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アリア視点です。
私の名前は、アリア。
由来なんて、特にないらしい。
兄弟が多すぎて、もう名前を考える余裕もなかった、と。
母は、笑ってそう言っていた。
(……そんなものだよね)
でも——
教会で聞いた名前が、少しだけ引っかかっている。
聖セシリア。
音楽の守護聖人。
(……響き、少し、似てる)
(文字の並び?とかも…)
ううん、ただの偶然だと思う。
私は体が大きくなるのも、言葉を覚えるのも遅かったから、
力仕事も、勉強も苦手で、怒られることが多かった。
楽しかったことと言えば、絵本やお芝居の真似事をして、
お友達や兄弟と「ごっこ遊び」をしていた時間。
こんな私でも、「冒険者」や「お姫様」になれる時間は、楽しかった。
少し大きくなると、教会で歌う時間が、もっと好きになった。
祈りを捧げる歌が、特に一番好きだった。
私には神様や聖女様が本当にいるかなんて、わからない。
でも、こんなに綺麗な音に囲まれていたら、聖女様は本当に存在するように思えてくるし、
本当に、心を込めて歌ったら、祈りが届くんじゃないかって思えた。
歌を歌っている時だけは、本当に楽しかった。
ある日、有名な学校の偉い先生がきて、私を聖セシリア音楽院に入れてくれる
という話になった。
最初はお爺さんの先生だったけど、途中から若い先生に代わって、
その先生、ノクティス先生の推薦で入学する、ということになった。
嬉しかったけど…
入学後、すぐに現実を思い知らされた。
セレナ・ルクレツィア様を知ったから。
入学式で代表挨拶をする彼女は、
お人形みたいに綺麗で、所作も完璧。
代々優秀な音楽家を輩出する名家のご令嬢。
歌声は天使のように美しく、可憐で、成績優秀。
それなのに、偉そうにすることは全然なくて、常に努力してる。
(私と同じ年なのに、こんなにすごい人がいるなんて)
(やっぱり私、場違いなところに来ちゃった…)
セレナ様は本当に高嶺の花で、何度か勇気を持って話しかけることはできたけど、
お話を続けられたことなんて無かった。
たまに挨拶をしてもらえた日は凄く嬉しかった。
新入生コンサートで、セレナ様と一緒に出演できる、とノクティス先生から聞いた時は本当に嬉しくて、頑張って良かったって思った。
けど。その次の日…
話しかけてきたのは、とある女子生徒。
「……あの、アリアさん…。」
「ごめんね。言うか迷ったんだけど」
平民同士仲良くしようね、と私を助けてくれたり、移動教室に一緒についてくれたりした子。
その子が私に、言いにくそうに告げてくる。
「セレナさん、あなたのこと……少し困ってるみたい」
「伴奏のことも……その…ちょっと、急だったみたいで」
「本当は別の形が良かった、って……先生と話してるの、聞いちゃって」
「セレナさん、すごく優しいから……そのまま引き受けたみたいだけど」
(……やっぱり)
(私、迷惑かけてたんだ)
そして、今日。
「……アリアさん」
彼女の声、視線…セレナさんを本当に、困らせて、怒らせてしまった。
「……誰かに、」
「“私が、あなたを迷惑に思っている”と——そう聞いたのですか?」
「……答えてください」
「……っ」
「……ごめんなさい」
誰にも聞こえないくらいの声で、そう呟いた。




