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memory  作者: 柊 しゅう
7/23

    七


 次の日の放課後、内田先輩に背中を押され職員室に入部届を渡しに来た俺は、顧問の小林先生から鍵の保管方法などの部活での注意事項を教えてもらっていた。

「ところで飯島君、天文部は君が三年になるまでに部員が四人以上にならなかったら、廃部になってしまうのだけれど、それでもいいのかしら」

「・・・大丈夫です。その時は退部します」

 小林先生は少し納得しない顔をし、俺の入部を承認してくれた。

 先生の言いたいことはわかる。俺は、姉ほどではないが優等生の部類にいる。二度も退部を経験しているとなると、受験期になったときに推薦に影響が出てしまう。

 職員室から出ると、内田先輩とバレー部の部活着姿の渡辺先輩がいた。

「渡辺先輩まで。部活もう始まるんじゃないですか?」

「まあ、一応入部の件には私も関わったしな、私からもお礼が言いたくて」

 渡辺先輩はそう言うと、俺にヘッドロックをきめてくると、

「美月のこと、よろしくね」

 小さな声でそうつぶやいて、走って去っていった。

「何言われたの?」

「いや、ありがとうとだけ・・・」

「本当に~?」

「・・・勘弁してください」

 しょうがないなと納得した内田先輩は、部室まで行くと前に聞かせてくれた活動内容より、もう少し細かい部分を説明してくれた。

「校外活動とかはやっぱりしていないんですね」

 人数的に無理だったんだろうと思い、少し散らかっている部室を片付けている最中に内田先輩に聞いてみた。

「・・・」

 返事がないので振り返ってみると、内田先輩はホウキを落として立ったまま固まっていた。

 まずい、言わない方がよかったか?

「・・・忘れてた」

「え?」

「そっか、そういうのもアリだよね!」

 この先輩、普通こういう文化系の部活は校外活動をするってことに気づいてなかったのか。

「去年はどうしてたんですか?」

「先輩達と教室の窓から星観たり、屋上で星観たりだけだった」

「じゃあ、合宿とかみたいな校外での天体観測はしてなかったんですね」

「合宿・・・」

 内田先輩は腕を組み、何やら真剣に考えている。

「どうかしましたか?」

「・・・ううん、何でもない!」

 考え事は終わった様子の内田先輩は、片づけを終わらせると今日は疲れたからといい、その日は解散となった。


 帰宅の途中、母からのメールでお使いを頼まれた俺は、駅の目の前にあるスーパーで買い物をしていた。

 会計を済ませスーパーから出ると、ちょうど帰宅途中の姉さんと鉢合わせた。

「姉さん、飲んできた?」

「あ、わかる?」

 姉さんは酒を飲むと赤くなりやすい。しかしそこからが長いため、酔うなんてことは滅多にない。それこそ、この前みたいに精神的にやられているときくらいだ。

「歩から聞いたよ。部活入るんだって?」

 あの監視役、ほんとにいつか痛い目見せてやる。

「天文部でー、可愛い先輩に口説かれて入部したんでしょ?」

 本当に優秀な監視役だな。

「そんなことないよ」

「ふーん」

 姉は、からかってくるかと思ったら急に冷めた顔つきになり、歩き始めた。

 自宅へ向かっている間、隣を歩いている姉さんは一言も口にせず、ほんの少し上を向いて何かを考えているようだった。

 姉さんは怒っているのだろうか。怒っているとしたら、何に怒っているのだろうか。俺が入部することは、姉さんに関係はないはずだ。むしろ、どこかに入部すること自体は勧めてきていた。

「・・・天文部に入部すること、失敗だと思う?」

「・・・ごめんね。違うの」姉さんは足を止めた。

「・・・内田さん、だっけ?」

「え?ああ、そうだよ。部活の先輩」

 姉さんはほんの数秒、俺の目を見つめて黙っていた。

「輝樹、子供の時に参加したキャンプのこと覚えてる?」

「覚えてるけど」

「輝樹がスマホに付けてる古いキーホルダー、そこで作ったんだっけ?」

「多分、そのはずだけど」

 スマホをポケットから出すと、古いキーホルダーを姉さんに見せた。

「やっぱり、ずっと持ってるんだね」

 俺も久しぶりにこのキーホルダーを意識して見るが、なんでこんなものを作ったのだろう。

 姉さんは俺の手元を見てから、少し複雑そうな顔をすると、数分ぶりに笑顔を見せた。

「ごめんね。ちょっと態度悪かったかも」

「・・・いいよ」

「優しい弟がいて、私は幸せ者だな~」

 姉さんは俺の腕に抱きつくと、また歩き始めた。

 結局、なんだったんだろう。姉さんは何か問題は解消できたようだけど、まだ俺の中には疑問が残っている。

 姉さんの方を見ると、俺に向かって微笑んできた。それは、子供の頃、まだ俺が姉さんの後ろをくっついて歩いていたくらい小さい頃によく見せていたもので、まるで、私に任せろと言っているような、安心できるものだった。

 そういえば、姉さんはいつから酔いが冷めていたのだろうか。もしかして、まだ酔っているんじゃないか?


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