37話 アラムとの再会
顔を見上げると青灰色のフードとマント姿の男がそこに居た。やはりフードは目深に被られ口元しか見えない。
「アラムさん?」
「まさかこんなところに住んでいるとはな」
アラムは以前と変わらずぞんざいに言った。
「なぜ泣いている。それに随分とひどい格好だな」
指摘するようにミズキの顔は赤くはれ、その服はボロボロでかろうじて体に引っかかっているような状態だった。
「これは負けちゃって……」
服の切れ端で涙を拭うミズキに、アラムは黒いポンチョを取り出すと投げ渡した。
「これでも着ていろ」
ミズキはとりあえず上から羽織ることにした。サイズがかなり違い、ポンチョのすそが足元近くまで来ている。
「それと約束のものを持ってきた」
そういうとアラムが鉱石を手渡してくれた。鑑定をすると『永遠鉱石』と表示され、時の素材のようだということがわかる。
「ありがとうございます……」
「あまり嬉しそうじゃないな」
ミズキの沈んだ声音にアラムが反応した。
「ちょっと落ち込んでて……」
「ふん? なら少し散歩にでも出かけるか?」
「散歩ですか?」
突然そんな提案を出され、首を傾げればくせのある髪が揺れ動く。そういえばと、夜の街をミズキは回ったことがなかったと思いいたる。
「ああ、こっちはその気があればだが、頼みたいことというか試してみたいことがあってな。いいか?」
「構いませんよ?」
アラムの頼みとあれば断る理由もなく、ミズキは了承した。
「助かる。前に言っていた光だったな。それは夜のほうが見やすいということで合っているか」
「そうですね、夜のほうが見やすいですよ」
「ふむ。なら高所から光の方角だけでも教えてくれないか」
「それはいいのですけどどうやって見るのですか?」
光の方向を教えるのは構わないが、周りには建物があり近くの光しか見えない。
「いや、俺が直接上空まで連れて行く」
アラムがミズキを抱える。両足を左腕で抱え、右腕を背中に回すいわゆるお姫様抱っこであった。
「へ?」
アラムは空を駆け上がる。階段を何段も飛ばすかのように空中を上へ上へと疾駆していく。
「えええええええ!?」
驚いている最中にもぐんぐん上昇し、すぐに『摩天楼』よりも高い上空へ到達してしまった。
「これなら全て見えるだろう」
眼下に広がるは数多に輝く光。夜の『森の都』には橙と紫色の光が多いが、ほかにも多くの色の光がひしめき合い、街の輪郭を浮かび上がらせていた。
そればかりか光は街に留まらず、ここから見える範囲全てに七色の光があった。
周囲の森はもちろんのこと、遠くの山にも光が溢れ、なかにはひときわ眩しく輝くものが点在していた。
「わぁ! キラキラがたくさんです! こんな景色初めて見ました! すごいです! 高いのが少し怖いですけど光がたくさん、たくさん見えますよ!」
「そうか。俺が見える光といえば『森の都』のものぐらいだが。大きい光は見えるか?」
「えっと、あっちとあっち、あと向こうにも見えます」
目を輝かせるミズキが特に明るい光を指差していった。
「なるほど。いい情報が聞けた、感謝する」
「あの、良くわからないんですけど」
なぜ光の位置を聞いたのかミズキはわからなかった。
「ああ、大きい光のあるところにいい素材があるかもと思ってな」
「なるほど、そうだったんですね。……あの、もう少しこうしててもいいですか?」
この景色をもう少し見ていたいと、遠慮がちにアラムを上目に尋ねる。
「まぁ、いいだろう」
「ありがとうございますアラムさん!」
満天の星空の元で輝く笑顔は満面のそれだ。数多の光とは違った輝きがあり、見る人を暖かくしてくれる。
そんなミズキの笑顔にアラムは顔を逸らした。
「元気が出たみたいだな」
ぼそりと呟いた。
「なんだか吹っ切れた気がします」
「何をそんなに思い悩んでいたのか知らないが、悩みなんて案外なんとでもなるものだ」
「そうなんですか?」
「アラムさんは、お化けとか変な形の人はどう思いますか」
ふと疑問に思ったミズキは問いかけてしまう。ジャラックみたいな人を、アラムがどう思っているのかを。
「なんだそれは」
「やっぱり見た目が違うと避けたくなりますか」
「見た目が違うなど考えるだけで面倒くさい。俺の判断基準は単純だ。俺に利益をもたらすかどうか。俺の邪魔をするかどうか。身内かどうかだけだ。障害は全て叩き潰す」
なんでもないことのように淡々と告げていった。
「すごい割り切るんですね」
「力さえあればほとんどのことはどうにでもできる。これでもそれなりに強いほうだ。何かあれば、頼れ」
「ありがとう、ございます」
ミズキは気遣ってくれたことが嬉しく、アラムにきゅっと抱きついた。嫌そうな顔をされたが、何も言われなかった。
家の前で降ろされたミズキはアラムと別れ、庭で素振りをしていた。いろいろな型の素振りを一心に行うその顔は晴れやかだ。
興奮も次第に収まり、また木に水をやりながらジャラックにどう謝ろうか考えていた。
もう一度寝ようとベッドに入るも、そのことばかりを考えてしまい、なかなか眠ることはできなかった。




