【序章 海の果ての島】
群青の海と、蒼い空の間を、野生の飛竜が飛んでいる。
翼を広げると八メートルを超えるが、旋回するときの身のこなしは猛禽に似て、速く、無駄がない。
島の飛竜は本土の品種改良された飛竜とは違う。
狭い島で、岩礁の間を、強風の中を、獲物を追いながら何万年も飛んできた生き物だ。
* * *
大陸極東にある、和津國から五百キロメートルほど南に琉嶋という名の島がある。
この島は十数年前、戦場だった。
和津國とアギラ連邦の間で戦争があった。
本土は琉嶋を防波堤にした。島を捨て石にして、本土への時間を稼いだ。
島の飛竜乗りたちは飛竜に爆弾を括りつけられて飛んだ。
竜人の末裔と呼ばれた島の男たちは、飛竜の操縦適性が高かった。
だから、真っ先に特攻に選ばれた。
本土への一日を守るため、ただ一度きりの急降下にすべてを捧げた。
学徒出陣で島の戦場に来た平良ヨシオはガタガタ震えていた。
戦友が次々と飛竜に爆弾を括りつけられて飛んでいった。
次は自分の番だと思った日の朝——終戦になった。
* * *
戦争が終わって、本土は和津國として独立を回復した。
ただ、琉嶋は残された。
防波堤だった島は、今度は占領地になった。
アギラ連邦の旗が桟橋に立った。島の飛竜乗りが飛竜を飛ばすときには飛行高度に制限がかかった。
本土へ行くのにパスポートが必要になった。
それでも、空はあった。
制限された、低い空だったが、飛竜は飛んだ。
島の子どもたちは飛竜に乗って、許された高度の中で、許された範囲の空を飛んだ。
シュリ飛竜部は、そんな島の小さな飛竜部だった。
部員は五人。
主将の友利ソウシ。島の飛竜乗りだった父親は特攻で戦死した。相棒の飛竜はシルヴァストラーダ。
新垣カイト。両親を戦争で亡くし、孤児院で育った。相棒の飛竜はアズルマーテル。
神谷マツル。自らのことは何も語らない。相棒の飛竜はコクヨウ。
宮城カナ。戦後、両親を駐留兵に殺され、祖母に育てられた。相棒の飛竜はフラムルージュ。
仲里テル。琉嶋人の母親と、連邦人の父親とのハーフ。相棒の飛竜はヴェルティカ。
飛竜は本土の品種改良された個体より一回り小さく、最高速度も本土の飛竜には及ばない。
装備は型遅れで、魔道具は本土の名門校の半分も揃っていなかった。
それでも監督の平良は言った。
「本土の空を飛んでこい」
鞍馬飛竜駅伝大会。
和津國の古都を舞台に、鞍馬神殿の聖なる灯を運ぶ、千年の歴史を持つ神事を起源とする飛竜競技祭。
全国から二十六チームが集まる、国民的な人気スポーツの大会だ。
戦後、琉嶋から出場するチームは、初めてだった。




