33話 無事に家が買えました
今居る場所は一言で表すなら箱状の空間だ。中央には数階分の高さの吹き抜けがあり、その周りを各階の通路がぐりりと囲んでいる。そんな巨大な空間だ。
周囲の通路を貫くようにして、いくつもある昇降機が上下に動いている。それと吹き抜けの真ん中、横に一本だけ通っている通路が印象的だ。
橙色の明かりが室内を照らし、組み合わさった木が温もりを感じさせてくれていた。視線を戻せば最下層の壁に金属板が張り付いているのが見える。
そこには番号が書かれており、これが各方面への案内となるのだろう。ミズキはリアルトに案内され、番号が一五と表記された通路へと入っていった。
「街はまだあまり見て回ったことがなくって、すごく新鮮で楽しいです」
「『森の都』は大変広いですからね。隅々まで見て回るのは現実的ではないほどです」
一番通路に入ると急に人の密度が減っていった。歩きやすくはなったが、どうしてなのかという疑問が生じる。
「人が少なくなっちゃいました」
「そうですね。やはり今から行く場所は人が住んでいないのでその所為でしょう」
人の密度が減ったといっても行き交う姿はいぜん多くある。
円状のプラットフォームに到着し、待つことしばし。ベルの音とともに列車が入ってくると目の前で停止した。
乗り込み座ったところで再びベルが鳴り、『列車』が揺れと共に動きだす。
しばらく景色が流れる駅に差しかかるが、駅には止まらずに通り過ぎてしまった。
「あれ、駅には止まらないんですか?」
「そうですね。止まりたい場合はこちらのボタンを押す必要があります」
リアルトが説明するボタンを見れば確かに停車と書いてあった。
「それと駅に待つ人が居る場合にも止まりますよ」
揺れが続き、いつしか車内にはミズキたちしかいなくなっていた。
『列車』が円状のプラットフォームに入ると停止する。ここは目的地である北端の駅だ
降りたミズキたちは階段を登り大通りへと出るが、通りを歩く人はごくまばらであった。
二人は人通りのない大通りをしばらく歩いていく。大通りから少し外れたところにミズキたちの目指す家屋があった。
「この辺りの物件はほとんど私が管理しているのですが、見てのとおり」
「人が居ませんね……」
にぎやかさなど一切なく、逆に静か過ぎるくらいだ。およそ騒音となる音は全く聞こえない。
「まったくお恥ずかしい限りです。ご紹介した物件はこちらになります」
家は木材と石材が調和した造りで適度な緑に覆われている。
外から見ただけでも中はかなり広そうだ。軒先のある玄関には吊るされた木看板が揺れていた。
「見てのとおり、最上層にある建物ですので日当たりは良好です。私が定期的に掃除に来ているのですぐに住むこともできますよ。もちろん備え付けの家具もありますが、一部設備は無償で取り付けに参りますので必要でしたらお越しください」
話しながらもリアルトが玄関の扉を開いていた。
「かなり大きい庭がありますのでそこでゆっくりすることもできますが……いえ、とにかく中を案内しますね」
中に入るとかなり広い居間が目に入った。
「わぁ……!」
壁や床は木造りの落ち着く良さがあり、奥には庭に続く大窓が設置されている。
その窓からは大きな一本の木が見える庭があった。全体はわからないが相当に広いことがうかがえる。
窓から目を移し、天井を見れば色とりどりの六角水晶が吊り下げられていた。
各部屋を見て回ればロフトのある寝室や、部屋が丸ごと保管倉庫になっているものまであった。
お風呂もかなり広く作られおり、その窓からは庭を見ることも可能だ。
ミズキの知っている家とは随分おもむきが違い、素晴らしい家にミズキが目を輝かせて喜んでいた。
「お気に召していただけましたか?」
「すごくいいと思います!」
振り返ったミズキが元気良く答えた。
「それは何よりです。もし良ろしければ契約書類を持ってきておりますので、契約が済み次第ご利用いただけますよ」
「ぜひお願いします!」
「……本当によろしいので?」
ミズキの躊躇いのない返事に、リアルトが戸惑いながら確認する。
「はい!」
ミズキが迷いなく了承すると、リアルトは契約書を取り出し必要事項を書いていく。
「では最後に、確認の後こちらへカードを押し当ててください」
ミズキがカードを押し当てると契約書が光った。
「これで契約は成立しました。ありがとうございます」
「ボクのほうこそありがとうございます! よければ今度、またお話聞かせてもらってもいいですか?」
「構いませんよ。大体は店におりますのでいつでもお越しください」
リアルトはちらりと自身の持つ時計を見ると、挨拶もそこそこに去っていった。
「これがボクのお家……! でもこの場合は一軒家って呼べるのかな? はわぁ、でも眠いからいろいろ見て回るのは明日かな……」
ミズキは寝室へ向かうとベッドに潜り込んだ。やがてすぐに寝息を立て始める。部屋にはわずかな衣擦れの音と息遣いだけが聞こえていた。




