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memory  作者: 柊 しゅう
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    十八


 先輩たちが引退して、さらに新入生の入部もなく部員は私一人になった。正直、部活がなくても天体観測はできる。この部活が大切なわけではない。ただ、同じ趣味の人と話すことが少なくなると少しだけさみしい。だから、なんとなく続けてしまっている。

「本当に、なんでまだこんな大変なことしてるんだろ」

 私は今、通学路を重いケースを持って登校している。今日は快晴で、部活動をするには最適な日だ。

 学校の最寄り駅からの道のりは少し長く、このケースを持って歩くには結構つらい。女子力のない腰の曲がった姿勢で歩くことになる。おまけに太陽の光が直な当たり、夏でもないのに汗もかいてしまう。

 学校に着くと教室に向かわずに真っ先に部室、今日授業で使う予定のない教室にケースを置いた。教室の端にケースを置いたところで、始業のチャイムが鳴ってしまった。

「またやっちゃった・・・」

 一年のころから、ずっとこんな調子だ。私はよく遅刻をしてしまう。しかも、部活の日に限ってだ。

理由ははっきりしている。こんな重いケースを背負いながらの登校は、普通に歩いて登校するより時間がかかる。もちろん、いつもより早く家を出ればいい話だけど、それでも女子には厳しい話だ。

「まあ、理由は聞くまでもないけど」

「すいません。一応いつもより早く起きれたんですけど」

「昨日、部活をするって聞いたときからそんな気はしてたわ」

「次から気をつけます!」

 担任兼、顧問の小林先生に放課後に、職員室に呼ばれた私はいつも通り、小林先生に頼み込んで遅刻を免除してもらった。

「ありがとうございました」

 職員室を出て部室に向かおうと足を進めると、廊下の向こうから先輩が歩いてくるのが見えた。

「久地先輩、お疲れ様です」

「おう。なんだ、また遅刻か?」

「私と職員室前で会うたびにそれ言うのやめてくださいよ!まあ、そうなんですけど」

「そうだろうな」

 久地先輩は、笑いながら丸めた冊子で自分の肩を叩いている。

「それ、進路のですか?」

「ん?」

「その、いかにもこの後捨てられそうな冊子です」

「これか。間違いなく捨てるだろうな」

 久地先輩は丸めた冊子を広げて、私に見せた。その冊子には、この高校を自慢したいのがすぐにわかるくらい、今までの大学進学率や進学先の大学などのグラフがたくさん載っていた。

「見るだけでやる気が削がれますね」

「やる気があるならこんな高校来てないよな」

久地先輩は冊子の中に挟んでいたプリントを、酢億陰湿前に設置してある提出用の箱に入れると、冊子をまた丸めた。

「そういえば、部活は続けてるんだよな?」

「はい。もう私だけですけど」

「去年、一年間頑張ったもんな」

「そのことは、ありがとうございました」

 去年、私は久地先輩に散々愚痴を聞いてもらっている。

「あの先輩たちは、さすがにひどかったからな」

 去年の部活の先輩たちは、たった一人の後輩である私の扱いがすごかった。最初に部活を作ると聞いたときは、優しい先輩たちだとまんまと騙された。それでも、同じ趣味の人たちだったから、手放すにはもったいなく頑張っていた。

「一人でいいのか?」

「それは、確かに話し相手くらいはほしいですけど、今年は久地先輩も有彩も遊びに来てくれてますし、大丈夫だと思います」

「部活の予定が合えば遊びに行けるんだけどな、それでもあそこで一人の時のが多いだろ」

「そういう時は、さっさと帰ります」

「なら、いいけど」

 久地先輩はお疲れ様と言って階段を下りて行った。私は廊下の端にある部室に向かった。今日は小林先生も来れるらしく、それまでに天体観測の準備をしなきゃいけない。

 教室の端にあるケースを机の上に置いたところで、廊下で足音がした。小林先生かと思って振り向くと、ドアから男子生徒覗いていた。

目が合った瞬間、その男子生徒は走り出した。追いかけて廊下に出ると、もう階段を駆け下りる音が聞こえた。

 今の子、何しに来たんだろう。天文部に興味があったとしたら、追いかけて声をかけたほうが良かったのかな。

 やっぱり、一人でも一応は部活動紹介に出た方がよかったかな。あの男子生徒には悪いけど、、正直部員なんていらなかったし。まあ、やる気が出なかったのもあるけど。

「お疲れ様」

 後ろから落ち着いた声が聞こえて振り返ると、今度はそこにビニール袋を片手に持っている小林先生がいた。

「今、こっちから走ってきた子が見えたのだけど、誰か来てたのかしら」

「いえ、違います」

「あらそう。もしかして、内田さんのファンだったりして」

「そんなわけないじゃないですか」」

 小林先生の冗談を軽く流しながら天体観測の準備を始めた私は、さっきの子に対する興味はもうなくなっていた。

「でも、内田さんは行内では人気ある方じゃない」

「初耳ですよ」

 微笑んでいる小林先生は持っていたビニール袋からお菓子を取り出すと、机の上に広げ始めた。


 空が暗くなり天体観測が始まると、私と小林先生は星の話で盛り上がった。話題は尽きず、時間はあっという間に過ぎていった。

 最終下校時刻になると、小林先生に片づけを手伝ってもらい、部活はお開きとなった。小林先生はまだ仕事があると言って、鍵を受け取って職員室に向かった。私は校門前で壁に寄り掛かって体育館の方を見ていた。

 数分すると体育館の入口が開き、中から部活をしていた生徒が大勢出てきた。その中から私は、一際背の高い女子を探した。

 一番最後に出てきた生徒を見ると、私は手を挙げて大きな声を出した。

「有彩、お疲れ!」

 有彩はこちらに気づくと、近くにいた顧問の先生に一礼してから、こっちに駆け寄ってきた。

「お待たせ。待っちゃった?」

「ううん。そんなことないよ」

「そっか。じゃあ、帰ろうか」

 有彩は重そうなバッグを持ち直すと、歩き始めた。私はその横を歩いて、今日の天体観測のことを話した。

「話は全然分かんないけど、美月はやっぱり星が大好きだよね」

「どうだろ。他に好きなこと少ないしな」

「星を好きになったきっかけは何なの?」

「わからない。小さい時から好きだったし、そんなこと覚えてないよ」

 その後も色々な話題で話は途切れず、気が付くともう駅に着いていた。

「じゃあ、また明日ね」

「うん。じゃあね!」

 有彩がホームに降りるのを見送ってから、私は別のホームに降りた。ホームで田d社が来るのを待っていると、一通のメールが届いた。

【美月さんは明日の放課後暇?】

 それは久地先輩からのものだった。

【暇ですよ】

【じゃあ、明日の放課後にみんなでカラオケ行くから、予定空けといて】

【わかりました。有彩も誘っていいですか?】

【誘う予定だったから、美月さんから誘ってくれたら助かる】

【了解です】

 最後の返信をしたところで、ちょうど電車がホームに入ってきた。

 電車に数分乗って、自宅の最寄り駅で降りて帰路を歩いているとき、もう一通メールが来ていたことに気づいた。

【そういえば、明日は会わせたい奴いるから。期待しておけ】

 数分前に来たそれに急いで返信すると、久地先輩から写真が一枚送られてきた。その写真に写っていたのは、今日部室を覗いていた男子生徒だった。

 それを見た途端、私の中の彼に対する興味が戻ってきた。久地先輩がなんで私に彼をあわせたいのかはわからないけど、少し明日が楽しみになってきた。


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