75話 見知らぬ少女は連行される
魔女エマヴィス・リティスの領域にミズキの明るい声が聞こえた。
「話は聞かせてもらったわ!」
ミズキを待ち構えていたリティスが目の前に居た。
「魔法剣くらい作ることなんて簡単よ!」
「え、なんで知ってるんですか?」
「細かいことは気にしなくていいのよ」
ミズキの疑問をリティスはさらっと流す。
「あの、ボクも魔法剣を使うことってできるんですか?」
「ミズキちゃんには無理ね。魔力の扱いがド下手だもの。それはもう絶望的なことに驚くほどに悲惨極まりない下手さよ」
「ひどいです! 何もそこまで言わなくてもいいじゃないですか!」
魔法剣を使ってみたいというミズキの小さな望みは砕かれてしまう。そんなミズキの抗議などリティスはどこ吹く風だ。
残念ではあったがミズキは亡霊の剣との戦いを思い出す。
「あ、そういえば〈魔力刃〉を使ったらすぐに爆発しちゃったんですけどなんでですか?」
以前に使ったときにはもっと長い時間使えていたというのに、今回は使う間もなく爆発してしまったからだ。
「それは魔力量が跳ね上がってしまっているからかしら。いったい何をしたの? それでは『ばとるん二号改』が全く耐えられないわ」
「わからないです……」
ミズキは身に覚えがなかった。なぜこんなことになってしまっているのか、まるでわからない。
「それはそれとして問題は素材ね」
「ひどいです! もう少し考えてくださいよ!」
ミズキの抗議を無視したリティスが話を続けていた。
「属性はそうね、氷属性のものがいいわね。それもなるべく品質のいいやつがいいわ」
「氷属性ですか?」
「そうよ! 氷の魔法剣はロマンがあるわ!」
諦めて肩を落としたミズキが質問をすれば、リティスが熱弁と共に思い切り机を叩いた。
その衝撃でミズキの体が飛び上がったのも気にせず、リティスは続けている。
「とにかく氷よ! 氷なのよ! いい氷属性の素材を持ってきてくれたら最高の魔法剣を作ってあげるわ!」
断言されてしまえばよくわからないミズキは頷くしかない。
しかし、氷の魔法剣でいいのだろうか。氷魔法のイメージといえば相手の動きを鈍くしたり、氷で動けなくしたりと地味なものだ。
そのほかには氷の結晶や氷柱で攻撃するといったくらいのものだった。ミズキは首を傾げながら鏡の中へと歩いていく。
「あ、言い忘れてたけどってもう居ないわね。まぁそのうち戻ってくるしいいわよね」
*
ミズキがリティスの下へ向かっていたときのことだ。
箱庭に存在する『森の都』の上空には眩しく輝く『|全て慈しむ紫光』と、青い面を下に向けた『変転せし六光』が浮遊している。
どのような原理かはわからないが陽炎が見えるほどだ。そんな揺らめく景色の中、暑そうに道行く者の姿は皆が一様に薄着であった。
じりじりとした強烈な暑さは人々を辟易とさせる。そして、一人の少女がポータルを潜ってやってきた。
腰まで伸びる流れるような銀の髪が綺麗な、じっとりとした目つきの少女だ。しかし、その服装は変わっていた。
茶色のダッフルコートの上にもこもこのケープを羽織り、真っ白な毛で覆われた帽子と耳当てを付け、首もとにはマフラーが巻かれている。
さらにはミトンと、膝下まであるブーツにタイツまで穿き、見るからに暑そうな格好だ。通りかかる者がチラチラと見る中、少女は一言呟いた。
「寒い……」
そう、今は寒い季節のため防寒着は必需品だろう。いや、そうではない。
いかにも暑そうな格好をした少女が信じられないことを言ったが、本当に寒いのか両腕をさすっている。
その少女のところへ男がやってきていた。
「よー、やっと来たなクー。知らせは届いてただろ?」
クーと呼ばれた少女が無言のまま、男を剣呑な目つきで見上げ不満そうに呟く。
「炎の城塞使いたい」
「やめてくれ。前から言ってたとおり『大雪原』にいくんだからそこでいくらでも使えるだろ」
クーは行きたくないとそっぽを向いていた。しかし、男は慣れているのかそんな態度を気にすることなく話しかけ続ける。
「それにもうみんな準備できてるんだぜ? 頼むから青の月くらいは働いてくれよ」
「や」
クーが拒否するも、男は有無を言わさずその手を掴み引きずっていった。
「やだ。寒い。離して。人でなし」
クーは余程嫌なのか、男に引きずられながら呪詛を唱え続けていた。




