表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「秘密」の歌姫-元天才子役の私、負けヒロインに転生したので歌で運命を書き換えます。  作者: A Melon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/48

34

実際、アルディエ家の豪華絢爛な図書館で行われたことは、確かに“プレゼン”――あるいは“作戦会議”だった。


 ユリウスは図書館のカウンターから資料や譜面を取り出し、慣れた手つきで机へ並べていく。


その後、私達は近くの閲覧席へ腰掛けた。


あれだけ多くの使用人がいるのに、彼も、その父親も、自分で動いて何かをすることを好むらしい。


どこか不思議な家だと思った。


「……さて」


資料を開きながら、ユリウスが口を開く。


「ヴェロニカ・エーデルさんは、ご存知ですね」

「今年の聖セシリア祭で、最も注目を集める方の一人でしょう」


まるで辞典の項目を読み上げるような口調だった。

私は少しだけ唐突に感じる。


(……どうして今、ヴェロニカ様のお話が出てくるのかしら)

 けれど、何の意図もなくユリウスが話題を選ぶとは思えなかった。


私は口を挟まず、そのまま続きを待つ。

同学年ということもあり、ユリウスから語られるヴェロニカの情報には、私の知らないものも多かった。


 ヴェロニカ・エーデル。

楽譜や音楽専門書の印刷・出版を手がける、新興中流貴族エーデル家の令嬢。

 ――東方から伝わった印刷技術は、近代音楽の発展そのものを支えている。


楽譜を大量に複製し、多くの人間へ届けられるようになったことで、芸術音楽は一部の宮廷文化から、より広い世界へ開かれていった。

 

「新興貴族である以上、エーデル家は“実績”を必要としています」


ユリウスは一枚の譜面を指先で軽く叩いた。

紙の乾いた音が、静かな図書館に小さく響く。


「ヴェロニカさんへの英才教育も、その一環でしょう」


つまり。

優秀な令嬢として名声を確立し、より上位の貴族社会へ食い込むための教育だ。


 事実、ヴェロニカは聖セシリア音楽院へ入学して以降、ほぼ全ての科目で首席を維持し続けている。


「一見、恐ろしい程に隙のない方ではありますが」


一瞬、ユリウスの声色が変わった。


(…ユリウス様がそうおっしゃるなら余程なのでしょうね。)


「彼女の本質は、決して悪人ではない。」

「…ですが。」

「そこに、あの方の難しさがあります。」


私は、新入生コンサートの楽屋でのやり取りを思い出していた。

勘違いではあったが、エトワールであるノエルとの衣装被りを巡って揉めた。


(…確かに。)

(あの時は、私が「平民へのいじめ」と「上級生の衣装と色を被せる非常識」を重ねたと思われた。)

(あの時の強い物言いは、ヴェロニカ様の正義感から取った態度ではある。)


「特に、ノエル様が関わると余計に難しい。」

「あの二人の関係は、他者が簡単に入っていけない複雑な何かがあります。」


(…それも、何だかわかる気がする…)

私は相槌だけで、ユリウスの話を黙って聞いていた。


まだ、話の先が見えない。


「私は、ヴェロニカさんと入学当初から『あること』で結託しています。」


「ですから、私と組んでいることで、ヴェロニカさんが絡むトラブルは防げるでしょう。ほぼ、全てと言っていいくらいに。」


(…ユリウス様はヴェロニカ様と、入学当初から何かでつながっている。)


(……つまり)

(ユリウス様側につく限り、ヴェロニカ様とは敵対しない、ということ……?)


「…そのことが、どう私と関わってくるのでしょうか。」

ようやく私が口を開くと、ユリウスはよく聞いてくれた、とでも言うように口角を上げた。



「『白薔薇のカントール』が、今年の聖セシリア祭で上演されます。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ