オープニング 「地上の星々」
【王国辺境の地、草生す野に残された碑文】
見上げれば、黄金の光がある
人々はそれを勇者と呼び、空に浮かぶ太陽のように称えた
祝祭の鐘の音は野を越え、山を越え、あまねく世界を塗り潰していった
―― * ――
けれど
その光の影で、この土の下に
誰にも知られない地上の星々があった
―― * ――
東の辺境の集落にて、魔王軍の先陣をたった一人で受けた戦士がいた
一昼夜、その剣は折れ、その身は砕けても戦い続け
村人の背中が小さくなるまで、ただ立ち続け、やがて大地に溶けていった
その体は今、泥と草に埋もれ
墓標すら立てられぬまま風に削られるのみ
西の山の奥深く 煙と火花の中で
里を焼かれたドワーフの老鍛冶師が、ひとふりを打ち続けた
憎しみで打てば剣は歪む、祈りながら打った
死んだ息子の名を唱えながら打った
聖剣が魔王を貫いた夜 鍛冶場はしんと冷え返り
主を亡くした槌だけが 転がっていた
南の峠には砦があった
三百の兵が三万の魔軍を七日止めた
勇者が聖剣を受け取る時を稼ぐため
泥にまみれ、鎧は朽ち、矢は尽き、隣の者が倒れても
歯を食いしばり、盾を重ね、命を重ねた
彼らの流した血は、城壁の石を赤く染め、しかし扉はまだ閉じていた
北の荒廃の街角にて、名もなき神官は
水も食もなく、マナの底をかきながら、ひとり回復の光を注ぎ続けた
名も問わず礼も求めず、己が命脈を削って
瀕死の子に、見知らぬ老いた農夫に
やがて己のマナが尽き、そのまま眠るように
小さな小さな癒しの光を、最後に灯した
―― * ――
人は空ばかり見ている
眩いばかりの勇者という太陽に、目を細めて拍手を送っている
―― * ――
シルフよ、風の精霊よ
高い空から見えているか
地上には名もなき星が静かに瞬いている
折れた剣の傍らに
冷えた鍛冶場の土間の傍らに
閉ざされたままの城門の傍らに
干からびたマナの器の傍らに
地上の星は今も、ここにいる
誰も来ない、ここにいる
シルフよ、風の精霊よ
天の星々に伝えておくれ
この地には太陽よりも熱く輝き、そして誰にも知られぬまま
消えていった地上の星があったということを




