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十七
決勝の翌々日、合宿に行ったメンバーで渡辺先輩の優勝をお祝いするべく、学校近くの食べ放題のお店に来ていた。小林先生も誘ったが仕事で来れないらしく、五人での打ち上げとなった。
「かんぱーい!」
歩の合図でグラスを軽く当て合い一口飲んで、それぞれが盛ってきた様々な料理に手を付けた。俺と歩、久地先輩は男子なだけあって、皿にはそれなりな量がのっていた。しかし、内田先輩と渡辺先輩の皿にも、それに負けないくらいの量がのっている。二人ともよく食べるのに、太ったりしないのだろうか。
「ごめんな。決勝見に行けなくって」
「大丈夫ですよ。久地先輩と歩君は、決勝以外の全部見に来てくれましたし」
久地先輩と歩は、他の試合全部見に行っていたのか。二人とも暇人なのか。いや、渡辺先輩の試合だ。そんなことは言ってはいけないか。
決勝戦について話しながら、料理が無くなった人は次から次へと盛ってきては、楽しく会話を弾ませた。
俺も自分の皿の上が空になり、料理を盛りに席を離れた。すると、渡辺先輩も空の皿を持って、俺の隣に並んだ。渡辺先輩は、昨日の力強いスパイクを打った人だとは思えないほど、細く長い腕でさらに料理を盛っている。
「昨日、かっこよかったですよ」
「言ったでしょ。かっこいいところ見せてあげるって」
片手に皿を持って拳を握る渡辺先輩は、得意げな顔になっている。
「怪我した子も最後に頑張ってくれたし、あれがなかったら勝てなかったかも」
「怪我は大丈夫だったんですか?」
「うん。たいしたことはなかったみたい」
二人で席に戻ると、入れ替わりで久地先輩と内田先輩が料理を盛りに行った。初めから大盛にしていた歩は、まだ皿が空になっていなかった。
「そういえば、歩君と久地先輩もこの前のお祭りに来てたんでしょ?」
「そうですね。こいつのお姉さんと三人で来てました」
「お姉さん?」
祭りの時の話が始まったことで、少し気まずくなってしまった俺は、話に加わらずに自分の料理を口に運んでいた。
「テル君は誘わなかったの?」
「たまたま沙織さんと祭りで会っただけなんで、誘わなかったってわけじゃないんです」
多分、本当は姉さんに呼ばれたんだろう。
そこまで話したところで、久地先輩と内田先輩が戻ってきた。話題はすぐに変わり、その後はあの祭りでの一件に関して誰かが話すことはなかった。
打ち上げが終わり、駅前で解散することになった。しかし、全員まだ帰る気はないらしく、駅前の小さなゲーセンで遊んでいる。
俺はホッケーを歩として疲れて、ゲーセンの入口の外で休憩をしている。
「この前の話していいか?」
「は?」
ガードレールに腰かけている俺の隣に来て、歩は突然そう言った。
「祭りの時のこと」
「ああ・・・」
そのことか。正直、あの時のこと、姉さんから聞いたことに関しては、あれからはあまり考えないようにしていた。
「沙織さんとはもともと付き合いはあったんだ。それは知ってただろ?」
「まあな」
「お前が天文部に入ることになったころから、内田先輩についてみておくように言われた」
「お前が姉さんに巻き込まれたのは最近なんだな。てっきり初めからだと」
「さすがに、何年もあんなことしてたと知ったときは驚いた」
だろうな。友人の姉があんなブラコンだったらかなり引くだろう。しかも、その姉と自分も仲が良かったら余計生々しくなるだろう。
「悪かったな」
「いいよ、別に謝らなくても」
「断らなかった俺も悪いしな。」
歩は、そう言ってまたゲーセンに入っていった。俺が歩を目で追うようにゲーセンに顔を向けると、今度は内田先輩が出てきた。
内田先輩と歩は少しだけ言葉を交わすと歩はゲーセンの中に、内田先輩はこちらに歩いてきた。
「内田先輩も疲れちゃいましたか?」
「結構はしゃいじゃったかな~」
内田先輩は俺の隣に座らず、俺の前で止まった。
「ねえ。この前のお祭りのとき、何かあったの?メールで先に帰っててとか、結構一大事だったんじゃないの?」
「いえ、姉さんに会って荷物持ちを頼まれただけです」
「姉さん?」
「大学が近かったんで、たまたま」
「ふうん」
内田先輩はたいして興味のないような顔をした。気づいてはいないんだろうな。知ったら驚くどころではないだろうな。まさか、俺の姉さんが内田先輩のことでいろいろやってたなんて。
「ねえ、UFOキャッチャーって得意?」
「得意ってわけではないですけど」
「取ってほしいのがあるんだけど」
そう言うと内田先輩は、ここから見えるUFOキャッチャーを指さした。近づいて見てみると、それは色々な種類の小さなぬいぐるみが入ったものだった。
「まあ、いいですけど。どれを取ればいいんですか?」
「このクマのやつ」
そんな難しそうではないな。これなら簡単に取れそうだ。
内田先輩が百円玉を入れ、俺がレバーを握った。アームはスムーズにクマのぬいぐるみの上まで移動した。アームは一直線にクマに向かう・・・はずだった。アームはクマのぬいぐるみの少し手前に降りた。クマのぬいぐるみは少し動いただけで、落ちてしまった。
「あ」
「ダメだったね」
ダメかと思っていると、アームの下に別のぬいぐるみがぶら下がっているのに気づいた。アームにはぬいぐるみのタグの紐が引っかかっていた。
「すごい!」
「こんなことあるんですね」
そのぬいぐるみはクマではなく、ネコのぬいぐるみだった。猫派の俺としては少しうれしい気もした。
「すいません。クマは取れませんでした」
「いいよ!これもかわいい!」
内田先輩は満足そうにしている。
「それならいいんですけど」
普通男なら、ここで自分の財布を開いてもう一回挑戦してもいいのだろう。しかし、打ち上げにゲームにお金を使いまくり、すでに財布の中身は無くなってしまっている。少し情けないな。
歩に金を借りようかと周りを探してみると、歩はアーケードゲームのコーナーにいて、こちらを見ていた。目が合ったと思うと、すぐに歩は画面に向き直った。忙しそうだし、しょうがないかな。
時間も遅くなり、解散することになった。駅で解散して、今は歩と内田先輩と歩いてる。
「今日はたのしかったね」
「そうですね。おかげですっかり遅くなっちゃいましたね」
内田先輩は俺の隣を歩き、歩は前を歩いている。内田先輩と解散する交差点にはすぐに着き、内田先輩と解散した。
歩と帰る途中、歩は一言も発さなかった。歩は怒ったような顔をしている。歩と解散する交差点まで、少し気まずい空気が流れた。
交差点に着くと、歩はやっと口を開いた。
「お前、どっちなんだ?」
「・・・何が?」
「とぼけんな。とっくに気づいているだろ?さすがに、自分で口にするのは恥ずかしいだろうけど」
やはり怒っている。数時間前にはまだ普通に話せていたのに、今は敵意がむき出しだ。
「・・・関係ないだろ」
「そうだな。これは俺がむかつくから言っているだけだ。さすがにふらふらしすぎなんじゃないか?」
「・・・わかってるって」
「わかってるだけだろ。お前はまだ何もしてないだろうが」
歩のくせに。だけど、言っていることは的確だ。何も言い返せない。
「どうしたらいい?」
「そんなのは自分で考えろ」
「そんなのわかんねえって!俺だって迷ってるんだよ!」
「だからそれだけだろ!実際に何かしたか!?ああ、思わせぶりなことだけはしてるよな」
「うるせえ!」
「・・・結局、お前は甘えてるんだよ。自分が置かれている環境にな!」
「は?」
歩はそう言い放つと、帰っていった。
歩は一度もこちらを振り向かずに歩いていった。初めて歩と口喧嘩をした。そもそも、歩が怒っているところ自体、初めて見た。
あいつが怒る理由はわかっている。きっとあの二人のことだろ・・・先延ばしにしすぎたみたいだな。なるべく考えないようにしていたのに。




