88話 ジャグジーです!?
ミズキたちの向かった先は、泡がゴボゴボと出ている湯船の前だった。
遠巻きにミズキたちを見つめている者たちが居たが、ミズキは気づくことなくクーへと話しかける。
「泡が出てるのはジャグジーですか?」
「わからない。たぶんそう」
「そんなお風呂もあるんですね~」
「一緒に入る?」
「クーさんもこういうお風呂が好きなんですね!」
ジャグジーを体験したことのあるミズキは、泡のこそばゆい感覚を思いだし。そんな感想を漏らしていた。そして、つま先を湯船につけると。
「あっつううううい!?」
後ろに倒れたミズキが転げ回り、慌てたファティマに水を掛けられていた。
泡の出る風呂はジャグジーなどではなく、沸騰しているお湯、もとい熱湯だった。
「熱過ぎじゃないですか!?」
勢いよく起き上がったミズキが叫ぶ。しかし、クーを見れば首を傾げていた。そのことにミズキは驚愕する。
クーが一歩を踏みだすと、周りで見守る者たちが息を呑んだ。しかし、クーは気にすることなく熱湯の中へと入ってしまい、辺りにどよめきが起こった。
「あの、クーさん……熱くないんですか?」
「そこそこ」
そこはかとない恐怖を感じる光景だ。それに何に対してそこそこなのか、ミズキにはわからなかった。
信じられないことに、平然と浸かっている様子から熱くはないのだろう。
「一緒に入る?」
ミズキは全力で首を振った。つま先を触れさせただけであれほど熱かったというのに、全身を浸からせたら、どうなるかわかったものではない。
「残念」
クーは本当にそう思っているのか、視線を少し下げて悲しそうにしていた。
「全部これにすればいいのに」
いきなり恐ろしいことを言い始めた。もし、風呂の湯が全て熱湯になどなってしまったら、誰も入れなくなるだろう。
やがて満足したのか、熱湯からクーが上がり。
「寒い」
ミズキは嫌な予感がした。即座に振り向き、その場から離れようとしたがクーに捕まってしまう。
「ぎゃああああ! 熱いです、熱いですぅぅぅぅ!?」
先ほどまで熱湯に浸かっていたクーの体は、凄まじく熱くなっていた。
必死に逃げだそうとしても逃れることはできず、その体がぴったりと張り付いている。ミズキがばたばたともがくが、放されることはない。
そして涙目でぐったりとするミズキを、クーが抱きかかえ脱衣所へと向かった。
ミズキがクーに体を拭かれていると、一九九一が白い煙と共に目の前へ現れる。
「かえの服を持ってまいりました!」
「わ! びっくりしました……」
そうして一九九一が持ってきたのは、ミズキたちが着ていたものと同じ袴と浴衣だった。
ミズキは浴衣よりも袴のほうが馴染みがなく、いつもと違った格好を楽しめるからと袴にしていた。
また、クーも同じく袴を選び、ファティマは浴衣にしていた。
「浴衣のほうが着心地がいいからね」
ミズキがファティマの浴衣姿を見ていると、そんなことを言われた。
それに一九九一の気配りか、どちらの服も背中が開いたものだったが、ファティマは浴衣のほうがいいようであった。
そして、背中が開いていることで浴衣には見えず、ある意味扇情的でもあったが、背中に羽があるのでは仕方がないのだろう。
「では『花風流水』の階層へはどうしますか?」
「今回も転移でお願いしようかな」
「かしこまりました!」
一九九一が戻る方法を聞けばファティマが答え、両手を合わせて鳴らすと言葉を紡いでいく。
「道繋ぐ助けを、他を見失わぬ道しるべを、〈転移〉、『花風流水』!」
一九九一が言い終わると同時に両腕を広げ、ミズキたちは白い煙に包まれる。煙が晴れればそこはミズキたちが宿泊する建物の中だった。
「一瞬で移動できるなんで便利なんですね?」
「わたしたちはこの『摩天楼』の中ならどこへでも転移できますよ! これもすべてアルマさまのおかげですから!」
ミズキが思っていたことを呟くと、一九九一は小さい体ながらも胸をそらし、誇らしそうに答えた。
「あ、夕食はいつお持ちしましょうか」
「どうしよっか?」
「ボクはお腹が空いてますし今からでもいいですよ」
ファティマとミズキが話す横で、クーは何も言わすに頷いていた。
「かしこまりました! すぐにお持ちしますね!」
言うや否や、一九九一が白い煙に包まれるとその姿を消した。
待つことしばし、一九九一がほかの狐っ子を連れて戻ってくる。狐っ子たちは手に皿や食器などを持ち、大皿は掲げるようにして運んでいた。
そして、狐っ子たちが手と耳と尻尾をせわしなく動かしていく。ちょこちょこと動き回れば、机の上にはあっという間に料理が並んでしまった。




