34話 鐘の鳴る木
ミズキが至福の時間を過ごしていた。そのとき。
ゴーン! ゴーン! ゴーン! ゴンゴンゴンゴン!!
窓が、床が、壁が、この家だけでなく区域全体が震える、苛烈極まりない大音声が突如として轟いた。地震のように全てを揺らす衝撃の正体は鐘の音だ。
考えうる常識全てを放棄したのかと思えるほどの鐘の音が、周囲を破壊しそうな勢いで鳴り響いていた。
「ぎゃああああああああ! 頭が! 頭が割れるぅぅぅぅぅぅ!!」
ミズキがベッドの上でのた打ち回り、その体が次第にずれていく。ベッドから落ち床に叩きつけられたがそれどころではない。
そのあともしばらく鐘は鳴り続けていたが、次第に音が収まっていく。やっと静かになったところで、息も絶え絶えにミズキが呟いていた。
「……リアルトさんの言ってた騒音って……もしかして、これのこと!? うぇ、なんだか血の味がする。音も聞こえない……ボク、喋ってるよね?」
起き上がり幽鬼のように水場へと向かう。通路の壁に当たりながらもたどり着いたのは洗面所だ。
鏡に映ったその顔はひどい有様で、鼻からは血が垂れていた。顔を洗い終え、広間にある椅子に座ると力尽きるように机へと倒れこんだ。
(それにしても一体何が音の原因なんだろう……?)
しばらく休憩してからやっとの思いで立ち上がる。原因を探りに玄関から出て周囲を見まわしても特にそれらしいものはなかった。
鐘の音だったことはかろうじてわかったので、それらしいものがあればわかるはずだが見つけられず、一度家に戻ってから庭に通じる大窓へと向かう。
窓から出た広い庭には大きな木があった。巨大な幹、青々と茂る葉、地面から無数に伸びる根があり、その姿は揺ぎない大木そのもの。
広大な緑の傘が日の光に照らされる姿は壮観でもあった。
しかし、ただの木ではない箇所がある。それは枝先に巨大な、鐘が吊り下げられていることだ。
「わぁ、すごい大きな木! あれ、もしかしてさっきの音はこれ……?」
大木を見上げるミズキがひとつの考えに行き着いた。
「もう! それにしたってもうちょっと静かにしてくれてもいいじゃないですか!」
憤慨やるかたないミズキは両手で巨大な幹をぺちぺちと叩く。
ゴンゴンゴンゴン!
「ぎゃあああああああ! ごめんなさい! ごめんなさいいいいい!」
耳を押さえるもさしたる効果はなくその場でのた打ち回る。
「ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ……」
騒音の原因は特定できたが、どうすることもできないという結論にミズキはいたった。あまり眠れていないこともありもう一度眠ることにしたのだが。
ごんごんごんごん!
「ッ……!!?!?」
鐘の音にミズキが飛び上がるが、勢いがありすぎてベッドから落ち床に叩きつけられる。
ミズキはふらふらと木に向かい、その威風を恨めしそうに見上げていた。
「おはよう、ございます……」
疲れきった顔のミズキが挨拶すると、木もわずかに身じろいだ気がした。
そして、なんとなくだが水が欲しいと言っているように思ったミズキは、足元がおぼつかないながらも家に戻る。
そして備え付けられていたじょうろに水をくみ始めた。なぜこんなことをしているのか。
そんな疑問が胸中にあったが、戻ったミズキがちょろちょろと木に水をやっていると、喜んでいる気がしてまぁいいかと諦めた。
「鐘が鳴るのは仕方ないけれど、もう少し静かだったらいいのになぁ……」
しゃがんだ状態で頬杖をつきながら呟いた。それから家に戻ったミズキは、疲れが取れるまでごろごろしていたがあることに気がつく。
(そういえば保管するコレクションがない!?)
ミズキは起き上がり、ランドセル型魔法箱を背負うと探索に向かうことにした。
探索に行けば強くなれるうえに、時の素材やコレクションが集めることができ、正に一石三鳥だと気づいたのだ。
しかし、意気揚々と玄関の扉を開いたところで、ジャラックとばったり会うことは予想していなかっただろう。
「あれ、ジャラックさん」
扉を開き見上げたまま固まる。
「こんにちは、ミズキ。無事に家が買えたようですね。ここに居たのは予想外でしたが……」
「あはは……」
ジャラックの言葉尻が小さくなったのは、あの木があるからだろう。
「今日は確認のために来たのですよ」
「確認ですか?」
きょとんとしたミズキが何回かまばたきをする。それにしても確認とは何があるのだろうか。
「ミズキが可能ならばですが、ほかの者たちと共に戦うことになっても構いませんか?」
しかし、ジャラックから伝えられたのはミズキの予想していないことだった。




