28話 ものは試し
手ぬぐいを受け取ったミズキが今度こそ仕切りの向こうへと消え、しばらくすると服を着たミズキが戻ってきた。
「さっぱりしました!」
「それは良かったです。私は疲れましたが……」
食事を終えるとミズキはすぐに眠ってしまう。いつもはもっと時間がたたないと眠れないジャラックだったが、疲れているので早く寝ることにした。
「しかし、寝る時間がこうもずれるとは……」
ジャラックが思い描いていた当初の予定からは、かなりずれてしまっていた。
ミズキが予想より早く寝たかと思えば、起きる時間の速さもまた予想以上なのだ。
よくはわからないが、動くのに多くの活力が必要なのかもしれない。ミズキが特別早寝早起きなのだろう。漠然とだがそう思うことにしていた。
それにそもそも日をまたいだ探索は疲れるものだ。慣れてしまえばあまり苦には感じられないが、初めてとなればやはり疲れてしまうだろう。
朝になったばかりだったが、静かな寝息と毛布のすれる音がときおり聞こえるだけとなった。
*
薄暗い部屋の中、ミズキはむくりと起き上がる。その横ではまだジャラックが寝ていた。
それまで使っていた毛布をジャラックに掛け足すと、ミズキは離れたところで素振りを始める。
しかし、今回はそれほど時間がたたずにジャラックも起きてしまい、日課の素振りは中断となった。
手早く食事を終え、探索を再開したジャラックが地図を見ながら進んでいるとミズキが話しかける。
「ジャラックさん、あとどれくらいかかりそうなんです?」
「そうですねぇ」
ジャラックが足を止めると地図を床に置いて説明していく。地図を見ればかなり古びたもので、印や文字が多く書き込まれいた。
この迷宮は通路の分岐や行き止まりが多く、迷路のように入り組んだ構造になっていることがわかった。
「今がここですから、ここをずっと進んでいってここを曲がるのがこの階層のルートですから。さらに下の階層も結構ぐるっと回りますよ」
「そんなに遠回りなんですか……」
「探索日数はもう少し短いと思っていたのですが申し訳ありません」
今いる場所から向かう階段の地点までは蛇行と共にかなり大回りだ。一方で通路は敷き詰められ、壁をかいした通路と通路の距離は短い。
「ぶち抜きましょう」
「ミズキ?」
「壁をボクのばとるん一号で掘るんです!」
試しと言わんばかりに通路の壁へとその凶刃が振るわれた。
結果は無残なものだった。柱が連なってできた壁は粉砕され、大穴を開いた向こう側が見えていた。
その結果にジャラックは言葉を発することができない。
「どうですか!?」
「なんて言ったらいいのでしょうね。とても信じられません」
それからは目的地まで一直線に道を作り進んでしまった。
途中、魔物とも遭遇をしている。しかし、突然の出来事に驚き動きを止めた魔物がジャラックに命を刈られるか、ミズキの一撃で粉砕されるかしていた。
大穴が開いた壁を通り、階段を下りていく。そんなとき、ミズキが呟いた。
「下方向もいけないかな?」
「流石にそれは無理じゃないでしょうか」
床には長柄戦斧を何度も打ち付けていたことから、かなりの強度があるはずなのだ。
ものは試しとばかりに振り下ろされる。床は粉砕されるが、やはり大穴が開くことはなかった。
「う~ん、残念です」
「もしできてしまっていたら今日中に最深部へ着いてしまいますよ……」
「通路だと高さが限られてますし小部屋で試してみませんか?」
「別に構いませんが……本当にやるんですか?」
ミズキが満面の笑顔で頷く。ジャラックは仕方がないとばかりに小部屋へと案内する。
ミズキが跳躍し長柄戦斧を振り下ろす。先ほどよりも威力はあるが床を抜くにはまだ足りないようであった。
「駄目ですね……」
「壁を抜けるだけでも十分ですよ……」
そう呆れたようにジャラックが呟く。その様子を横目に見たミズキが持っている盾を見て閃いた。
「ああ、ジャラックさん! ジャラックさんのその盾でボクを上に弾くのはどうですか!?」
「やれないこともありませんが、まさか……」
「はい!」
ミズキは盾を構えたジャラックに向かって突撃していた。
そのまま飛びかかり、角度のついた盾へと足をつける。その瞬間にジャラックはいつもの容量でミズキを弾き打ち上げた。
ミズキの体が高く舞い上がる。長柄戦斧を構え、回転の遠心力と落下の加速が合わさった一撃が床に叩きつけられる。
粉塵が舞い上がり轟音が通路に響き渡る。
床が崩壊し二人は階下へ瓦礫と共に落下した。運悪く下に居た魔物が瓦礫に押し潰れてしまったことに、二人は気づかなかったが。
「やりました! できました!」
「冗談みたいな威力ですねぇ……」
ジャラックの呆れる声は届いていないのか、ミズキは喜び跳ねていた。それからは小部屋に移動し、床を抜く作業が追加されたのは言うまでもない。




