91話 アルマのことが大好きな一九九一
ミズキの中でアルマという人物が、いかがわしい商売をする人になり始めてしまった。しかし、ほかにも気になることがありその想像は一度棚上げする。
「ほかにはどんなものがあるんです……?」
「そうですね、いろいろありますけど一緒にそい寝おぷしょんや、一緒にお食事おぷしょん。それにわたしたち世話係りの数を増やしたり、女の子か男の子かを選べたりもできますよ」
「へ、へぇ……」
この世界では当たり前なのだろうか。子供と過ごす団らん的なものを提供しているならば、問題ないということなのか。
思考をぐるぐるさせていると一九九一に声を掛けられた。
「それで一緒にお風呂おぷしょんはどうしますか?」
「お願いしようかな」
「わかりました!」
そう言うと一九九一はすぐに袴を脱ぎ始め、一糸纏わぬ姿となった。
そして硝子のはめ込まれた扉を開き、階段を降りた先にある湯船へと浸かった。すぐに温かい湯が体に染み渡り、全身の力が抜けていく。
一九九一も気持ちよさそうに耳をひくひくと動かし湯を楽しんでいた。
「そういえば気になってたんですけど、一九九一って変わった名前ですよね?」
「わたしたちではこれが普通なんですけど、やっぱりめずらしいですか?」
一九九一は顔を洗いながら続きを話していく。
「この名前にも理由があるんですよ。わたしは一九九一番目にアルマさまに作られたんです」
驚くべきことに、番号がそのまま名前となっていた。
「随分多いですけどほかにもたくさん居るんですか?」
「そうですね、今のくわしい数はわからないですけど、前に聞いたときは一万にいくかいかないかだったと思いますよ」
「そ、そんなに……」
「アルマさまはすごいんです!」
そう話す一九九一が胸の前で手を握り締めていた。
それはそれとして、一万もの存在を作りだす者など想像すらできない。
ミズキが思うアルマと言われる人物の影は、おぼろげながらも大きくなり続けていた。
「あ、そういえばさっき銀色の髪の人に注意されたんだけど、あの人も一九九一ちゃんみたいな人だったのかな?」
「それはきっとクロニカさまですね。『摩天楼』で二番目に偉いかたです。アルマさまは九本あるうちの一本をわたしたちに与えられました。もう一本を使いクロニカさまを作られたので、兄弟みたいなものかもしれません。どちらもお優しいかたですよ」
そう話す一九九一は目を細め、その二人へと思いを馳せているようだった。
「ただ、どちらもめったなことでは会えないのが少しさびしいですけどね……」
狐耳を垂れさせ悲しそうにする。
「なかなか会えないのは寂しいですよね……ボクも大好きだった人にはもう二度と会うことができませんから良くわかりますよ」
「えへへ、なんだかなぐさめてもらっちゃいましたね。あ! でもアルマさまはいつもわたしたちを見守ってくださっていますよ! どこまでも見通すことのできるかたですから!」
「そういえば〈千里眼〉って言われてたんでしたね」
「はい、アルマさまはそのようにも呼ばれていますね! この『摩天楼』であくじを働くふとどきものが出ようものなら、けっして見逃しませんし許しませんよ!」
話を聞いたミズキが彷彿したものは防犯カメラだ。常に監視されていると思うと安心できる反面恐ろしいとも思う。
それにひとつ納得のいくこともあった。どうして小さい子たちが働き、接客していたのかだ。
見た目は可愛いのだが、金銭のやりとりだけでも危険な目に会うかもしれない。
しかし、力ある者が全て見ているのではそうそう無茶はできなくなるだろう。
「なんだかちょっと怖いね?」
「だいじょうぶですよ! とてもお優しいかたですから。あ、わたしたちにきがいを加えようとしたり、おどしたりなんかすると怖い人たちが飛んできてしまうので、気をつけてくださいね……?」
申し訳なさそうに、一九九一がこちらをチラチラとうかがいながらに話す。
無論、ミズキにはそのようなつもりはなく問題はないのだが、そういう者たちが居ると思うだけで怖くなってしまう。
名づけるならば狐組だろうか、などど考えていると一九九一の耳がぴんと立った。
「え!? あ、ごめんなさい。ちょっと待ってくださいね」
そう言うと一九九一は目を閉じ、耳をひくひく動かし始める。耳の動きが激しくなっていき、尻尾までもが水中でわさわさと動いてしまっていた。
いったいどうしたのだろうとミズキが見守っていると、一九九一は目を突然カッと開いた。
目を開けたかと思えば激しく水しぶきを上げ、ミズキに突進し抱きついてきた。
「あああ、あ、あの! 良かったらなんですけど、今からアルマさまとお会いになりませんか!? お願いですから会うって言ってくださいいいい!!」
ミズキの肩をがくがくと揺らしながら、一九九一が必死の形相でそんなことを言いだした。




