【第五章 首位で渡す】
四年目の秋。
琉嶋の海に夕陽が落ちていく。
練習が終わった後、ソウシはシルヴァのそばで部員たちを眺めていた。
テルはせっせとヴェルの翼を磨いている。カナがカイトとフラムに水をかけて笑っている。その様子をマーテルが子供たちを見守るように見つめていた。
いいチームだ。ソウシは思った。
本当にそう思った。
一年目、最下位。
二年目、二十三位。
三年目、十七位。
ビビりだったテルが、無茶な急降下をビビりながらもこなすようになった。
カナはフラムの翼を研ぎ澄まし、カイトは力を捨てて風を掴み始めている。
マツル。霧の中を視覚に頼らず飛ぶ彼女とコクヨウは、全国でもすでにトップクラスだ。
そして、秘策の背面トーチパス。
最後の挑戦で、十位以内には入れるかもしれない。運が良ければ入賞圏内も目指せるだろう。
だけど、そこまでだ。
本土の名門中の名門、横浜。下関。そして、明星。何度挑んでも、背中すら遠い相手だった。
それは「努力」や「根性」で埋まる距離ではない。
ソウシはシルヴァの銀灰色の首筋に背を預け、目を閉じた。
ふいに、シルヴァが鼻先をソウシの肩に強く押し付けてきた。
「よせ、シルヴァ。計算は嘘をつかないんだ」
ソウシは冷たくあしらおうとしたが、シルヴァは退かない。
いつも忠実なシルヴァがソウシの言葉に一向に退かない。
「シルヴァは怒ってるのよ」
振り向くと、マツルが立っていた。
隣にはコクヨウが、影のように寄り添っている。
「ソウシがまた、諦めることを考えてるから」
「現実的な判断だ」
「違う。あなたは諦める理由を探している。お父様が亡くなられた時と同じように」
「黙れ! お前に何がわかる!!」
常に冷静さを失わないソウシが冷たく叫んだ。
マツルの瞳が、夕闇の中で青白く光った。彼女は一歩、ソウシに歩み寄る。
「あなたは、お父様のことを無駄死にだと思ってる」
「……」
「私の母方の姓は龍神。先生は知っている」
ソウシは黙った。遠い昔に滅んだ龍玖王国の、という言葉が頭をよぎった。
「私の祖先の命がつながったのは、誰かが時間を稼いだから。誰かが一日を作ったから」
マツルはそれ以上言わなかった。
夕陽は海に沈み、残光がマツルの横顔をかすかに照らしていた。
ソウシが先に口を開いた。
「…… わかったよ。お前らが十位以内でトーチを運んできたら、俺も本気出す」
ソウシはシルヴァの首を撫ぜた。
シルヴァが満足気に小さく鳴いた。
マツルは少し考えた。
「首位で渡す。そうすれば逃げられない」
それだけ言って、コクヨウの方へ歩いていった。
「くっ」ソウシは小さく笑った。
「…… いきなり、よく喋るようになりやがって」
マツルは振り返らなかった。
コクヨウだけが、ソウシとシルヴァの方を一度だけ振り返った。
* * *
四年目。最上級生になった冬。全員、最後の大会だった。
クラブハウスに五人が集まった。
入学したての一年生が、端の方でおどおどしている。
平良先生が地図を広げた。いつもの、あの地図だ。
誰も何も言わなかった。全員わかっていた。
「行くぞ」
ただ一言、先生が言った。




