85話 大浴場に向かいます
「では案内しますのでついてきてくださいね!」
一九九一がビシッと手を上げてから案内し始める。門を通り過ぎ建物の中へと入っていくと、橙色の照明で照らされた玄関が目に入る。
これより先は土足厳禁のようで、ミズキたちは魔法箱へと靴をしまった。
それからは外の景色が見える渡り廊下を通り、ミズキたちはいくつかある部屋のひとつへと案内された。
部屋はゆったりとできる十分な広さと、畳の香りのする落ち着ける空間になっていた。
それから窓の外には池の庭園と、儚く花を散らす木も見ることができ、室内でありながらも景色を楽しむことができた。
「ごらんのとおり窓からは庭の景色が楽しめますが」
反対側にある扉を一九九一が開き案内する。扉の先は縁側になっており、露天風呂へと繋がっていた。
「こちらには露天風呂があります。『森の都』の景色を楽しみながら入ることができるようになってますよ!」
露天風呂の向こう側には簡素な柵があった。そしてその奥に見える、『森の都』の景色を一望のもとに収めることができた。
しかし、柵の向こうとはいえ、かなりの高所であることにミズキは息を呑む。
「落ちたりしたら大変ですよね……」
「あ、それはだいじょうぶですよ!」
そう言うと一九九一が柵を飛び越えてしまった。
「うえええ!?」
「大丈夫だよミズキ」
「無事」
ミズキはいきなりの出来事に驚いて固まってしまったが、二人は動じていなかった。
クーが近くまで歩いていくと、一九九一が少し下に居てこちらに手を振っていた。しかし、その体は宙に浮いているように見える。
「『摩天楼』はアルマさまによって外の光を中で見えるようにしていますので、一見外に見えても建物の中ですので安心です!」
そう言うと一九九一は何も無いように見える空中を跳躍して戻ってくる。着地のポーズを決め、腰に手を当て満足そうに胸を張っていた。
それから一度部屋へと戻ったミズキたちに、一九九一が注意事項を説明していた。
「『摩天楼』内でのけんかや魔法のしようはダメですからね!」
戦闘行為や魔法などを使うと、大変なことになり、最悪捕まってしまうと言われてしまう。
「では気をつけないといけないこともお伝えしましたし、あらためてこの一九九一がみなさまのお世話をさせていただくことを、よろしくおねがいいたします」
正座した一九九一がお辞儀をする。その動きはゆっくりとだがしっかりとしていた。
しかし、先の白い柔らかそうな尻尾がゆらゆらと揺れていたことで、やはりどこか可愛らしいものになってしまっていた。
「よろしく」
「こちらこそお願いするね」
「よろしくお願いしますね!」
クーはいつもの調子で一言だけ。ファティマが頷く横で、クーに抱えられたミズキは元気よく答えていた。
「あ、それとみなさんにはこの鈴をおわたししますね!」
一九九一が渡したのは、朱色の紐がついた銀色の小さな鈴だった。
「その鈴を鳴らしてもらえればうかがいにまいります。わたしが近くに居ないときにご用があればそれでお呼びください! あ、それと汚れた服はおあずかりしますね。かわりの服はあちらにありますので着替え終わりましたらお呼びください!」
一九九一は説明し終わると、室内にあるついたての向こうへと行ってしまった。
薄紙の貼られたついたての向こうには、正座したままの一九九一の姿が見えたので、そこが待機場所なのだろう。
三人が用意された袴に着替え終わると、着ていた服を一九九一へと手渡した。
「それでまずはどうしますか? こちらにある露天風呂なら落ち着いて入れますし、大浴場ならたくさんのお風呂がありますよ。大浴場は室内と露天の両方がありますのでお楽しみいただけます!」
「どうしよっか?」
「大浴場」
ファティマが二人にどちらがいいかを聞くと、クーが即座に呟いた。
「ミズキはそれでいいのかな」
「ボクはどちらも入りたいですけど、まずは大浴場にしましょう!」
「うん、わかった」
「では直接向かわれますか? 先ほどのように歩いて向かわれますか?」
三人の意見がまとまったところで一九九一は確認する。
「遠いし今回は直接でいいよね?」
「いい」
「お任せします!」
ファティマの確認にクーは一言答え、抱かれたままのミズキは元気良く返事する。
「かしこまりました!」
一九九一が両手を叩いて合わせた。
「道繋ぐ助けを、他を見失わぬ道しるべを、〈転移〉、大浴場!」
一九九一が両腕を広げ、声を発すると辺りが白い霧に包まれる。霧が晴れると、すでに大浴場への入り口らしき場所へと移動していた。




