29話 迷宮の主
迷宮の最深部にある大部屋。そこには迷宮の主と呼ばれる存在が鎮座していた。巨大な犬ような石像だ。
その牙は全てを噛み砕くだろう強靭さがうかがえる。四肢は太く、その爪で襲われればひとたまりもないだろう。
しかし、迷宮の主と呼ばれる存在の不運は、この大部屋の上に小部屋があったということだろう。
災厄が瓦礫と共に降りかかる。
無数の瓦礫が階下のモノへと襲いかかり、粉塵を辺りに撒き散らす。
決して小さくはない、硬質かつ重質量の塊が主の頭、胴体と、いたるところに凄まじい衝撃を与え押しつぶしていった。
不運はまだ終わらない。
「ううりゃあああああ!」
この惨劇を生んだ張本人の凶刃が、不運なものへと振り下ろされた。
胴体が砕け散り体は二つに分断され下半身は音を立てて崩れ落ちる。そして苦悶の悲鳴と共に暴れまわった。
一拍遅れてジャラックが降りてくる。それと同時に剣を目に突き刺していた。
石像がでたらめに前足を振るが、すでに後方へ跳んでいたジャラックにはかすりもしない。
それどころか、ミズキの振り上げた長柄戦斧によって前足を切り飛ばされてしまう。
最早抵抗しているかすら怪しい状態だ。そんな主へと慈悲なき言葉が投げかけられた。
「ごめんね」
跳躍からの振り下ろしによってその頭が砕かれ、光る粒子となって散っていく。ミズキがジャラックへと振り向き、誇らしそうに胸をそらした。
「どうですかジャラックさん!?」
「とてもかわいそうだったと思います」
そうして迷宮の主を討伐した二人は素材を探していた。瓦礫がそこかしこに散乱しているため集めるのに苦労している。
瓦礫をかき分け無事に集め終わり、今は素材の扱いをどうするか、二人が瓦礫に座り話し合っていた。
「この素材はどうしましょうか」
ジャラックがミズキに尋ねる。
「時の素材はないんですよね?」
「そうですねぇ。ここへはミズキの練習にと思って来ていたので時の素材はありませんね」
「でしたら全部ジャラックさんの分ということでいいんじゃないですか?」
今回の探索に必要だった費用は全てジャラックが出している。
ミズキとしては、強くなるための練習についてきてもらったという感覚が強く、今回の探索で得たものは全てジャラックのものでいいと考えていた。
「それは公平ではないのでやめておきましょう」
「でもボクじゃ使い道がないかもですよ? リティス様なら何か考えられるかもしれないですけど……」
ミズキがほしいものは時の素材で、それ以外のものは使い道がわからなかった。
「いえ、一度競売に出して売却額を当分すればいいのですよ」
「競売ですか?」
オークションのようなものだろうか。ミズキは良くわからず、指をあごに当て首を傾げた。
「競売所に依頼して私たちの変わりに売買してもらうんです。時の素材を競売で購入することも可能ですよ」
「なるほど! そういう方法もあるんですね!」
お金を貯めれば時の素材を購入し帰ることができる。自力で集める必要はないことにミズキは目からうろこだった。
「ですから次は売却方法ですが、即売と依頼売却とがあるのですがどうしましょうか」
「売り方にも種類があるんですか?」
「はい。大まかに言えば時間を掛けて多くの利益をあげるか、時間を掛けずに最低限の利益を得るかになります」
「ジャラックさんはどっちがいいと思いますか?」
「即売がいいと思っていますがどうですか?」
次の探索の準備や買いものにお金が必要なこともあり、ジャラックがそう提案した。
「いいと思いますよ?」
「わかりました。ではそうしましょうか」
相談を終えた二人はあとで再会する約束をして、それぞれの魔女の領域へと光に包まれ帰還していった。
*
魔女エマヴィス・リティスの領域にミズキの満足そうな声が響いた。
「ただいまです~」
「あら、おかえり。何か収穫はあったの?」
ソファーに座り本を読んでいたリティスが振り向いた。
「ジャラックさんと一緒に行った迷宮を攻略してきました!」
「それはすごいわ。いい素材もたくさん取れたの?」
ミズキの元気いっぱいな報告に、リティスが顔をほころばせ嬉しそうにする。
「ごめんなさい。素材はジャラックさんと共有なので売っちゃうんです」
「それは残念ね、でも安心して。新しく武器を作ったわ!」
続くミズキの言葉で残念そうにしたのもつかの間、急に立ち上がると誇らしそうに宣言した。
「新しい武器ですか?」
「これよ!」
エリティスが手の平に乗せているのは長柄戦斧だった。特段、形状が変わったようには見えないそれ。
「前回は修復機能を付けただけで満足してしまっていたけれど、すぐに壊されてしまうのでは意味がないわ。その反省を生かして今回はとにかく頑丈よ!」
こちらを勢い良く指差した。
「今のでもすごく丈夫だと思うんですけど……」
「足りないわ! 全然足りない! 今回作ったこのばとるん二号は一号と決定的に違う機能があるのよ!」
握り拳をつくり熱く語り始める。
「どんな機能なんですか?」
「それは一定以下の衝撃をそのまま跳ね返すのよ! こちらが受ける衝撃も相手に跳ね返すから威力も上がる優れものよ!」
「なんだか良くわからないけどすごいんですね!?」
良くはわからないが、とりあえず威力が上がることにミズキは驚き喜んだ。
「我ながら恐ろしいものを作ってしまったわ。これだけの威力があればその辺のものを壊すことだって可能なはずよ!」
「壁や床がもっと簡単に壊せますね?」
「え?」
「え……?」
純粋に楽になると思ったミズキが言葉を発すると、妙な間ができてしまう。
「んん! 壁や床を壊すことも可能に違いないわ!」
気を取り直したリティスがくり返した。
「はい! でも素材ってありましたっけ?」
「…………」
「リティス様?」
急にリティスが顔を背け沈黙する。ミズキがいぶかしがるが、かたくなに顔を合わせようとしない。
しかし、やがて小さく独白した。
「……使ってしまったわ」
「何をですか?」
「あなたの家に保管してあった素材……全部、使ってしまったわ……」




