42.何も聞いてない
あらすじ
陰でいちゃいちゃ
「うぐぁぁ〜〜〜………」
私は珍獣みたいな声と珍獣みたいな動きでベッドの上を転げ回っていた。私が涼を落とすと心の中で宣言してから早数日。まあ、結果から言えば何も進展しちゃいない。普通に考えてそうだろう。今まで手だって普通に繋いできたし抱き締められもした。それで進展がなかったんだから今更進展なんかしやしない。
とはいえ、私は頑張ったと思う。ちょいちょい私を意識させる言動、例えば、「私が彼女だったら嬉しい?」とか、「こんなことしてくれる彼女、憧れない?」とこれ見よがしに口をつけたペットボトルを渡してみたり。これに関しては半分自爆して自分も顔真っ赤になったが。他にもボディタッチ、あとは手繋ぎ。手繋ぎは常に指を絡ませてやった。その度に涼は恥ずかしそうに顔を真っ赤にするもんだからこっちまで恥ずかしくなる。
そう、ここまでしてるんだ。なのに!! なーーんにも言ってこない! 涼が「好き」って言ってくれたら「じゃ、付き合おっか♡」で全て解決するのに!
「童貞は所詮童貞ってわけか……」
底抜けに失礼な一言を零し、枕に突っ伏す。一体私にどうしろと言うのか。もういっそ押し倒すくらいしないと、私の気持ちには気付いてはくれないのか。できるかそんなこと…むしろ押し倒してくれよ……
行き詰まった思考を取り払うように私はスマホをすいすいと操作すると、愛菜に直で電話をかけた。プルルルッという軽い電子音が鼓膜を揺らす。3コールほどで、プッと音が止まった。
『…もしもし、ハル? どうしたの、こんな時間に』
「私は一体……どうしたらいいんだ……」
『え、なに、どうしたの』
私の様子に、怪訝な声を隠しもせず聞いてくる愛菜。そんな愛菜に私がここに至るまでの経緯を掻い摘んで説明した。あんまり恥ずかしいとこは言えない。
『いや、水瀬くん…どんだけヘタレなの…』
話を聞き終わった愛菜は誠に呆れ返ったような声を電波にして、私の耳に届けてくれた。
「ぐっ……」
わかる。その評価はすごくわかる。実際私もそう思うもの。でも曲がりなりにも私の想い人を率直にヘタレと言われるのは少し痛い。
「そう……だから、私はもうどうしたらいいのかなって…」
『うーーーん…こうなったらもう、既成事実を作るしかないんじゃないの?』
「……は?」
既成……なに?
『だから、既成事実よ』
「あ、うん……それは、何すればいいのさ」
『え…? そりゃあ、もう、ずっぽし…さ』
「ずっぽし……ね」
………何言ってんだコイツ。
「ごめん、相談する相手間違ったみたい」
『ええ!? どこが!? 間違ってないじゃない! ちょーーー』
ーーーブツッ
ツーツーというまるで無機質な機械音が響く。私は何も聞いていない。ただ愛菜に電話をかけてそして切っただけだ。そこには何もなかった。
回り回って少し頭がスッキリした気がする。明日のことは明日考えよう。おやすみなさい。
そして私はパタリと体をベッドに沈め、夢の世界へと落ちていった。今日の自分は今日に置いていくのだ。今日の愛菜も一緒に。
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「おはよう」
「…………あ、うん、おはよ」
この二つ目のおはよ、は私。じゃあ最初は誰なのか。………うん、愛菜しかいない。起きたらいた。字面通りだ。起きたらそこにいた。
「なんで昨日切っちゃうのよ、話してた途中だったじゃない」
「いや、昨日は私たちなにも話してないよ。私が愛に電話してすぐ電話切っただけ」
そう、そこに会話はなかった。そのはずだ。
「記憶改竄しないでよ……」
「してない………」
そう、私はなにも聞いていない。
「んで、既成事実の話だけど」
そして今聞いてしまった。逃れられぬ運命ならぬ、逃れられぬ愛菜といったところか。出来るなら逃れたい。運命よりはまだ現実的な気がする。
「はい…既成事実ね…」
「ま、ずっぽし、まではいかなくても、水瀬くんにキスさせればいいんじゃない?」
「へっ!? キ、キス?」
「そ、ちょっと上目遣いして、物欲しそうな表情して顔近づければイチコロだって」
「んんー、そんなにうまくいくものかなぁ…」
私がうんうん唸っていると、いつのまにかとっても近いところに愛菜の顔があった。そして見上げるように私を見つめてくる。
「………えっと、何?」
「………どう? キスしたくならない?」
「……………ごめん」
愛菜は表情を一つも変えず、少し顔を離すと「フッ」と鼻で笑ってニヒルな笑みを浮かべた。
「………そう、こうすれば相手から自然とキスがしたいと思わせられる。やってみなさい」
「……いや、私思わなかっ―――」
「きっと、うまくいくわ」
「………うん、ありがとう………」
大丈夫かな……この穴だらけの作戦……
私は愛菜がいつのまにか淹れてくれたコーヒーをずずっと啜る。ほぅ、と息を吐きコトリとカップを置く。
「まぁ、大丈夫。ハルは可愛いから、最終的には押し倒しちゃいなさい」
「ああ、やっぱ最後はそれしかないんだね」
そう言って二人でけらけらと笑った。開け放たれた窓から差し込む朝日が二人の間を淡く照らす。
ま、涼にキスしたくさせるって言うのは、ちょっとやってみてもいいかな。
土日更新できなくてごめんなさいいい
ここからは毎日更新を再開しますのでよろしくお願いします!
ノクターンで新しい連載始めました! 初っ端からエロ展開ですが、お好きな方はよろしければご覧ください!
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