71話 ファティマの修復魔法
部屋に逃げ込み古びたベッドの裏へと二人は隠れていた。
「これからどうしよう!?」
恐怖のあまりミズキはファティマへと抱き着いていた。
「とりあえず隠れてやり過ごせればいいんだけど……」
何か固いもので床を削る音が聞こえ、その音は近づいてきていた。そして音が止まる。
過ぎる僅かな時間が長く感じ、恐怖に高まる鼓動の音がうるさいほどだった。息を潜む室内に、ガチャガチャとドアノブを回す音が響く。
ミズキは悲鳴を上げそうになったが、ファティマがその口元を押さえていたおかげでかろうじて叫ぶことはなかった。
そして、きしむ音と共に扉が開くと白い靄が部屋に立ち込めひんやりとする。
それからまた床を削る音が聞こえ、音がさらに近づいてきた。
「~ッ!!?!?」
ベッドを隔てた向こう側に居る亡霊は辺りをゆっくり見回した。ふとその視線がある場所で留まる。
ベッドの近くにあった化粧台だ。亡霊が化粧台に近づき下を覗き込む。
ミズキたちにもその姿がすぐそこに見えていた。振り向けば目と鼻の先だ。
嫌な冷気がこちらに漂ってきていたが、今物音を発してしまえば確実に見つかるだろう。
しかし、このまま見つからない保障などなく、今はただ気配を殺すことしかできない。
限界まで緊張した時が過ぎていく。このまま何事もなく立ち去ってほしい。そう願い、やけにゆっくりとした感覚の中、亡霊が振り向いた。
「ぎゃあああああああ!?」
かくれんぼで友達を見つけたような笑顔が見えた気がしたが、立ち上がった亡霊はすでに剣を振るっていた。
ファティマがミズキを投げ飛ばし自身も跳んで避けていた。ベッドがなぎ払われ木屑やバネといったものが飛び散る。
転がっていたミズキが起き上がれば、壁際まで追い詰められたファティマの姿が目に入った。
(助けなきゃッ……!)
しかし、武器と言えるものはなくどうすればいいのかわからない。自爆などしようものならファティマを巻き込んでしまう。
あるのは『ばとるん二号改』の柄だけだ。いや、柄があった。これなら棒状の武器と呼べなくもない。
どうなるかわからないが、なるようになれとミズキは走りだす。
「うりゃあああ!」
振り降ろされた剣の横を突き、その軌道をずらすことに成功する。その隙にファティマは危機を脱しミズキと合流することができた。
「ファティマさん大丈夫ですか!?」
「ありがとうミズキ、大丈夫だよ。その棒は?」
ファティマがミズキの持つ棒に目を留めていた。
「これはさっきボクが使っていた長柄戦斧の柄です!」
「全部消えちゃった訳じゃなかったんだ。それならなんとかなるかも!」
柄だけとなった『ばとるん二号改』を見たファティマが喜んだ。
「まずは一旦逃げるよ!」
「わかりました!」
二人は部屋を飛び出すとホールへと向かい、ファティマが立ち止まり振り向いた。
「その長柄戦斧を直すよ」
「え、直せるんですか!?」
「ちょっと大変だけど、装備も直すことができるからね。全部失くなっちゃってたら無理だけど……」
「それでもすごいです!」
回復魔法は怪我だけを治せると思っていたミズキには思いもしなかったことだ。
「私はこれしかできないからね」
そう言うとファティマは赤く輝く腕と羽を形成した。それから光る腕を柄に添えて詠唱する。
「赤命は全てを直す。生命魂魔の万物よ、あるべき姿へ戻れ、〈修復〉」
『ばとるん二号改』の柄が眩しい赤色の光に包まれた。柄がみるみる伸びていき、斧部が出来上がっていく。
文字の描かれた部分も修復され、銀色の刃もその姿を取り戻した。元通りになった『ばとるん二号改』をファティマが手渡す。
「おお、すごいのです! 完全に元通りですよ!」
「これでなんとかなりそう?」
「任せてください!」
何かがぶつかる音がして振り向けば、亡霊が階段を降りてきているところだった。
しかし、今はもう怖くなどなかった。慣れ親しんだ武器があるというだけでどれほど心強いことか。
ミズキは亡霊に向かって走り、長柄戦斧を振り上げる。対する亡霊は剣を振り下ろした。
交差し、火花が散る。
ミズキは下へ叩きつけられるようにして落ち、亡霊の剣は大きく弾かれていた。
ミズキは着地すると同時に跳躍していた。三角跳びの要領で横の壁を蹴り、剣の横っ腹へと長柄戦斧を振り抜いた。
金属のひしゃげるような音が響き、剣が衝撃に耐え切れずに中ほどからへし折れた。そして、切断された亡霊の巨剣が粒子となり散っていった。
白い靄が晴れ気温も元に戻ると、先ほどのおどろおどろしい雰囲気は完全に霧散していた。




