表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「秘密」の歌姫-元天才子役の私、負けヒロインに転生したので歌で運命を書き換えます。  作者: A Melon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/48

41

色々とあった夏休みが終わり、今日から音楽院の後期授業が始まる。

身が引き締まる思いで制服を整え、鏡の前で最後の確認をした。

(……やっぱり、もう少し家にいたかったな。)

ふと、母の顔が浮かぶ。

ルクレツィア家で過ごした日々は、思っていた以上に穏やかで温かかった。

(お母さまに会いたい……。)

そんなことを考えていた時だった。


寮の扉が控えめに叩かれる。

「失礼いたします。セレナ様、お手紙が届いております。」

「え?」

差し出された封筒を見て、思わず目を見開いた。

見慣れた筆跡。

ルクレツィア家の紋章。

(……お母さまだ。)

急いで封を切る。

便箋に目を通し――そして私は、盛大に顔をしかめた。


(えっ。)

もう一度読む。

読み間違いではない。

(えっ!?)

文面の最後に記された名前を見つめる。


胸の奥が嫌な予感でざわついた。

(……まさか。)

私は手紙を畳むと、そのまま部屋を飛び出した。

後期の初日だというのに、優雅に歩いている余裕などなかった。

――胸騒ぎがする。

そして。

その予感は、見事なまでに的中してしまった。


「ごきげんよう。麗しき歌姫……随分と待たせてしまったようだね。」

聞き覚えのない男性の声に、私は思わず足を止めた。


音楽院のロビー。

朝の光が差し込むその中央で、一際目立つ人影がある。

銀色の髪、澄んだ青い瞳。

まるで舞台の上から抜け出してきたような華やかな美貌の青年だった。

その人物は、ごく自然な仕草でノクティス先生の手を取っていた。


「……離してくれるかな。」

先生の声は穏やかだった。

けれど、その微笑みは少しも目元に届いていない。


私は知っている。

あの笑顔は、まだ「伝説の初代エトワール」でいられる時の顔だ。

それ以上の怒りを超えると、このロビーの空気は氷の湖と化す。


それを知ってか知らないか、青年はまるで気にした様子もない。

「先輩は相変わらず冷たいな。半年ぶりの再会だというのに。」

「半年ではなく八ヶ月だよ。」

「そうだったかな?」

楽しそうに笑う青年に、先生は小さくため息をついた。

その光景だけでも十分異様だった。


後期初日の音楽院のロビー。

絶世の美女にしか見えないノクティス先生と、浮世離れした美男子が親しげに言葉を交わしている。

当然、生徒達の視線は二人へ集中していた。


「あの方、どなた……?」

「すごく綺麗……。」

「ノクティス先生のお知り合い?」


ざわめきが広がる中、先生がふとこちらへ視線を向けた。

そして、ほんの一瞬だけ、助けを求めるような顔をした。


「……レオニードさん。」

「……お兄様。」

思わず、先生と声が重なった。


青年―レオニードはぱちりと目を瞬かせる。

そして、次の瞬間、ぱっと顔を輝かせた。


「セレナ!?」

その勢いのまま、こちらへ歩み寄ってくる。

嫌な予感しかしなかった。


「会いたかったよ。しばらく見ない間にこんなに可愛くなって…!」


ロビーで自分の名を呼ぶ声が大きく響き、私もこの目立つやり取りに巻き込まれてしまった。


(”これ”が、レオニードお兄様ね…)


私は、美男美女には見慣れているつもりだった。

転生前には芸能界にいたし、この世界にきて更に綺麗な人たちも見てきた。

それでも、動揺するほどの美貌の持ち主。


髪の色や顔立ちなど、どう見てもセレナとの血の繋がりを感じる要素は揃っているが、

声や身振りの大きさ、装いの派手さから兄の方が圧倒的に存在感がある。


(見た目もそっくりだし、言うこともお母さまと全く一緒だけど…)

(確かに、異質すぎる。)


(マティアスお兄さまとも全く違うタイプの方みたい。)


(…乙女ゲームの攻略対象にいるタイプね……)


そんな冷めた感覚で、自分の兄を観察してしまった。


「あの方…セレナ様のお兄さま…?」

「やっぱり、お兄さまもお美しいのね…!」


「ノクティス先生とはどういったご関係…?」


通り過ぎる生徒たちの目線とざわめきに気付いた兄は、私との挨拶をそこそこにして、

更に馴れ馴れしく先生に近づいた。


「…やめなよ。妹さんの前で。」


ノクティス先生は鬱陶しそうに、それでも優雅さは決して崩さずに彼から逃れた。

扇子で口元を隠しながら訝しそうにレオニードを問い詰める。


「帝国の名誉あるカントールが一夜にして職なしになったって聞いたけど。

 …君の偉大なお父様の名前をもっても帰国がこんなに遅れるって一体何をしたの?」


「…ふふ、貴方のような清らかな人にはとても聞かせられないようなことだよ。」


(…確かに。あんな醜聞、しかも全くの出鱈目…。恥ずかしくて言えないでしょうね。)


私は心の中でだけ突っ込みを入れていた。


トーンを冷たく落とした声の時のノクティス先生は、何よりも恐ろしい。

その証拠に、野次馬のような生徒たちはいつの間にか姿を消して各々の教室へと向かっている。


そんな先生を前にして全く動じない。

むしろノクティス先生の目線が、私にSOSを送っているようにすら見える。


(”これ”が、レオニードお兄さま…)

もう一度、心の中で反芻する。


(……なるほど。)

(お母さまが、あれほど念入りに手紙を書いて寄越した理由が分かった。)

(確かに、この人を放っておいてはいけない。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ