12
気が付くと私とユリウスは一緒に寮に向かって歩いていた。
他愛のない話を続けていく。
学校には慣れたか、どの科目が好きか、苦手かなど、
ごく普通の先輩と後輩の会話だった。
「そういえば、ルクレツィア様は」
「セレナ、とお呼びください」
「セレナさんは、音楽院で仲の良いお友達はいらっしゃるのですか」
「…いえ、私が勝手に、お友達になりたいと思っている方はいるのですが…」
寮の前まで来ると、二人で足を止めた。
「なるほど」
「では、その方は幸運ですね」
「あなたのような方に、そう思っていただけるのですから」
「では、私はこれで」
女子寮の前で、彼は一礼した。
無駄のない、完璧な動作。
女子寮の扉をくぐった瞬間、
外の空気とは違う静けさに包まれる。
(……なんだろう)
胸の奥に、わずかな違和感が残っていた。
褒められた。評価された。
欲しかった言葉を、確かにもらったはずなのに。
(……何も、感じていない。)
部屋の扉を開けると、机の上に小さな紙片が置かれていた。
見覚えのある、乱雑な字。
『夜、七時。通信』
(……ノクティス先生だ)
たったそれだけなのに、
なぜか、少しだけ肩の力が抜けた。
(……そういえば)
ユリウス・ヴァルツェン・ド・アルディエ。
攻略対象キャラクター。配布キャラだった気もする。
劇場や公演機能を解放する役割。
(ちゃんと、“そういうイベント”は起きるんだ)
七時になり、魔石を起動すると、
すぐにノクティス先生に繋がった。
『……遅い』
第一声でわかる。
(……機嫌、悪い)
1ヶ月も経つとこの先生のことも少しはわかってくる。
ノクティス先生は、全部声に出る。
仕草や表情、言葉で繕っても、音を偽れない。
案外わかりやすい人なのだ。
『……まあいい。見たよ、成績』
『やりすぎ。あんな点数、可愛げない』
『音楽院始まって以来と言われた私の学生時代の成績を簡単に超えるなんて』
「……褒めてます?」
『褒めてない。気に入らない。』
「成績…簡単には、超えられませんでしたよ。」
『……わかってる。』
その一言は、短かった。
それだけなのに。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
褒められた、という感覚とは少し違う。
……努力を、言い当てられた気がした。
……ああ、この人は、見ていたんだ。
結果じゃなくて、そこに至るまでを。
気づけば、口をついていた。
「……ありがとうございます」
沈黙と、ほんの一拍のあと、
『そういうの、今はいいから』
「え?」
『こういう話、疲れる』
「……先生が振ったんですよね?」
…あれ、さっきよりも機嫌が悪くない声になっている。
『で、本題だけど』
その声だけが、少しだけ低くなった。
『新入生コンサートのソリスト選出が終わったから、報告するね。』
先生の真面目な声に、思わず背筋がすっと伸びた。




