表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
memory  作者: 柊 しゅう
17/23

17

    十七


 決勝の翌々日、合宿に行ったメンバーで渡辺先輩の優勝をお祝いするべく、学校近くの食べ放題のお店に来ていた。小林先生も誘ったが仕事で来れないらしく、五人での打ち上げとなった。

「かんぱーい!」

 歩の合図でグラスを軽く当て合い一口飲んで、それぞれが盛ってきた様々な料理に手を付けた。俺と歩、久地先輩は男子なだけあって、皿にはそれなりな量がのっていた。しかし、内田先輩と渡辺先輩の皿にも、それに負けないくらいの量がのっている。二人ともよく食べるのに、太ったりしないのだろうか。

「ごめんな。決勝見に行けなくって」

「大丈夫ですよ。久地先輩と歩君は、決勝以外の全部見に来てくれましたし」

 久地先輩と歩は、他の試合全部見に行っていたのか。二人とも暇人なのか。いや、渡辺先輩の試合だ。そんなことは言ってはいけないか。

 決勝戦について話しながら、料理が無くなった人は次から次へと盛ってきては、楽しく会話を弾ませた。

 俺も自分の皿の上が空になり、料理を盛りに席を離れた。すると、渡辺先輩も空の皿を持って、俺の隣に並んだ。渡辺先輩は、昨日の力強いスパイクを打った人だとは思えないほど、細く長い腕でさらに料理を盛っている。

「昨日、かっこよかったですよ」

「言ったでしょ。かっこいいところ見せてあげるって」

 片手に皿を持って拳を握る渡辺先輩は、得意げな顔になっている。

「怪我した子も最後に頑張ってくれたし、あれがなかったら勝てなかったかも」

「怪我は大丈夫だったんですか?」

「うん。たいしたことはなかったみたい」

 二人で席に戻ると、入れ替わりで久地先輩と内田先輩が料理を盛りに行った。初めから大盛にしていた歩は、まだ皿が空になっていなかった。

「そういえば、歩君と久地先輩もこの前のお祭りに来てたんでしょ?」

「そうですね。こいつのお姉さんと三人で来てました」

「お姉さん?」

 祭りの時の話が始まったことで、少し気まずくなってしまった俺は、話に加わらずに自分の料理を口に運んでいた。

「テル君は誘わなかったの?」

「たまたま沙織さんと祭りで会っただけなんで、誘わなかったってわけじゃないんです」

 多分、本当は姉さんに呼ばれたんだろう。

 そこまで話したところで、久地先輩と内田先輩が戻ってきた。話題はすぐに変わり、その後はあの祭りでの一件に関して誰かが話すことはなかった。


 打ち上げが終わり、駅前で解散することになった。しかし、全員まだ帰る気はないらしく、駅前の小さなゲーセンで遊んでいる。

 俺はホッケーを歩として疲れて、ゲーセンの入口の外で休憩をしている。

「この前の話していいか?」

「は?」

 ガードレールに腰かけている俺の隣に来て、歩は突然そう言った。

「祭りの時のこと」

「ああ・・・」

 そのことか。正直、あの時のこと、姉さんから聞いたことに関しては、あれからはあまり考えないようにしていた。

「沙織さんとはもともと付き合いはあったんだ。それは知ってただろ?」

「まあな」

「お前が天文部に入ることになったころから、内田先輩についてみておくように言われた」

「お前が姉さんに巻き込まれたのは最近なんだな。てっきり初めからだと」

「さすがに、何年もあんなことしてたと知ったときは驚いた」

 だろうな。友人の姉があんなブラコンだったらかなり引くだろう。しかも、その姉と自分も仲が良かったら余計生々しくなるだろう。

「悪かったな」

「いいよ、別に謝らなくても」

「断らなかった俺も悪いしな。」

 歩は、そう言ってまたゲーセンに入っていった。俺が歩を目で追うようにゲーセンに顔を向けると、今度は内田先輩が出てきた。

 内田先輩と歩は少しだけ言葉を交わすと歩はゲーセンの中に、内田先輩はこちらに歩いてきた。

「内田先輩も疲れちゃいましたか?」

「結構はしゃいじゃったかな~」

 内田先輩は俺の隣に座らず、俺の前で止まった。

「ねえ。この前のお祭りのとき、何かあったの?メールで先に帰っててとか、結構一大事だったんじゃないの?」

「いえ、姉さんに会って荷物持ちを頼まれただけです」

「姉さん?」

「大学が近かったんで、たまたま」

「ふうん」

 内田先輩はたいして興味のないような顔をした。気づいてはいないんだろうな。知ったら驚くどころではないだろうな。まさか、俺の姉さんが内田先輩のことでいろいろやってたなんて。

「ねえ、UFOキャッチャーって得意?」

「得意ってわけではないですけど」

「取ってほしいのがあるんだけど」

 そう言うと内田先輩は、ここから見えるUFOキャッチャーを指さした。近づいて見てみると、それは色々な種類の小さなぬいぐるみが入ったものだった。

「まあ、いいですけど。どれを取ればいいんですか?」

「このクマのやつ」

 そんな難しそうではないな。これなら簡単に取れそうだ。

 内田先輩が百円玉を入れ、俺がレバーを握った。アームはスムーズにクマのぬいぐるみの上まで移動した。アームは一直線にクマに向かう・・・はずだった。アームはクマのぬいぐるみの少し手前に降りた。クマのぬいぐるみは少し動いただけで、落ちてしまった。

「あ」

「ダメだったね」

 ダメかと思っていると、アームの下に別のぬいぐるみがぶら下がっているのに気づいた。アームにはぬいぐるみのタグの紐が引っかかっていた。

「すごい!」

「こんなことあるんですね」

 そのぬいぐるみはクマではなく、ネコのぬいぐるみだった。猫派の俺としては少しうれしい気もした。

「すいません。クマは取れませんでした」

「いいよ!これもかわいい!」

 内田先輩は満足そうにしている。

「それならいいんですけど」

 普通男なら、ここで自分の財布を開いてもう一回挑戦してもいいのだろう。しかし、打ち上げにゲームにお金を使いまくり、すでに財布の中身は無くなってしまっている。少し情けないな。

 歩に金を借りようかと周りを探してみると、歩はアーケードゲームのコーナーにいて、こちらを見ていた。目が合ったと思うと、すぐに歩は画面に向き直った。忙しそうだし、しょうがないかな。


 時間も遅くなり、解散することになった。駅で解散して、今は歩と内田先輩と歩いてる。

「今日はたのしかったね」

「そうですね。おかげですっかり遅くなっちゃいましたね」

 内田先輩は俺の隣を歩き、歩は前を歩いている。内田先輩と解散する交差点にはすぐに着き、内田先輩と解散した。

 歩と帰る途中、歩は一言も発さなかった。歩は怒ったような顔をしている。歩と解散する交差点まで、少し気まずい空気が流れた。

 交差点に着くと、歩はやっと口を開いた。

「お前、どっちなんだ?」

「・・・何が?」

「とぼけんな。とっくに気づいているだろ?さすがに、自分で口にするのは恥ずかしいだろうけど」

 やはり怒っている。数時間前にはまだ普通に話せていたのに、今は敵意がむき出しだ。

「・・・関係ないだろ」

「そうだな。これは俺がむかつくから言っているだけだ。さすがにふらふらしすぎなんじゃないか?」

「・・・わかってるって」

「わかってるだけだろ。お前はまだ何もしてないだろうが」

 歩のくせに。だけど、言っていることは的確だ。何も言い返せない。

「どうしたらいい?」

「そんなのは自分で考えろ」

「そんなのわかんねえって!俺だって迷ってるんだよ!」

「だからそれだけだろ!実際に何かしたか!?ああ、思わせぶりなことだけはしてるよな」

「うるせえ!」

「・・・結局、お前は甘えてるんだよ。自分が置かれている環境にな!」

「は?」

 歩はそう言い放つと、帰っていった。

 歩は一度もこちらを振り向かずに歩いていった。初めて歩と口喧嘩をした。そもそも、歩が怒っているところ自体、初めて見た。

 あいつが怒る理由はわかっている。きっとあの二人のことだろ・・・先延ばしにしすぎたみたいだな。なるべく考えないようにしていたのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ