83話 出迎えた者は幼い狐
「お泊りですか? 浴場のみをご利用になりますか?」
カウンターへと向かったミズキたちを、受付の狐っ子が少し舌足らずな喋り方で対応していた。
「泊まりでお願いするよ」
「宿泊場所はいかがしますか?」
そう言うと、狐耳の女の子はカウンターの下から資料を取り出し、ミズキたちに広げて見せてくれた。
しかし、資料には凄まじい種類の部屋や庭園などの絵が記され、ミズキにはとてもではないが選べそうになかった。
「お決まり次第声を掛けてくだされば案内をいたしますので、ゆっくり決められますよ」
ミズキが物怖じしたのが伝わったのか、狐っ子がホール内にある席を勧めてくれた。それから三人は席に座ると、どの場所にしようか相談する。
「数がたくさんあってどれにしようか迷いますね!」
未だクーに抱かれたミズキが心躍らせていた。
「たくさんあるからね。じっくり選ぼうか」
「お風呂があればどこでも」
ファティマがぱらぱらページをめくる横で、クーはあまり興味がなさそうにしていた。
「むむむ、この庭園ってどうなってるんですか? 建物の最上階なんでしょうか?」
「この庭園、というか『摩天楼』は空間を歪めて? いるらしいから、建物の中でも外のように見ることができるらしいよ」
ミズキが疑問を口にすると、ファティマはページをめくりながら、『摩天楼』の仕組みを話してくれた。
「そうなんですか!? それはすごいですね、露天風呂とかもあるんですか?」
「そういうのを選べばもちろんあるよ。大浴場にも露天があるしね」
「大浴場も露天なんですか! う~、でもやっぱり景色のいいところがいいです!」
「うん、それならこういうのはどうかな」
ファティマが指差したページには、池が綺麗な夜の庭園が記されている。そして、通路や建物に橙色の明かりが灯る、美しい景色でもあった。
「おお、綺麗です! ここ、ここにしましょう!」
「じゃあここにしよっか。ええと……値段は一泊一万二○○○シリーグだって。やっぱり結構高いね……」
「え、かなり高いんですね……」
十日も滞在すればミズキの家が買えてしまうほどだ。ほかの値段を見れば四○○○シリーグのものから、高いものでは一○○万シリーグのものまであった。
ほかにはオプションのようなものまで記載されており、可愛い狐っ子と共に過ごすものや、一緒にお風呂に入ったり、共に寝たりできるようなことが書かれていた。
いろいろあるなかで、性別の指定が可能という、いかがわしい文言も記載されていたほどだ。
ミズキはそれには気づかず、身を乗り出すようにしてうなっている。所持金には余裕があるものの、迷うにたる金額だったためだ。
うんうんうなっているとクーがぼそりと呟いた。
「私が払う」
「え? そんな、悪いよ……」
「いいんですか?」
ファティマが申し訳なさそうにし、抱きかかえられているミズキは後ろ向きにクーを見上げていた。
「私の所為」
ここに来ることになったそもそもの理由は、全身が炭だらけになってしまったからだとクーは言う。ならば自分が負担するという申し出だった。
「どうせ没収される」
先の被害補填に男からお金を没収されるとのこと。どうせ取られるのなら使ってしまえというものだった。
「気にしないで」
ファティマは煮え切らない様子で考えあぐねていたが、それもすぐに終わり。
「ならお言葉に甘えようかな」
それからはどこに泊まるかを決めた三人が、先ほどの受付へと向かう。
「この『花風流水』の階層宿にしたいと思います」
「かしこまりました!」
元気良く返事をした狐っ子が手元の水晶板に手をかざす。すると近くにもう一人の狐っ子が、ぽんという音や煙と共に現れ大の字で着地した。
金色の髪の上に乗る耳は少し垂れている。そしてショートカットが元気な印象を持つ、朱色の袴を着た可愛らしい女の子だった。
「お迎えにまいりました!」
「一九九一ちゃんはこの人たちを案内してくださいね」
「わかりました!」
そう言うと、一九九一と呼ばれた狐っ子は「ちょっと失礼しますね」と断りを入れ、ミズキの手を掴んで引き寄せた。
「まだ未熟なのでこうしてこすらないとうまく印がつけられないんです」
そう言いながら、引き寄せた手に頬ずりし始めてしまう。しっとりと柔らかく、ぷにぷにとした感触が伝わりミズキは顔を赤らめる。
ほかの二人にも同じように印を付け終わるとにっこり笑った。
「案内は転移で向かわれますか? 歩いて向かわれますか?」
「初めての人も居るし歩きでいいかな?」
「はい、いろいろ見て回りたいです!」
「かしこまりました! ではこちらにおいでください」
ファティマとミズキが答えたあと、狐っ子に案内されまず向かったのは、ホールの周りにある昇降機だ。
その前で待つことしばし、昇降機の格子扉が開く。昇降機の中には別の狐っ子が乗っており、こちらは耳が尖った髪の長い子だった。
「何階まで向かわれますか?」
「三十階までおねがいします!」
中に居た狐っ子に一九九一は元気良く答えた。
「かしこまりました」
狐っ子がそう言うと、大分低い位置にある、手元の結晶版へと手をかざす。すると昇降機が静かに動きだした。




