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31話 ミズキは家が欲しい


「家ですか? 相場には詳しくないのでわからないですね。でも急にどうしたのですか?」

「リティス様のところにコレクションを置いてたら、また使われてしまうと思うんです。なので大事なコレクションを保管できる場所が欲しいんです」


 魔法箱に保管しておいたとしても、ふとした拍子に使われてしまいそうな懸念が残る。そのうえ容量もどれほどあるかわからない。


「それで家ですか。そうですねぇ、買うのでしたらなら不動産屋でしょうか」

「不動産屋さんですね!」

「早速行ってきますか?」


 うずうずしているミズキの様子に、ジャラックは苦笑していた。


「え、でもいいんですか?」

「構いませんよ。素材の精算もすみましたし」

「ありがとうございますジャラックさん!」


 ミズキが勢いあまりジャラックにぎゅっと抱きつく。しかし、慌てたジャラックに引き剥がされ持ち上げられていた。


 脇の下辺りをつかまれたミズキがきょとんとしている。


「恥ずかしいのでやめてください」


 持ち上げられいるミズキがにんまりと笑う。


「善処します!」


 妙な間が開き、何か引っかかりを覚えながらもジャラックはミズキを降ろした。


 ミズキは今回の迷宮のお礼を伝えたあと、ジャラックに満面の笑顔で短い腕を振り、近くのポータルへと走っていった。


   *


 ジャラックと別れたミズキは不動産屋へと向かっていた。


 家を購入した場合、競売で時の素材を買うことができなくなり、元の世界へ戻るのが遅くなってしまう。しかし、それはそれ、これはこれだ。


 元の世界へ帰ることも気に入ったものを収拾することも、どちらもミズキにとっては大切なことだった。


 収集とミズキは切っても切れない関係であり、それをやめるということは息を止めるに等しい。


 ゆえに、ミズキは中層の一角にある不動産屋へと来ていた。


「ごめんくださーい」

「いらっしゃいませ。本日はどういったご入用で?」


 椅子に座りミズキを出迎えたのは、かなり小柄な壮年の男性だった。細いフレームでできた眼鏡が落ち着いた雰囲気をかもし出している。


「素材を保管できるようなスペースのある家が欲しいんです」

「なるほど。ある程度の間取りも欲しいのですね。上層、中層、下層とありますがご希望は?」

「あの、上層や中層ってなんですか?」


 なんとなく階層のようだとミズキは思っていたが、良くはわかっていなかった。


「そうですね。少し長くなりますが説明しましょう」


 そう前置きし語り始める。『森の都』は大まかに3つの層と最上層に分けられる。


 ミズキが聞いた限りでは最上層は屋上のようなものだと理解した。


 上から順に最上層、上層、中層、下層というつくりになっており、下から積み上げていったため、このような構造になっているらしい。


 上層は比較的新しくできた層で、ほかの層とは異なり統一されて作られている。


「そのため高さを調整して平面状に作られているので、利便性が向上したんです」

「平面だと便利なんですか?」

「ええ、以前は無作為に作られ、とても入り組んだ構造で迷路のようになっていますから」


 思い当たるミズキが顔をしかめ嫌そうにする。忘れたくとも忘れられない、迷子になったことだ。


 中層は一番厚い層で、手当たり次第に増築され続けたことで巨大迷路のようになってしまっている。


 下層は大河の上にできた街であったが、『森の都』を支える木の根で覆われてしまい、今では暗く狭いこともあり住む者は少ない。


「ですから下層はおすすめできません。なのでやはり上層か中層でしょう。ご予算はいかほどですか?」

「えっと、足りるかはわからないのですけど五○万シリーグくらいです」

「それですと厳しいかもしれません。少々お待ちください」


 そう言うと手元にある書類を確認し始める。


「すみません。やはりこの近辺でそのご予算内ですとなさそうです」

「あの、近くなくてもいいのでありませんか?」

「そうですね。ほかの区域は管轄外なのですが、あるにはありますよ。……ですがなにぶん騒音がひどい地域なのでおすすめできないものでして……」


 煮え切らない表情で言葉をにごした。


「そんなにひどいのですか?」

「ええ、それはもうひどいものです。地図をお見せしましょうか。こちらが今私たちが居る場所になります。こちらがくだんの地域なのですが、上層部に誰も住まない範囲がぽっかりとあるのです」


 広げた地図、その北の辺りを線で囲んで説明していく。ミズキは背の高い机の上をなんとかのぞき込み地図を見ていた。


「え、誰も住んでいないのですか?」

「はい。それほどまでに耐え難いということでしょう。できれば私も近づきたくはないものです」


 ミズキは葛藤かっとうする。騒音は確かにつらいかもしれない。けれど、コレクションを守るためなら仕方ないのではないか。


 必要な犠牲、もとい対価だと思えばいいのではないかと。


「そのみんなが住まないところだといくらくらいなんですか?」

「そうですね」


 後ろの棚から資料の束を取り出し机の上に広げた。


「こちらの物件ですとこれくらいですね」


 資料には一二万五○○○シリーグと書かれていた。ミズキの所持金でも余裕を持って買える金額だ。


「や、安いです……」

「これでも全く売れませんが……」


 男が肩を落とし落ち込むが、ミズキにとっては好都合だった。今すぐ家が欲しいことからもここしかないと考える。


「ここを見てみてもいいですか? うるさいのはなんとか我慢します」

「いいのですか? こちらとしましても大変助かりますが」


 信じられないといった顔で聞き返されてしまう。


「はい、お願いします」

「失礼、そういえば名乗っておりませんでした。私はリアルトと申します」


 リアルトが名乗り、机に手をついて丁寧にお辞儀した。ミズキも慌てて名乗り頭を下げる。


「あ! ボクはミズキって言います」

「ミズキさんですね。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 それからリアルトは服のポケットに手を入れ、取り出した懐中時計を見ると軽く頷いた。


「時間も大丈夫そうなので向かいましょう」


 通りを歩くミズキたちはポータルを横目に通り過ぎる。疑問に思ったミズキが立ち止まりポータルを見ていた。


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