表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

第45話 静かなる包囲網と、遠ざかる足音

 俺は抜き取ったカメラを元の場所に戻し、慎重にコンセントを差した。


「え、戻しちゃうの?」


 美桜が不安げに眉を寄せる。


「うん。電波を完全に止めてしまうと、異変に気づいた犯人が警戒して逃げてちゃう。でも、レンズ部分はさっきのテープで塞いだから、これで盗撮はできないし、犯人側には『接続はされているが映像が映らない』という不具合に見えるはず……」


 俺たちは図書室の準備室に身を潜めた。


 犯人が近づくのを察知するため、図書室の入り口が見える位置に2人ずつ配置し、手鏡を使って廊下を監視する。梨花と愛ちゃん、神田さんと美桜のペアで交代しながら、死角からの監視を続けた。


 放課後の時間は刻一刻と過ぎていく。部活動が終わり、校内には下校を促す放送が流れ始めた。教師たちもそろそろ帰宅準備に入る時間帯だ。


「どうする、朱音……」


 美桜が耳元で囁く。


「……今日来なかったら、明日の朝もう一度監視して、それでも動きがなければ校長先生に報告するしかない。証拠は確保してあるから」


 その時だった。


「あ、待って。誰か来る」


 愛ちゃんが、低く、しかし鋭く通る声で言った。

 準備室の中を、刺すような緊張が走る。俺の喉の奥がヒリついた。


「こっちに来る。……スマホを見てるよ」


 俺も愛ちゃんの隣に寄り添い、手鏡の破片を覗き込んだ。

 1人の男子生徒が、画面を凝視しながらゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 キュッ、キュッ、キュッ。


 上履きが廊下の床を鳴らす音が、やけに大きく響く。愛ちゃんは静かに手鏡を引き抜き、全員がドア付近で身を固めた。


 自分の心臓の音がうるさくて仕方ない。犯人はもう、すぐそこまで来ている。Wi-Fiの電波範囲内だ。


 もし犯人と相対したらどうする。

 元警察官としての現役時代なら、持ち前の体格と逮捕術で瞬時に制圧できた。だが、今の俺はか弱い女子中学生だ。力尽くで組み伏せることなど到底できない。そこまで考えが及んでいなかった自分の甘さに、奥歯を噛み締めた。


 その時、美桜が意を決したようにドアを一気に開けた。


「……っ!」


 美桜に続いて、神田さんと愛ちゃんが怒鳴り込むように廊下へ飛び出す。俺も梨花と一緒に最後尾で続いた。


「え? 相澤くん……っ!?」


 そこにいたのは、同じクラスの相澤くんだった。彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まっている。


「相澤くん、あなただったのね!」


 美桜が、相澤くんのスマホを持つ手を掴み、半ば強引に図書室の中へと引き入れた。


「え、何、何!? 何なんだよ!」


 困惑する相澤くんを準備室まで押し込み、俺たちは彼を包囲した。友人たちの目は、まさに鬼の形相だった。


「見損なった! 最低!」

「こんなことして、恥ずかしくないの!?」


 愛ちゃんと神田さんの冷たい言葉が浴びせられる。梨花にいたっては、あまりの嫌悪感に肩を震わせて彼を睨みつけていた。相澤くんの顔は、完全な困惑に支配されている。


「相澤くん、悪いけどスマホを見せてもらっていい?」


 俺は努めて冷静に話し、彼から差し出されたスマホを受け取った。

 端末を手に取ると、あの卑劣なカメラの存在が脳裏にちらつき、指先が微かに震える。相澤くんに見えないように画面をスワイプし、起動していたアプリを確認した。


 そこにあったのは――。


『Pokemon GO』


「……相澤くん、さっきまでスマホで何してたの?」

「え? ポケGOだよ。この辺りにレアモンが出るから捕まえに来たんだよ。あと少しで捕まえられそうだったのに……」


 相澤くんの目に嘘はない。元警察官としての直感が、彼はシロだと告げていた。


「えっ……また悪いことしようとしたんじゃないの?」


 美桜が拍子抜けしたように問い詰める。


「いやいや、悪いことって何だよ! 部活終わったから、帰る前にゲームしてただけだって!」

「……紛らわしいよ!」

「何がだよ!」


 相澤くんと美桜が言い合っている、その時だった。


 キュッキュッキュッ!


 ドアの向こうから、何者かが立ち去る足音が聞こえた。


 しまった。俺はドアを睨みつける。飛び出したい衝動に駆られたが、俺の心臓では全力疾走で追いかけるのは自殺行為だ。

 その瞬間、俺の動きを察した愛ちゃんが、制止するように俺の手を一度強く握った。


「朱音ちゃんはここで待ってて!」


 愛ちゃんはそのまま脱兎の如くドアへ向かい、廊下の先へと駆け抜けていった。


「1人じゃ危ないよ。神田さん、美桜も一緒にお願い!」


 俺が2人の顔を見据えて叫ぶと、彼女たちは力強く頷き、弾かれたように愛ちゃんの後を追って廊下へ飛び出していった。


 バタバタと遠ざかる3人の足音。図書室の準備室には、呆然と立ち尽くす相澤くんと、不安げに俺の袖を掴む梨花、そして俺の3人だけが残された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ