も購入していた。
次に説明されたものはゴーグルで、吹雪の中でも動くのならあったほうがいいものだ。
「今回は要らない」
クーに自分が居るから必要ないと言われる。しかし、自分たちだけで行くならあったほうがいいとのことだった。
吹雪のみならず、視界を遮る魔物も多く、それに可能な限り頑丈なものがいいとも教えられた。
「買うなら高いの」
「なんで頑丈なものが必要なんですか?」
舞う雪を防ぐだけならば、そこまでの強度は必要ないように思える。しかし、クーの次の言葉によって戦慄する。
「氷、目に刺さる」
『氷耳兎』の耳のような、でたらめな威力が風に乗って飛んでくるというのだ。目が潰されてしまえば、どうしようもなくなってしまう。
ミズキはその恐怖に震え上がった。
「あとはこれ」
クーの示す棚にあったものは火守と呼ばれる、氷属性に対抗するためのお守りだった。
種類はいろいろなものがあり、目の前にあるものだけでも札やペンダント、指輪や腕輪などが並んでいた。
「これも高いの」
可能な限り性能の良いものがいいと言われた。二つ目までは効果は十分に重なるが、三つ目からは守りの効果が薄くなってしまうらしい。
「これはどうしますか?」
「要る」
ゴーグルと違い今回から必要なようだ。
「ならどれがいいんでしょう?」
「全部駄目」
「へ?」
一瞬、何を言っているのかわからずミズキは固まってしまう。
「全部弱い、競売行く」
雑貨店に売られているものは必要最低限のものばかりだったからだ。厳しい探索に耐えうるものを求めるならば、競売がいいと言われた。
そして、数ある競売所のなかでも上層の一角にある、規模の大きい競売所へとミズキたちはやってきていた。
以前見た競売所と同じようにカウンターで仕切られ、その向こうでは忙しく動く者が見えている。
建物内に設置された席に座ると、クーは黄色の結晶板を取り出し操作し始めた。
「今回はこれ」
店員に欲しいものを探してもらったり、壁で掛けかえられている札から探したりもできるが、一番楽な方法はこの結晶板を使って探すことだった。
ファティマもクーに続き、自分の結晶板を操作し始める。クーは結晶板を操作していきながらミズキに所持金を尋ねた。
「えっと……え!? 二三○万!?」
カードに記載された金額を見たミズキが驚愕していた。ジャラックとの共闘で稼いだ金額が五○万シリーグだったはすだ。
それから家を十二万ほどで購入し、回復薬などの必需品を購入していたので残りは三○万ほどだと思っていた。
しかし、それがカードには二三○万と表示されている。
どこでそんな大金をと思ったが、そういえば暑さでバテているときに、ジャラックから大共闘の分配金を渡されたことを思い出す。
よもやそのような大金だったとは欠片も思っていなかった。




