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新入生コンサート当日。
私は緊張感を持って、音楽院内の音楽ホールの楽屋口へ向かった。
(……大丈夫。)
(ここまでよくやってきた。)
(あとはこの緊張感を集中力に変えれば…)
今日のプログラムは、最初に第一部、新入生お披露目の合唱。
終了後、ソリストは楽屋へ行って出番の準備、それ以外の生徒は客席で鑑賞。
第二部はソロ部門、いよいよ私たちの出番が来る。
そして、コンサートの締めには3年生の現“エトワール”の演奏。
エトワール——
この音楽院で、たった一人に与えられる、「歌姫」を指す称号。
成績でも、人気順でもない。
でも、誰もが、納得してしまうという。
選ばれるべくして選ばれた、と。
(……まるで品評会、のような…)
ゲーム内では、ヒロインがこの“エトワール”を目指すことも、物語の主軸となっている。
(今年のエトワールは…)
(ノエル・フォン・アルシェール…)
どんなキャラクターだったかは、覚えていない。
貰った台本には、まだいなかったかも知れない。
でも、その名前には見覚えがある。
図書館や、新聞で目にしたことがある。
フォン・アルシェール…侯爵家、上流貴族だ。
侯爵家令嬢のエトワール…
(どんな人で、どんな歌を歌うんだろう…)
そう思った時、硬質で冷たい、女性の声が響いた。
「おはようございます。」
「エトワール、ノエル・フォン・アルシェール様がお通りになります。」
この声かけは、『エトワールが通るから、貴方たちは道を開けなさい』を意味する。
(…うーん…何か…懐かしいような…)
大女優などが楽屋入りする時、本番入りの時などによく聞いたフレーズ。
この世界でも、こういうことはあるようだ。
私は邪魔にならないようにそっと端に寄りながらも、
目線をその声の主へと移していた。
2年生の校章バッジと音楽院の制服。
赤茶色の長い髪を簡単に一つに束ねていて、真面目そうだけど、地味な雰囲気。
長い前髪と大きな眼鏡で瞳と表情が隠れてはいるが、周囲への警戒心や神経質さが声や仕草に現れている。
(……違う)
(この人、周りを警戒しているというよりは)
(——よく見てる)
(人を値踏みするみたいに)
(でも、この先輩がエトワールではない…よね)
(…2年生だし…)
その少女の後ろ——
ふと、周囲が静まった気がした。
誰かが息を呑む。
そして、ゆっくりと歩いてくる人影が見えた。
——空気が、変わる。
視線が一点に集まる。
——その中心にいたのは、淡緑の髪を短く整えた、長身の少女。
男子生徒のようにパンツスタイルの制服を着用している。
余裕のある身のこなし、3年生の校章バッジ。
私の前を通り過ぎた時、ふわりと軽やかな、花のような香りがした。
「おはようございます。」
「ごめんなさい…通りますね。」
人の良さそうな笑顔には、気品も感じられる。
凛としているが、温和そうな女性の声。
(…この人が。)
今年のエトワール。
(……すごいオーラ。)
素敵な人。
だけど——少しだけ、違和感を感じた。
(この人は——)
(何を、演じているの)




