24話 一息つきます
「なんとなくはわかりました。それにしても回転する世界ですか。不思議な世界もあったものですねぇ」
「もぐ……んぐ、不思議な世界ですよね」
ジャラックの感想に、ミズキが巨大マカロンを食べながら答えていた。
それぞれが前提とする認識は違ったが、その思いだけは共通するというなんとも奇妙なことになっている。
ひと段落着いたところで、ジャラックが魔法箱から火晶石焜炉やパニネを出し始めた。
「何か食べていましたが、昨日は食べずに寝てしまいましたし、朝食はどうしましょうか」
「お腹は空いてます!」
「では朝食の準備をしましょう。夜空の下で朝食というと変な感じがしますが」
ジャラックが苦笑と共に準備を進めていく。火晶石焜炉の上に小鍋を置くと水をそそぎ、魔晶石をはめ込んだ。
ほどなくして沸いたお湯に、固形のスープ元を入れかき混ぜるとスープが完成する。
カップにそそいでから手渡し、取り出したパニネと干し肉と共に朝食の準備は終了した。
ミズキが渡された平べったいパニネにかじりついた瞬間、驚愕する。
「硬いです!? なんですかこれ、全然歯が立ちませんよ!?」
「まさかそのまま食べようとするとは思いませんでした。スープに浸せば解れて食べられますよ」
ジャラックが少し唖然としながらも食べ方を教えていた。
「そうだったんですね。想像していたものと違ってびっくりしました」
「今回は期間が短めの探索ですが、長いものになるとどうしても保存に気を配らないといけませんからね。帰り道を気にする必要がなくともやはり限界がありますから」
そんな話を聞きながらもミズキが干し肉相手に悪戦苦闘していた。
「……今度から干し肉もスープに入れましょうか」
食事の進まないミズキを見てジャラックが呟いた。鍋を少しすすぐと新たに湯を沸かし始める。
「ミズキもコーヒーを飲みますか?」
「いははひまふ!」
いまだに噛み切れない干し肉に苦戦しながら答える。お湯が沸くとジャラックが黒い粉末を鍋に入れ軽く混ぜた。
別の入れ物にそそぎミズキへと手渡す。受け取ったミズキが息を吹きかけ冷ましてから口に運ぶ。しかし。
「苦い!?」
あまりの苦さに思わず叫んでしまった。
「口に合いませんでしたか……?」
「ごめんなさい、ちょっと苦すぎて飲めなさそうです……前は苦くても飲めてたはずなんですけど……」
ミズキがしょんぼりしながら、ジャラックにカップを渡す。
「苦いのは駄目でしたか。すみません、お茶にするべきでしたね」
「ジャラックさんは悪くないです……あ、そういえばリティス様から紅茶を渡されてるんでした」
ミズキ紅茶があったことを思い出した。
カバンから水筒を取り出し、新しいカップを受け取りそそいでいく。赤く透明な液体からは湯気がたっていた。
「湯気……たっていませんか?」
「そうですね? 熱そうなので冷ましながら飲みますよ」
ジャラックの視線はミズキが手に持つ紅茶から外れなかった。
「いえ、私は熱いことに驚いているのですが、ミズキの魔法箱は時間も止まっているのではありませんか?」
「そうなんですか?」
熱いカップを両手で持ち、息を吹きかけ冷ましながらミズキは聞き返した。
「そういう魔法箱があるという話は聞いたことはあります。しかし、そのように破格の魔法箱を所持する者は少ないですよ」
ジャラックが言うように、時間が停止しているかのような魔法箱は希少極まりない。
「でもリティス様はそんなこと一言も話してませんでしたよ?」
「ミズキを呼んだ魔女はかなりの力があるのかも知れませんね。正直、その魔法箱は羨ましく思いますよ」
相当な魔力を持っていなければ、大容量なうえに追加機能のある魔法箱など作れない。
ミズキが横に置いてあるランドセル型魔法箱を見つめ、それからジャラックのほうに振り向く。
「ジャラックさんも使ってみますか?」
「いや、やめておきましょう。それほどの力のある魔女に恨まれでもしたら大変なことになります。それにミズキと共に探索すれば問題ない訳ですからね」
ミズキは少し残念がった。この小さく可愛らしさを押し出したカバンを、ジャラックに背負ってみてもらいたかったからだ。
その願いが叶うことはなかったが。
「ではそろそろ探索を再開しましょうか」
ミズキが食べ終わるころを見計らいジャラックが切り出した。天幕は分解し魔法箱に収納していく。
使い終わったカップなども片付け出立の準備が整った。
「『全て慈しむ紫光』がありませんので多少ずれると思いますが進みましょう」
しばらく進んだところで違和感を感じた。二人はすでにそれぞれの武器を手にして辺りを警戒している。
「来ましたよ、ミズキ」
「何か近づいてますね?」
「私が前に出て動きを阻害しますのでミズキは追撃をお願いします」
「わかりました!」




