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「秘密」の歌姫-元天才子役の私、負けヒロインに転生したので歌で運命を書き換えます。  作者: A Melon


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4/22

4

その日の夜は、静かだった。

寮の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。

残るのは、窓から差し込む月の光だけ。

 眠れなかった。目を閉じるたびに、あの声が蘇る。


 アリアの歌声。

 リズム感は独特だし、

 発声はまだ安定していないけど、

 素直な声。素朴で、柔らかい。暖かさ、優しさも感じる。

 等身大の少女らしさも母性も併せ持つ、魅力的な歌声。

(……わかってる)

 技術じゃないことも。正しさだけじゃ届かないことも。


 かすかに、光が揺れた。

 視界の端で、何かが瞬く。

顔を上げると、鏡の表面に淡い光が浮かんでいた。

波紋みたいに、ゆらりと広がる。

そして。


「……起きてるね」


 声が聞こえた。

 月の光のような、静かな声。


 鏡の中に、人の顔が映る。儚げな印象の、女性…?

 ラベンダー色の柔らかそうな髪。

 女神のような美貌。

 そして、少しだけ眠たそうな目。


「ノクティス先生……」

ミレイユ・ノクティス先生。

ゲームでは、「伝説の元歌姫」としてチュートリアルやステータス画面に登場しプレイヤーを導いてくれる優しい先生キャラだ。


「うん。こんばんは、セレナさん」

 軽い調子。ノクティス先生の口調って、もっといかにも女性らしかったような。


「……先生、どうして」


「通信。」

「元”エトワール”の特権」


 私の部屋の鏡に先生が映っている状況を聞いても、このあっさりとした答え。

 それ以上説明する気はないらしい。


淑女キャラのノクティス先生のイメージ、何か狂う…。

開発途中のゲームだから、セリフはまだ箇条書きのままなのかな?


「眠れない?」

「……はい、少しだけ」

「ふーん」

 興味があるのかないのか、わからない相槌。

 でも。

 視線だけは、まっすぐこちらを見ている。


「今日、歌ったでしょ」

「……はい」


「上手だった」

先生の言葉に、何故かほっとして、

「それだけだったけど」

 心臓が、わずかに跳ねた。


「……聴いていたのですね。」

 思わず、口をついて出た。

自覚があるから、分かっているから、刺さってしまう。


「うん。君の歌、“正しい”よ」


「好きだよ。」

思わずドキッと心臓が鳴った。


「君の声。」


「でも、届いていない。」


 淡々とした声。

 一瞬視線を落とした私に気づいてか、先生は話題を変えた。


「明日、3限に合唱があるよね。」

「ちょっと、教えに行くから。」


「えっ」


聖セシリア音楽院の元”エトワール”、あらゆる特権と羨望を集める「選ばれた歌姫」、

伝説とも呼ばれるその初代エトワールのノクティス先生が指導をしてくれる…?


「あ、勘違いしないでね。」

「みんなの指導をしに行くってこと。」


 期待した分、ほんの少し肩が下がる。

「みんな」、つまり、アリアのことも…


それも、そうだ。

特待生はあの子。

一般家庭に生まれたアリアが、名門の音楽院に特別な待遇で入学したのは、

教会で歌っているところをノクティス先生が見つけて、その歌声の可能性を見出されたから。


私じゃない。

夜中に個人的に魔石で通信してくれたからって、

こんなにすごい人が目にかけてくれるわけなんかない。


「Cantus Nuptialis-婚礼-」

「この曲、持っていくから。勉強しておくといいよ。セレナさんは賢いから期待してる。」


暗い部屋の中、曲名を急いでメモ書きした。

明日、朝一番に図書館で譜面を探そう。


「あ、君」


 一拍。


「自分の声、聴いたことないでしょ」


息が止まる。

胸の奥で、何かが軋んだ。


「おやすみ、セレナさん」



光が消える。



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