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十六
夏休みも後半に入って宿題の存在を意識させられる頃、俺と内田先輩、歩は渡辺先輩率いるバレー部の公式戦の観戦に来ていた。
「部長だったんですね」
「すごいでしょ!」
二階の観客席の最前列に座れた俺たちは、渡辺先輩の指示でウォーミングアップしているバレー部を眺めていた。三年生が見当たらないと思ったら、どうやら夏休みの前半にあった大きな大会を終えて、すでに引退していたそうだ。
今日は決勝で、相手は去年の優勝校らしい。ここまでの試合にはなかなか来れず、決勝でやっと来れたわけだが、ここまで勝ち上がってくれなかったら一度も見に来れずに渡辺先輩との約束を守れないところだった。
「バレー部、多いですね」
「なんか今年の一年生は多かったらしいよ」
「去年優勝か何かしたんですか?」
「今日とは別の大会で準優勝はしてたかな。確か相手は今日の相手校だった気がする」
所謂、因縁の対決というわけだ。どちらもかなり気合が入っているだろう
バレー部がウォーミングアップを終えたところで、俺はトイレに行くために席を外した。
トイレは一階にしかなく、用を足し終えたついでに飲み物を買うことにした。
「今日は来てくれてありがとね」
自販機の前で財布を開いている俺に、渡辺先輩が声をかけてきた。
「試合始まるんじゃないんですか?」
「まだ少し時間あるからね」
渡辺先輩は自販機の横のベンチに座った。俺もその横に座り、買った飲み物を開けた。
「すみません。なかなか来れなくて」
「いいよ。今日来てくれたし」
「去年と同じ相手なんですね」
「うん」
渡辺先輩は腿に肘をつき、両手の指を絡ませてた。すでに汗をかいているのがここからでも分かるくらい、渡辺先輩の肌は蛍光灯の光に照らされていた。
「緊張しますか?」
「しないっていったら嘘になるけど、それ以上に興奮の方がでかいかな」
渡辺先輩は、今回が部長になってから初めての公式戦だと聞いている。興奮するのも頷ける。
「頑張ってください・・・って言うだけなら簡単ですけど」
「それだけでも嬉しいよ」
そう言って立ち上がると、もう行くと言い体育館の入口の方に歩き始めた。
「ちゃんと見てますからね」
俺は立ち上がりながら、渡辺先輩の背中にそう言った。
「・・・かっこいいところ見せてあげるよ」
渡辺先輩は右の拳を握って俺の方に向けてそう言った。
試合が始まると、最初は相手が先制点を取って、流れをつかんでしまった。しかし、渡辺先輩たちも負けじと点を取り、一セット目を取った。
続く二セット目、途中まで渡辺先輩たちは優勢だった。しかし、あと一本で勝ちが取れるというところで、流れが変わってしまった。相手のスパイクが見事に連続でブロックの上を通り、コート内に力強く落としてきた。
そのまま二セット目は相手校が取り、ラストの三セットに向けてそれぞれの高校がベンチで監督の指示を聞いていた。
「危ないですね」
「ラスト・・・頑張って!」
内田先輩が大きな声で呼びかけると、渡辺先輩はこちらを向いて手を挙げ答えた。
渡辺先輩はコートに戻らずそのままベンチの方に向かった。そして、さっき試合に出ていた部員のうちの一人の前に立つと、そこでしゃがんでその子の足首に触れた。
「これ、さっき怪我したでしょ?」
「・・・やらせてください」
どうやら、さっきブロックが越されていたのは、相手が高くなったからではなく、こちらが低くなったからだったようだ。
「できるの?」
「できます!」
渡辺先輩はじっとその子の目を見つめた。
「交代させるんでしょうか」
「・・・多分、有彩はそんなことはしない」
しばらくすると、近くで一緒に怪我の具合を見ていた部員に、試合に出るメンバーを呼ばせた。
「出ていいよ。その代わり絶対取るよ」
「っ!・・・はいっ!」
その子が元気よく返事をすると、メンバーが渡辺先輩の周りに集まった。渡辺先輩がチーム全体に声をかけ気合を入れると、三セット目が始まった。
三セット目は交互に点を取るように進み、ついにデュースまでもつれ込んだ。緊張の中、こちらが一本を取り、サーブ権が回ってきた。
俺のとなりでは、内田先輩が大声を出して応援をしている。
サーブを打つと、ボールは綺麗な子を描いて相手のコートに飛んで行った。しかし、相手にキレイに止められてしまった。すると、相手のチームの中で、試合中に一番高く飛んでいる人がスパイクの態勢に入った。
ダメかと思われた次の瞬間、さっきの怪我をした子が高く飛んだ。
スパイクはその子の手に当たり、やや左上後方に飛んで行った。渡辺先輩はそれに瞬時に反応し、そのままバックから力強いスパイクを決めた。
ボールは子を描くことなく、まっすぐに相手コートの後ろラインギリギリに当たった。これで、最後の一本が決まり渡辺先輩たちの勝ちとなった。
会場中は沸き上がり、全員が渡辺先輩のナイスなプレーに拍手喝采を送っていた。内田先輩と俺も立ち上がって手すりを乗り出しながら、渡辺先輩に拍手を送った。
渡辺先輩は膝に手をつき息を整えると、こちらを向き手を振った。その渡辺先輩に部員たちが次々に抱きつき、部員全員で跳ねながら勝利を喜んだ。
笑顔で部員たちと喜んでいる渡辺先輩を見ていた内田先輩は、少し曇った顔をした。
「どうしました?渡辺先輩たちが勝ったの、嬉しくないんですか?」
「ううん。嬉しいよ。有彩はすごいなって」
「じゃあ、なんでそんなテンション低くなったんですか?」
内田先輩は手すりに肘をついて、渡辺先輩の方を見た。
「私も、がんばらなきゃな~・・・」
内田先輩がそう言うと、笛の音が聞こえ、互いの高校が整列をして礼をすると、会場中に拍手の音が響いた。
内田先輩は笑顔に戻って、帰ってくる渡辺先輩に手を振っていた。
俺も渡辺先輩の方を見ると、渡辺先輩と目が合った。渡辺先輩は俺と目が合うと、止って右の拳を握って、俺の方に向けた。




