27話 柱の迷宮
ジャラックが地図を取り出し、現在地を確認していく。
「この迷宮、入り口の位置は違うのですが不思議と中の構造は全く同じなので、現在位置さえわかれば迷わず進むことができます」
正面は分かれ道になっているが、後ろには少し開けた空間があった。それらを確認すると地図上の候補を探していく。
「後ろに小部屋があるので候補は四箇所でしょうか」
「すごい、もうわかったのですか?」
「なかなか特徴的な構造の迷宮なので簡単ですよ」
地図を持つジャラックの後ろをミズキが続いていく。通路は分岐が多く、どの通路が正解かは全くわからない。
しかし、ジャラックにはかっているようで迷うことなく進んでいた。何度目かわからない通路の曲がり角に差しかかったとき、二人が足を止める。
ジャラックがランタンを腰に吊るし片手剣と盾を取り出した。
「来ましたねぇ」
「どんとこいですよ!」
角を曲がった先に石でできた犬のような、目線の高さがミズキと同じくらいある大型の魔物が居た。
飛びかかってきた魔物をジャラックが前に出て盾で弾いた。
「後ろです!」
ミズキはジャラックに当たる軌道で突進していた。ジャラックはそれを滑るようにして右に回避する。
真下からすくい上げるようにして振られた長柄戦斧が魔物へと命中した。魔物の体は上に飛ばされ、天井へ激突し落下する。
動きが止まったところへジャラックの剣が突き降ろされた。魔物は動きを止め、光る粒子となって散っていく。
「やりましたねジャラックさん!」
「いい一撃でした。ですが、なるほど。打ち上げて動きを止めるのはいい考えですよ」
「えへへ」
褒められたミズキは嬉しそうに破顔する。
落ちた素材は全てミズキの魔法箱へと収納され、戦闘を重ねかなりの量になっているが、その容量にはまだ余裕があるようだった。
「それにしてもよく入りますねぇ。やはり羨んでしまうほどです」
「ほんとにすごくたくさん入りますよね? リティス様ってすごいのかな?」
「魔女の名前には詳しくはないのでわかりませんね」
魔物の気配を察知できるため閉所で奇襲される心配はなく、歩く時間がほとんどで道程は順調そのものだ。しかし、一度だけ厄介な魔物と遭遇していた。
「当たらないです!」
数が多く、ミズキの一撃をことごとく避けるリスのような魔物だ。ジャラックがすでに何匹か切り伏せていたが、何しろ数が多く多勢に無勢であった。
ミズキの服は針のように尖った尻尾によって刺され、穴が開き血で染まっている。
「ミズキ、斧を横にして打つんです!」
「! わかりました!」
斧の刃で斬るのではなく、平らな部分で打てという言葉に従い斧を振り回す。避け切れなかった魔物が二匹ほど壁に叩きつけられる。
それからは数を減らした魔物が次々に倒されていった。
「大丈夫ですかミズキ」
「たくさん刺されました……とても怖いリスさんです……」
ミズキは手渡された回復薬を飲み休んでいた。傷が治るまではその場に留まることにし、そのあいだにジャラックが地図を確認している。
休息を取っていると突然周囲が明るくなった。この迷宮は光を透過するのだろう。
今は少し薄暗いと感じるくらいで、光晶石のランタンがなくとも全く問題がないほどだった。
「ミズキ、眠気のほうは大丈夫ですか?」
「そろそろ眠いです……」
「でしたら少し遠回りですが、野営できる場所へ向かいましょう」
分岐や曲がり角を何回か過ぎると小部屋に到着する。小部屋といってもなかなかに広く、あと何人か居ても問題はないだろう。
奥には円形のため池があり、壁がせり出ている部分から水が流れ続けていた。
「ここなら水も補充できますし問題ないでしょう。水浴びもできますよ」
「探索の最中は体を拭くくらいでしたからね。体はほとんど汚れてなかったですけど、やっぱり気になってましたし嬉しいです」
「では私は幕で仕切ったあと、向こう側で食事の準備でもしていますのでミズキは水浴びをしていてください」
「ありがとうございますジャラックさん!」
ミズキが服に手をかけ脱ごうとするが、ジャラックにその腕を掴まれ止めらていれた。
「準備が終わるまで待つんです。女の子なんですから慎みをもってください」
「ごめんなさい……」
布の張られた向こう側でミズキが水浴びをしていた。
楽しそうな声と水音は布一枚では遮ることができず筒抜けであったが、食事の準備をすることで落ち着かない気持ちを紛らわせた。
ジャラックはミズキには慎みがないと常々思っていた。
見た目が子供であるから魂が幼いことを考慮しても、ことあるごとに抱きついてくるのは問題だ。
最初こそ離れるように注意していたのだが、無邪気な笑顔を向けられるとどうもその気が削がれてしまう。
どうしたらその辺りの機微をわかってもらえるか思案していると、水浴びの終わったミズキが目の前に現れた。裸で。
ジャラックが凄まじい勢いで顔を逸らした。
「服を着てください! 何のために仕切ってると思っているんですか!?」
「あ……」
ミズキが自分を見下ろせばそのフラットボディが目に入る。
「でもボクは気にしないですよ?」
「私が気にします!」
ミズキが水を滴らせながら仕切り布の向こうへと消えてゆき、すぐにまた横からひょっこり現れた。
「思い出しました! 拭くものがなかったので、ジャラックさんなら何か持ってないかなと聞こうと思ってたんです!」
ミズキの顔に手ぬぐいが投げつけられた。




