25
「……。」
寮まで、あと少しだけ距離がある。
歩きながら、ふとユリウスに聞いておきたかったことを思い出す。
「…ユリウス様は」
「ノクティス先生をよくご存知なのですか。」
「……ええ。」
「個人的にというよりは…お互いの家族同士で関わりがある、と言ったところでしょうか。」
確かに、劇場の運営や興業を家業とする家と、初代エトワールを輩出した家となるとそのような関係になるのだろう。
「…ノクティス先生って、意外にわかりやすい、ですよね…。」
私は周囲を見渡して恐る恐る呟いた。
「……そう、でしょうか。」
ユリウスは足を止めた。
本気で意外そうに、こちらを見ている。
つられたように私も目を大きく開き、首を傾げた。
「はい。表情や仕草で繕っても、声に機嫌が全て出ていませんか?」
「…いいえ。全く。」
「あの家の者は、全員、何を考えていたのか…」
ユリウスの声は、途中から独り言のように小さくなった。
私は聞こえないふりをしたが、その言葉の意味が気になって仕方がなかった。
彼は再び歩き出し、気を取り直したように話し始めた。
「…セレナさんはきっと、耳が良いのでしょうね。」
「わずかな声の高低、速さのブレ、リズム感の癖…」
「それを瞬時に聞き取れる力を持っている。」
「…えっ。」
——思い当たることはあった。
ノクティス先生の欠伸。
ヴェロニカの楽屋での捨て台詞。
人が隠そうとしていた“声”を拾っていたのは、私だけだった。
それに——
(今日のエトワールの演奏の違和感に、気が付いていたのは私とノクティス先生だけ…)
(今のユリウス様の独り言も…)
「今まで、思ったこともありませんでした。」
「ありがとうございます…ユリウス様。今後の演奏に、活かします。」
ユリウスは優しく頷くだけで、無言だった。
——そして。
「ああ、思い出しました。」
再びユリウスが口を開く。
「エトワール制度を考案した人を、知っていますか。」
私は小さく首を振った。
そう言えば、今まで一度も聞いたことがない。
「——セラフィーヌ・ド・リュミエール。」
暗闇の中でも、ユリウスが真っ直ぐこちらを見ているのがわかった。
(…女性の名前?)
「ミレイユ・ノクティス…初代エトワールの母親です。」




