表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
memory  作者: 柊 しゅう
9/23

   九


キャンプ用品を取りに来た久地先輩の車に荷物を乗せると、俺もその車に乗りこみ待ち合わせ場所に向かった。駅前では小林先生も車で来ていて、二つの車に分かれて現地に向かうことになっていたようだ。

荷物の大半を久地先輩あの車に積め、運転手を除く四人の分かれ方をジャンケンで決めると、久地先輩の車に歩、小林先生の車に俺と内田先輩と渡邊先輩が乗ることになった。久地先輩は人数が少なくて楽だと小林先生に勝ったような顔をすると、途中のサービスエリアで人の入れ替えをすることを約束した。

出発すると内田先輩と渡邊先輩は後部座席で盛り上がり始めた。テントや折りたたみベンチが壊れていないかを夜遅くまで確認していた俺は少し眠たくなり、助手席でウトウトしていた。

「たしか有彩は大会近かったよね?来てよかったの?」

「今更それを聞くか。まぁ、ぴったり休みは被ってたし大丈夫だ」

「やっぱ私と有彩は結ばれる運命だったか〜」

渡邊先輩は抱きついてきた内田先輩を撫でると、ウトウトしている俺の首を支えているヘッドレストの横から顔を覗かせた。

「テルくんも観にきてよ。先生はもちろん来るでしょ」

そう言うと、かなり近い距離にあった顔を後部座席に引っ込めた。

「バレー部でしたっけ?俺あんまりルールとか分からないんですけど」

「そんなの分かんなくても観戦は楽しいから来なよ」

「・・・考えておきます」

 後ろの二人は、今度は一つのイヤホンで音楽を聴き始めた。それをバックミラーの端に映っているのを見て、自分がこれ以上会話に参加することはないだろうと思うと、またヘッドレストに首を預け正面の遠くを覚めた意識で眺めた。

 二時間くらいすると、サービスエリアに到着した。

 約束通りに久地先輩は小林先生と乗員を入れ替えた。今度は久地先輩の車に俺と渡辺先輩、小林先生の車に歩と内田先輩が乗ることがジャンケンによって決まった。

 サービスエリアで昼食を食べ、少し休憩してから再出発した。久地先輩の車にはトランクに入りきらなかった分の荷物があり、俺と渡辺先輩は後部座席に詰められて座った。

 初め渡辺先輩は久地先輩と会話が盛り上がっていた。小林先生の車にいたときのようにウトウトすることもできず、触れている肩で渡辺先輩を押してしまわないように気を張っていた。

「テル君はバスケ部だったっけ?」

「言いましたっけ?」

「部活中に見かけたことあるから」

「そういえば、隣で練習してましたね」

 体育館は二つに区切ってバスケ部とバレー部が練習することがある。多分そのときだろう。

「今は、天文部ですけどね」

 思い出したように呟いて、渡辺先輩と逆の方向を向いた。

「・・・私は、無理やりだったかな」

 渡辺先輩は少し小さい声でそう言い、俺は渡辺先輩の方を見た。

「・・・そんなことはないですよ。どのみち、いずれは入部していたでしょうし」

「少し、責任を感じていたの。もちろん、頼まれてやったわけではないんだよ。私がそうしてほしくてそうした。正直、テル君のことはあまり考えていなかった。後になって、迷惑だったんじゃないかって不安だった」

 そんな風に思っていたのか。むしろ、背中を押してもらって感謝したいくらいだったのに。

「そいつはそんなことじゃ迷惑がったりしないぞ。なんせこの俺に振り回されてるくらいだからな」

「久地先輩はちょっとは気を使ってください」

「嫌だね」

 俺がいくら何を言ってもこういうのは相手を安心させられないだろう。第三者にそう言ってもらえたのは、正直少し助かった。

「・・・先輩の試合、観に行きますよ」

 そう加えると、俺は正面を向いた。

「っ!・・・ありがとう」

 渡辺先輩は嬉しそうに反応すると、触れていた肩を俺の肩にさらにくっつけてきた。良い匂いが漂ってきて、急に近距離に女性がいることを意識させられた。

 急に顔が熱くなり、渡辺先輩の顔を見れなくなってしまった。俺はこんなに異性に対する耐性がなかっただろうか。


 その後は何気ない会話が続き、数時間経つとキャンプ場に着いた。小林先生が受付で手続きを済ますと、男子勢はその間に駐車場から少し離れた野原まで重い荷物を運んだ。テントを先に運び残りを歩と久地先輩に任せ、他の人たちで俺指導の下テントの設置にかかった。

「テル君、キャンプとかよくするの?」

 内田先輩は、ペグを地面に打ち付けながら聞いてきた。

「俺じゃなく両親がアウトドア好きなので、家族でよくキャンプはします」

「なるほどねー。こういうときに役立つ男子はモテるんじゃないの~?」

 内田先輩は張ったテントの陰から顔だけ出すと、ニヤニヤした顔を向けてきた。

テントを2つ立て終わると、ちょうど久地先輩と歩が最後の荷物を運んでくるのが見え、手続き終わった小林先生の姿も見えた。

今夜はキャンプの定番、カレーだ。作業は簡単だが量が多くすぐ空が暗くなるのもあって、さすがに今日の調理は手伝ってもらった。

調理が終わる頃には空はすっかり暗く、二個あるランプで照らされた折りたたみのテーブルの上でカレーを食べた。

夏とはいえ少し肌寒く、食事が終わると久地先輩が近くに落ちていた木で焚き火を始めた。俺と歩は焚き火に使う木を集めに行き、渡邊先輩と小林先生は食器の片付けをしていた。内田先輩だけは一人で急ぎ天体観測の準備をしていた。

テントから少し離れた林で木を拾い戻ると、天体観測の準備はもう終わっていた。すでに内田先輩と渡辺先輩が望遠鏡を交互に覗いていた。その横では半袖しか持ってきていなったらしい久地先輩が、焚き火に手をかざしていた。

 久地先輩に拾ってきた木を渡し、折り畳みのイスを人数分出してそれに座った。

 小林先生はさっきまでカレーを食べていたテーブルで、何やら書類を書いていた。顧問としての仕事はあるようだ。

俺は立ち上がり明日から使う予定だったカセットコンロにボンベを取り付け、お湯を沸かし始めた。湯がちょうどいい温度になったところでコンロを止め、買っておいたスティックタイプを入れたコップにお湯を注いだ。

「先生、これ」

「あら、ありがとう。気が利くのね」

 先生は一口飲むと、またペンを握った。後ろから覗いてみると、日誌のようなものだった。やはり顧問としての仕事なのだろう。

 覗いていたのがばれないようにゆっくりとコンロの方に戻り、余ったお湯で残りの人の分のココアも作った。それを両手に持ち焚き火の方に戻ると、みんなイスに座って話が盛り上がっていた。

 全員にココアを配り空いている二つのイスのうちの、久地先輩と渡辺先輩の間にあるイスに座った。もう片方は内田先輩と渡辺先輩の間が空いていて、そこに座る勇気は俺にはなかった。というか、なぜ仲のいい先輩二人の間が空いているのだろう。

「今日はもう天体観測はしないんですか」

 望遠鏡があった場所に、もうその姿がないことに気づいた俺は内田先輩にそう聞いた。

「みんなここに来るまでに疲れちゃったでしょ?特に運転してた二人」

「そういうことですか」

「なに、そんなにしたかったの?」

 またニヤニヤしているだろう内田先輩からすぐに目を逸らした。

「久地先輩お疲れ様です」

「明日は楽させてもらうぞ」

「もちろんです」

 そこで焚き火の方を向くと、視界の端で内田先輩がこちらを凝視しているのが分かった。多分むくれているのだろう。

 そこで小林先生が作業を終え、残りの空いているイスに座った。

「先生のために間空けておいたんだよ!仕事お疲れ様!」

「あら、そうなの?ふふふ」

 内田先輩と渡辺先輩は立ち上がると三つのイスのひじ掛けをぴったりくっつけ、座って小林先生の両腕に二人とも抱きついた。内田先輩は様になっているが、渡辺先輩は甘えている格好に違和感があった。

「今、失礼なこと考えてるでしょ」

 内田先輩は俺の方に空いたコップを差し出しながら、不満そうな顔でそう言った。

 俺はため息をつきそのコップを受け取ると、さっきより少し熱めにしたココアを注いで渡した。

「ありがと!」

 先輩はまだ抱きついているので片手でそれを受け取った。取っ手だけでは熱いのはわからないはずだ。そのまま口に運んだ。

「あつっ!!」

 引っかかった。仕返しができた気分だ。俺は今まで散々向けられたニヤニヤした笑顔を内田先輩に向けた。

「テル君、そんなことをするような子に育てた覚えはないよ!」

「育てられた覚えがないです」

「小林ちゃん!テル君が虐めてくる!」

 内田先輩は小林先生の脇に顔を埋めた。

「はいはい。怖かったね~」

 小林先生は内田先輩の頭を撫でると、こちらを向いてニコッと笑った。


 焚き火の木が少なくなってきたあたりで、テントに入っていく人が次々と出てきた。最終的に残ったのは俺と久地先輩だけだった。

「久地先輩は運転で疲れているのにまだ寝ないんですか?」

「すこし寝るのが惜しい気がしてな」

 俺は久地先輩のためにまたお湯を沸かし、ココアを注ぎ渡した。

「悪いな」

「・・・天文部の件、ありがとうございました」

 久地先輩は下を向いて頭をかいた。ほんの数秒だけ何も言わなかった。

「起きてて得したかな」

 冗談交じりにそう言うと、背もたれに寄り掛かり上を向いた。

「今日ここに来る途中に有彩さんと話してたこと、ありがとな」

「なんで久地先輩が?」

「一応、紹介したのは俺だしな」

 久地先輩はそれだけ言い立ち上がると、テントに入っていった。

 久地先輩は俺が天文部に一度訪れていたことを知らなかったのか。てっきり内田先輩から聞いていたものだと思っていた。

 久地先輩に紹介されていなかったら、どうなっていただろう。もう一度天文部に足を運ぶ気になっていただろうか。いや、そんなことはなかっただろう。きっと、今ほど話すこともなかっただろうし、登下校でケースを持ってあげることもなかっただろう。メールも、あの日以来途絶えていたかもしれない。

 拾ってきた木の最後の一本の火が消えたのを確認すると、俺もテントに入ることにした。歩と久地先輩はもう眠っていた。入口の反対側の空いているスペースで寝袋に入ると、すぐに眠気が襲ってきた。俺もテントの設置とか頑張ったからだな。

 テントの設置といえば、内田先輩がくだらないことを言っていた気がするな。前にも同じことを誰かに言われた気がする。家族以外とキャンプなんて行ったことないはずなのに。いや、例のイベントがあったな。俺にそんなくだらないことを言ったのは誰だっただろうか。きっと、そいつもニヤニヤした笑顔で言ってきたんだろうな。

そのとき俺は、なんて返したんだろう。今日みたいに流したのか、それとも・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ