35話 ミズキは憤る
「一緒に戦うってことですか?」
「そうです。大共闘と呼ばれる大勢で迷宮に行く集まりがあります」
「大勢だと何かいいことがあるんです?」
「少人数では勝てない魔物と戦うことができますし、その分実入りも大きくなりますよ。大共闘ごとの報酬分配方法には目を通さなくてはいけませんが」
ジャラックの話を要約すると、大人数のほうが効率良く素材やお金が稼げるということだった。
「なるほど。ボクは構いませんよ」
ジャラックのほかに人が増えたとしても問題はない。そう思っていたが、次の言葉で当たり前だと考えていた前提条件が崩れ去ることとなる。
「わかりました。それとミズキ一人で参加する場合があっても構いませんか?」
ミズキは二人で参加するのだと思っていたが、違う場合もあるようで困惑した。
「え、ボク一人ですか? ジャラックさんは何かやることがあるんです?」
「いえ、私はこのような姿ですので参加が認められない確率が高いですから」
「……見た目で参加を断られることがあるってことですか?」
ミズキはまさかと思いながらも確認した。違うと言って欲しかったがその願いは叶わない。
「そういうことです」
返ってきたのは肯定の言葉。
ミズキとしては裏切られた思いだった。
自分一人で大共闘に参加してどうするというのか。
一緒に居たいと思っていた。これからも協力して探索していこうと思っていたのは、自分だけだったのか。
そもそも、ジャラックを否定するような者たちと一緒に居るなど考えたくもない。一人で居るほうが何倍もマシだ。
「ボクは、ジャラックさんと一緒じゃないと嫌です」
顔をうつむかせ、以前のことを思い出す。ここに来て心細かった自分に、初めて手を差しのべてくれたのがジャラックだった。
そのことがどれほど勇気付けてくれたことか、その度合いは計り知れない。
「それだと参加までの時間が掛かるか最悪参加できませんよ……?」
なぜ、そのように悲しそうな顔をするのか。嫌なら嫌と言って、前と同じように一緒に探索に行ってくれればいいのに。
嫌だという思いを押し殺してまで、自分のことを考えてくれるというのはもちろん嬉しくもある。
けれど、道行くそばにジャラックが居ないのならそんなもの、無意味だ。なぜなら。
(ボクが、ジャラックさんの支えになりたいから)
今は支えるどころか、逆に世話をしてもらっているような状態だ。けれどいつか、少しでも力になりたいと思っているから。
(ただ帰るだけじゃ、ないんだ)
思いを胸に顔を上げ、溢れる感情がジャラックの提案を拒否してしまう。
「ボクはどれだけ時間が掛かっても待ちますし、ジャラックさんの参加が認められないなら行く気なんてないです! ボクは探索に行くつもりだったので今から行って来ます……!」
*
ジャラックと別れたミズキは、『燐光樹回廊』と呼ばれる森に来ていた。
『森の都』の北、その奥地に存在する森の木々は、並の木よりも巨大なうえ全てが淡く輝いている。
また、生息する魔物も大型のものが多く、ほかの者ならば一人では来ることのない場所だ。
風の導き石に強い魔物が居る場所へ行きたいと念じた結果、ポータルをくぐりこの森へと足を踏み入れていた。
ミズキは八つ当たりのように地面を踏みしめ行く手をにらんでいる。
この世界の者たちの意識と、ジャラックのそれでよしと言わんばかりの言い方に憤りを覚えていたのだ。
理不尽な怒りだということも理解している。理解はしているが、ミズキは腹が立たずにはいられなかった。
もう少し信用されていると思っていた矢先の出来事で、まるで足手まといだからと、一人で参加することをうながされたように感じたのだ。
押さえられない感情によって冷たい態度を取ってしまった。そのことも後悔と自己嫌悪が襲いかかり、今もミズキの心を蝕んでいた。
無力な自分を突きつけられたかのようで悔しく、そして悲しい。助け支えてくれたジャラックを、自分は支え返すこともできないのかと。
目に涙を浮かべるも、歯を食いしばることでかろうじて泣かずにはいられた。ことは単純ではなく、強くなったところで何も変わらないかもしれない。
しかし、それでも、ミズキは淡く光る大樹の森を歩き続けていた。
そんなミズキの行く手をはばむようにして、重く響く足音と共に虎のような魔物が現れる。
普通の木であれば一撃でなぎ倒せそうなほどに巨大な、白と黒の虎がミズキを見据えていた。
ミズキは無言でにらみ、カバンから長柄戦斧を取り出し構える。虎が飛びかかり、ミズキが走りだす。
両者がその足で、武器でもって、衝突する。
長柄戦斧に途方もない衝撃が加わるが、折れることはなかった。しかし、ミズキ自身は弾き飛ばされ巨木に叩きつけらる。
一方で巨大な虎もかなりのダメージを負い、振り下ろした前足が血にまみれていた。倒れるミズキへと別の前足が容赦なく振り下ろされる。
ミズキに逃れるすべはなく、踏み潰されそのまま光に覆われ消失した。




