赤い雨
ノアさん。ノアさんにはメッセージを残します。このメッセージはキュベレイ9さんからノアさんに伝えてもらいますね。
ノアさん。ノアさんが今もあの地下遺跡に籠っているとルシエラさんから聞いています。あの決断はノアさんに、それ程大きな傷を残したのだと、わたくしたちは悔恨の念に駆られています。
あの後、ノアさんが″偽化″を終えた後、ノアさんは全てのメディアを通じて事実を告白した、とルシエラさんから聞きました。それに対する怨嗟や非難の声が毎日毎日、ノアさんに投げ付けられているとも聞きました。
それ以降ノアさんは、地下遺跡に引き籠ってしまわれましたね。会社も解雇されててしまわれたそうですね。セシルさんという理解者がノアさんに寄り添っていらっしゃると聞いています。
ノアさんの世界を巻き込んでしまったのは、元はといえばわたくしの所為なのです。
これから、わたくしの話す事を聞いて、わたくしを罵しるのも蔑むのもノアさんの自由です。ですが、最後まで聞いて下されば幸いです。
イザベルさんがラウさんと出会った頃の話になります。ルシエラさんとわたくしは、ルシエラさんの世界の行く末について話し合っていました。
ドゥームズ感染被害は確実に増加しており、このまま進めば世界は再びドゥームズ感染者が大部分を占めるようになるだろう、と予測されました。そして人類が絶滅した時、マグダエルの遺跡にある装置の取り扱いについて二人で議論していたのです。
ルシエラさんは、例え世界がどの様な結末を迎えたとしても、装置はそのままあの世界にあるべきだ、と言っていました。
ですが”消灼”が使われてしまったら跡形も消え去ってしまいます。それはとても惜しい事だ、とわたくしは反対していました。
わたくしたちは議論を重ねました。結論はこのようなものになりました。
もし”消灼”が使われなかったら、あの世界に残しましょう。感染者の中からあの装置の原理を解き明かす者が現れ、彼らが自分で自分を治癒する可能性に賭けましょう。
もし”消灼”が使われたら、装置は別の世界に移送させましょう。後にこの世界の改造に使用できるから。
そして移送先の世界としてわたくしが選んだのが、ノアさん、ノアさんの世界でした。
そして、ルシエラさんの世界では”消灼”が使用されたため、わたくしと彼女は移送を実行しました。
ゾーイさんの身体が消失した時、あの二つの装置をノアさんの世界に移送したのもわたくしの決断でした。あの装置の本体を兄の居る世界に残しておきたくなかったのです。残したままでは、兄は邪魔者の排除のために躊躇無く使用した筈ですから。
しかし、あの兄は装置移送の際発生するの狭間のざわめきを解析したのでしょう、ノアさんの世界を突き止めてしまったのです。
ゾーイさんの二つの世界の様な近縁世界という程でもありませんが、ノアさんの世界とヴィーさんの世界はそれなりに近い世界でした。
ゾーイさんの世界で、兄はドゥームズ感染の確実性を上げる為、ミードさんにドゥームズウイルスの兵器化を研究させていました。兵器化によるドゥームズ蔓延はゾーイさんの働きにより失敗しましたが、その資料はゾーイさんによる廃棄の手を擦り抜け兄の手元に残ったのです。
一応の目的を果した兄は、ゾーイさんの世界を一度抜け出しました。ノアさんとヴィーさんの二つの世界で、イストという軍需企業の権力を持つ人物にインカーネイションしました。そして、フリギウスに相当する国の軍にドゥームズ兵器を提供したのです。
その一方で、ルシエラさんとキュベレさんの装置、特にキュベレさんが開発した腕輪とチョーカー型の端末をベースとした戦闘スーツ、LuCyを自身の企業に開発させていました。ヴィーさんとノアさんの世界の微細化技術は卓越したものがありました。その為、LuCyにはオリジナルの装置程の汎用性や規模の大きさはありませんでしたが、小規模で限定された種類の効果を発生させる事ができました。
ドゥームズ兵器化された兵士達は、やがて自分達の定めを呪い、軍を集団脱走します。彼らを捉えられる者は誰もいません。この脱走にも兄は関わっていました。兵士達に兵器化の真実を態と漏らしたのです。
脱走した彼らは北上を始めました。ヴィーさんの世界では、彼らはシルヴァニャで自治組織を作りました。兄が組織し、LuCyの配備されたCADが彼らの北上を阻んだからです。兄は急速な拡散では無く、じわじわと確実に感染域を広げる目的があったのだと思います。
また、ノアさんの世界ではご存知の通り、シルヴァニャへの途上にあるソフィアでのADeSとの対峙となりました。ソフィアにあるオリジナルの三基の情報もまた兄によって脱走兵達に齎されていました。
兄はヴィーさんを通して、”消灼”の詳細な情報を盗み出そうとしていました。そしてそれをLuCyに組込み、兄の実験を阻む者を排除しようとしていたのです。ノアさんの世界では、三つのオリジナル装置を破壊する事さえ躊躇しませんでした。
ですが、ノアさん。ノアさんの決断は、ノアさんの世界を兄の毒牙から守りました。セシルさん以外の、ノアさんの世界の誰もが認めなくとも、セシルさんと、あなたと共にいたルシエラさん、ゾーイさんはあなたが正しい選択をしたのだと知っています。その事だけは心に留めて欲しいと思います。
全ての原因を作ったわたくしが何を言っても信ずるに足りないかもしれませんが、あなたは最善の選択肢を自ら掴みとったのだ、とわたくしは思います。
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ノアさん。ノアさんがこの後どうしたいのか、わたくしには聞く資格も勇気もありません。なので、わたくしと彼女で考えた贈り物を残していきます。あの兄はこの世界に二度と関わらせません。
もし少しでも興味を持たれたのならキュベレイ9さんやルシエラさん、ゾーイさんに【赤い雨】についてお聞き下さい。
ノアさんの心の中に降るその雨が何時か止みますよう、お祈りいたします。
ノアさん、わたくしにはノアさんにお別れを告げる資格など無いのかもしれません。なので、これだけにします。
もうお目にかかる事は無いでしょう。さようなら、ノアさん。
さて最後になりましたね、シルフ




