表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「秘密」の歌姫-元天才子役の私、負けヒロインに転生したので歌で運命を書き換えます。  作者: A Melon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/22

16

「……ごめんなさい」

アリアの謝罪は、ほとんど反射だった。

彼女は、ずっと謝っている。


(——この子は)

(ずっと、こうやって生きてきたの……?)


胸の奥が、静かに痛んだ。

(私も——)

(この子に、謝らなきゃ)

勝手に羨んで。

勝手に嫉妬して。

何も知らないまま、決めつけていた。


「……いいえ」

「謝る必要はありません」

私は、ゆっくりと首を振った。


人目を避けるように、私たちは練習室へ戻る。

扉が閉まった瞬間——

「……ごめんなさい」

アリアが、再び頭を下げた。

「私、新入生コンサートの出演……やめます」

「——どうして」

気付けば、一歩踏み出していた。

「理由を、聞かせてください」

責めたいわけじゃない。

でも。

「どうして、“やめる”という結論になるんですか」

その瞬間、アリアの肩が小さく震えた。

「……だって」

「私、やっぱり……場違いだったから……」

途切れ途切れの声。


「迷惑ばっかり、かけて……」

胸の奥が、強く軋んだ。


「……違います」

今度こそ、はっきり伝えなければいけない。

「私は一度も、あなたを迷惑だと思ったことはありません」

お願いだから。


(……届いて)

その瞬間、視界が、不意に滲む。


「……っ」

遅れて、涙が零れた。


「どうして……私を頼ってくれないの……!」

自分でも驚くくらい、声が震えていた。

「たった一度の新入生コンサート、一緒に出られるって……」

「嬉しかったのに……!」

言葉が止まらない。



(……違う)

これは、アリアだけに向けている言葉じゃない。

(——私だ)

誰にも頼れなかった。

助けてと言えなかった。


昔の自分へ向かって、叫んでいる。


その瞬間——

(——みるくちゃん)

耳の奥で、甘ったるい声が響いた。


(貴方は、特別な子なの)

(他の子達とは違うのよ)


違う。

私は、“美音”だ。

「商品」の名前で、呼ばないで。


(——みるくちゃんは、いい子)

(お友達なんていなくても、大丈夫)


違う。

私は、ずっと欲しかった。

対等に話して。

本音をぶつけ合って。

一緒に前へ進める——そんな相手が。


もう、後悔したくない。

「……頼ってほしいの」

涙を拭いもせず、私は顔を上げた。

「友達だから」


アリアの唇が、小さく震える。

「……私も」

掠れそうな声。

それでも、確かに。

「ほんとは……嬉しかった」

「セレナさんと、コンサート……一緒に出られるの」

潤んだ瞳が、逃げずに真っ直ぐこちらを見る。

「……出たい、です」

その一言だけでよかった。

胸の奥に絡みついていた何かが、

ゆっくりほどけていく。


「……はい」

自然に、頷いていた。

「一緒に、出ましょう」


少しの沈黙。

どちらからともなく視線を逸らす。

——その空気が、少しだけ柔らかい。

「……あの」

先に口を開いたのは、アリアだった。

「さっきのこと……」

声が、少しだけ小さくなる。

「セレナさんのことを、誰かに言われたのは……本当です」

視線が、一瞬だけ扉へ向いた。

(……警戒してる)

「わかりました」

私はすぐに頷く。

「その件は、また改めて聞きます」

「……はい」

さっきよりも、落ち着いた声だった。

(……よかった)

今は…まずは、それでいい。


その時、廊下に鐘の音が響いた。

一限の終了を告げる鐘。

同時に、この日の練習室使用時間の終わりでもあった。

「……もう時間ですね」

「……はい」

結局、伴奏合わせの初日。

練習らしい練習は、一度もできなかった。

けれど——無駄な時間だったとは、思わない。

私たちは部屋を出て、人の少ない中庭へ向かった。

春の風が、柔らかく頬を撫でる。


ベンチに腰掛けたアリアが、改めて口を開いた。

「……セレナさんが、迷惑してるって言われて」

「正直……すごく、悲しかったんです」

「……」

「でも」

「違うって言ってもらえて……安心しました」

胸の奥が、じんわり温かくなる。

「……それは、こちらの台詞です」

小さく息を吐く。

「あのままで終わるのは、嫌でしたから」

少しだけ間を置いて、私は声を落とした。


「先ほどの“誰か”の件ですが」

アリアの肩が、ぴくりと揺れる。

「無理に今、話さなくて構いません」

「ですが、放置はしません」

私ははっきりと言い切る。

「必要なら、私の名前で先生に相談します」

「実家にも話を通せます」


アリアの目が、少し見開かれた。

「これは、私の問題でもありますから」

そして——

「私のことも、頼ってください」

「その代わり」

「私も、あなたを頼ります」


「……はい」

今度の彼女の返事は、しっかりとした声だった。

ふと、アリアが困ったように笑う。

「……あの」

「呼び方、なんですけど」

「?」

「“様”って……やめてもいいですか」

一瞬きょとんとして、すぐに意味を理解する。

「……では」

少しだけ、意地悪く。

「私も、“さん”をやめます」

「……え」

「アリア、でいいですか?」

アリアは目を丸くして——

それから、小さく笑った。

「……はい」

そして。

「セレナさん」

その響きが、少しくすぐったい。


けれど私は、わざと一歩引く。

「ただし、馴れ合うつもりはありません」

空気が、ぴんと張る。

「あなたのステージマナーも、発言も、歌も」

「気になることがあれば、遠慮なく言います」

そして。

「私も、ソリストを狙っていますから」

静かに告げた。


一瞬の静寂。

けれどアリアは、まっすぐ頷く。

「……はい」

「私も、歌える機会は全部欲しいです」

「だから——全力で歌います」

真正面から、受けて立つように。

その答えに、思わず口元が緩んだ。

「……望むところです」


春の風が、二人の間を吹き抜ける。

張り詰めているのに、不思議と心地いい距離。

(……これが、“対等”)

(——ここから、始まる)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ