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(…………。)
私は机の上に並べた楽譜と、教会旋法について書かれたメモを何度目か見比べた。
レオニードお兄さまが非凡な人物だということは、よく分かったけれど。
(だからといって、これがヒントになるとは思えない……。)
書かれている内容は理解できる。
理解はできるのだ。
だが。
(何も繋がらない。)
楽譜とメモの間に、私には共通点が見出せなかった。
むしろ。
(……本当に…関係ある?)
そんな疑問すら浮かんでしまう。
私は小さく息を吐き、練習室へ向かった。
鍵盤で音を確かめながら、そっと旋律を歌う。
――Kyria caelestis,
audi vota nostra――
静かな祈りのような旋律。
けれど。
(……だめ。)
すぐに首を振った。
(そういうことじゃない。)
『綺麗な声で歌おう。』『正確に歌おう。』
そんな意識が入り込んだ瞬間。
まるで薄い硝子に指紋が付くように、
曲の空気が濁ってしまう。
(…この曲の神聖さが消える。)
そして歌えば歌うほど、
疑念が確信に変わった。
(……このヒントは、関係がない。)
メモに書かれた説明を何度読んでも、
この旋律の本質がそこにあるようには思えない。
(音型にも。)
(旋法にも。)
(音程にも。)
(少なくとも、私が探している答えは見つからない。)
なのに。
確かに何かがおかしい。
何かを掴みかけているのに、
指の隙間から零れ落ちていくような感覚だけが残っていた。
試験をするから、とノクティス先生が言っていた。
(…何を、試されるんだろう。)
単純に、成績だけなら私は誰にも負けない。
作中で報われない「セレナ」の運命に抗いたくて、
そして夢の途中で人生を終えてしまったかも知れない「私」のために、悔いのないように努力をしたいから。
成績や技術だけで測れない才能があることは知っている。
私の親友で、ライバルのアリア・フェリス。
彼女の輝きは確かにすごいけれど、私が持つ輝きと種類が違うだけ。
(…成長はしてると思う。私は、ここに来てから、強くなったもの。)
(でも…その強さで、運命にも抗える「強さ」で、私は何をしたいんだろう。)
アリアは、目標を持って歌劇に取り組んでいる。
ノエル様も、はっきりとは聞けなかったけど、卒業後のビジョンを持っていた。
ヴェロニカ様や、ユリウス様は音楽界を大きく俯瞰していて、自らの役割を探しているように見える。
音楽院の生徒だけじゃない。
ノクティス先生は自身の本質について悩んでいたし、
あのレオニードお兄さまだって、何とか地に足を着けようとしているのだろう。
(…どうしよう。)
結局、何も自分の中で納得できるものが無いまま、
ノクティス先生が音楽院に復帰して、「試験」の日が告げられた。




