25話 少しずつでもいい
現れたのは巨大なサソリだ。ジャラックが距離を詰めミズキが続く。尻尾の針による刺突が、うなりをあげジャラックに襲いかかったが盾にはばまれた。
「今ですよ!」
「ううりゃああああ!」
ジャラックの掛け声にミズキが切りかかる。遠心力を乗せた左下からの切り上げが魔物を一刀両断する。
しかし、勢いは止まらず飛びのいていたジャラックへも襲いかかった。その一撃は盾によって弾かれる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「危ないですよ?」
「ご、ごめんなさい……」
無理な体勢で弾いたジャラックが石床を転がり、立ち上がったところだった。
「大丈夫です。最初からうまくはいきませんし、焦らずいきましょう」
「わかりました!」
その後も同じようなことが続いた。ジャラックが盾で弾きミズキが長柄戦斧を振り下ろす。
しかし、その軌道はジャラックの右腕を巻き込むものだった。
ジャラックは体を捻りその一撃を回避した。一方で振り下ろされた魔物は悲惨な最期をたどる。
一撃は魔物を粉砕するには飽き足らず、石床すら砕き周囲にヒビを走らせてしまう。威力を目の当たりにしたジャラックの頬に、一筋の汗が流れていた。
おもにジャラックが危険な戦闘を経て先に進んでいると、ふと空気が変わり始めたことにミズキが気づく。
空気、というよりも光が動いている。希薄だが凄まじい量の光が空を覆い、螺旋を描きながら一点に集まっていた。
その現象は間もなく終わることとなる。空が光ったのだ。
新星を彷彿とさせる瞬間的な爆光が広がり、紫の光が圧倒的な光量によって周囲を照らす。
「眩しいです!?」
「おや、日の出ですか」
その凄まじい明るさも次第に落ち着いていき、辺りを優しく照らし始めていた。
「いつもあんなに眩しいのですか?」
「最初は眩しいものですよ。もしかしてミズキの世界では違うのですか?」
やはり気になるのかジャラックが確認する。
「ボクの世界では地平からじわじわって明るくなりますよ」
「やはり全く違うんですねぇ」
空が明るくなったあとも何度か戦闘を行うが、とてもではないが連携と呼べるようなものにはならなかった。
あるときは後ろからジャラックに体当たりし、またあるときは、すっぽ抜けた長柄戦斧がジャラックに直撃した。
ジャラックは盾で防いでいたが、「並の大型魔物の一撃よりも重いですね」と言わせるほどの威力だった。
ミズキはひたすらに謝ることしかできない。そして、急に活力を切らしたのかミズキがうとうとし始め、今はジャラックの背で寝息を立てていた。
「どうしましょうねぇ」
ジャラックはどうしたものかと考えを巡らせる。ひとつはここで野営してミズキが起きるまで待つか、もうひとつはこのまま背負っていくかだ。
ジャラックは考えたすえ、まだかなり早いが今回も野営をして休養を取ることにした。
先日と同じように柱の近くで天幕を組み立てる。そこへミズキを寝かせ、ジャラックも横になると静かな時間が過ぎていく。
ミズキが目を覚ましたのはまだ明るい時間だ。起き上がった横ではジャラックがまだ寝ている。
ミズキは今の状況に疑問を感じるが、段々と意識がなくなる前の出来事を思い出していた。
うとうとしているミズキを見かねて、ジャラックに背負ってもらったことだ。
あまりの眠さに、しゃがんだジャラックの肩に手を回したところまではおぼろげに覚えていた。
人に背負われるのは久々で、とても暖かかった。そう思ったところで恥ずかしさに顔が熱くなり悶絶する。
ジャラックを直視することがでぎず、横で寝ているジャラックをチラチラと見るが、恥ずかしさのあまりうずくまる。
何度も視線を逸らしなんとかして動悸を抑える。いろいろ考えたすえ、ミズキは自分の使っていた毛布をそっとジャラックに掛け足した。
それからミズキは恥ずかしさを振り切るようにして立ち上がると、なるべく物音を立てないように柱の反対側へと向かった。
カバンからばとるん一号を取り出し素振りを始める。寝る前の連携が散々で、少しでも武器を扱えるようなりたいと思ったからだ。
そもそもまともに使い方を練習した記憶がなかったこともある。全て力任せに振り回していた長柄戦斧だったが、このとき初めて意識的に振っていた。
ミズキが扱える振り方は左下からの切り上げと、真上からの振り下ろしだけであった。どういった振り方ができるかも試していく。
(今まではなんとかなってたけど)
(ここは戦いのある世界なんだ)
(だから、少しでも強くならないと駄目なんだと思う)
(それに)
(ジャラックさんに迷惑ばかり掛けるのは)
(やっぱり嫌だ)
自分は帰るのだからと、特に気にせず過ごしてきていた面もあった。しかしこのとき、ミズキの意識は変わりつつあった。
不安だった自分に手を差し伸べてくれた人に、世話になるだけでは駄目なのだと。
(ただ帰るんじゃない)
(もちろん帰りたいけれど)
(時間を飛び越えて帰れるって言ってたんだ)
(だから)
優先順位が少し変わっても問題はない。その素振りの動きはつたなく、こんなことをしていても強くなる保障もない。
だが、しかし、それはゼロではないのだ。どんなに僅かなことであっても、経験は足されていく。
ふと、一心に振り続ける動きが止まった。ミズキは自分の持つ長柄戦斧をじっと見ていた。いろいろな振り方を試してみてわかったことがある。
それは驚くほど手に馴染むということだ。それと同時に納得もする。だからこそ、自分なんかがてきとうに振っても戦い得たのだと。
魔女リティスによって創られ名前もてきとうな長柄戦斧だったが、これほどのものを作るには何が必要なのか想像すらできない。
素振りを再開し、いくばくかの時間がたったころに空が暗くなった。それでもミズキは構わず型を試し振り続ける。
静かな夜に、風を切る音だけが鳴っていた。ジャラックはその音に目が覚めていたが、小さく微笑むともう少し寝ていることにする。
ミズキが戻ると、ジャラックが起き上がり朝食の準備をしているところだった。




