大地が眠る間に
ヴィーさん。あなたの協力のお陰で、身体を保持したまま意識体を狭間へと渡らせるアウェイクンと、その逆に狭間にある意識体を身体に定着させるインカーネイションの理論を完成させる事ができました。
あなたは何でもない事だ、と言いますが、厳しく忙しい訓練や任務の合間を縫って協力して下さった事は、並大抵の事ではないと思います。今更ですがお礼を述べさせて下さい。本当にご協力ありがとうございました。
ゾーイさんの事があったので、まずはあなたの夢の中でルシエラさんが接触する事から始めましたね。毎日のお邪魔してたので大変だったのではないですか。最初の内は夢を見たことも忘れてた、ですか。でもLuCyを通しても接触してたから……それも妙に思い通りに動くとしか思わなかったと。ああ、訓練用のLuCyと比べて、実戦用の本物は何て凄いものだ、と思ってたのですね。訓練の時はあなたとルシエラさんの相性を見てましたから。そう思われたのも当然かもしれません。
でも段々と、LuCyとの一体感が上がってきたでしょう。ルシエラさんも慎重に事を進めていましたから。ラウさんとルウさんはいきなり交流を始めましたけどね。あなたの場合はゆっくり進めて正解だったでしょう。その分LuCyの声、ルシエラさんですけど、への信頼も増したのではないでしょうか。
でも、あの段階であなたの事を兄に知られているとは思いませんでした。そもそも兄がアウェイクンやインカーネイションを開発していた事さえ、あの時点では信じられなかったのですから。兄も優秀な科学者ではありましたが、わたくしとは異る分野での話でしたので。やはりルシエラさんやキュベレさんの資料の存在が大きかったのでしょうか。彼女とも議論しましたが、そう結論付けるしかありませんでした。
あなたが兄に交換条件という名の脅しを受けた時、ここに居るわたくし達と彼女は決めたのです。あなたにわたくし達の実験への更なる協力を依頼しよう、と。断られたらどうしたのか、ですか。その時はルウさんに依頼するか、うーん、ひょっとしたら手詰りだったかもしれません。あなたが依頼を受けて下さって感謝の念で一杯です。
実験の目的は三つでした。
一つ目は、意識体と身体の分離する方法を確立する事。
二つ目は、狭間にある意識体を身体に戻す方法を確立する事。
三つ目は、狭間にある意識体の領域を正確に知る方法を確立する事。
最初の二つは、ゾーイさんの経験と、その時のキュベレイ9さんの記録から、実現可能だという事は分ってはいました。けれど再現可能な方法での実現方法については未だ手が付けられていませんでした。理論的には未整備でしたし、偶発的な要因が無かったかどうかの検証も手付かずだったのです。
三つ目に関しては、既にわたくし達が居るのに何故かと、あの時も聞かれましたね。わたくし達は常に此処に居たので、ある程度の範囲にある事は分りますがその境界が曖昧なのでした。なのでヴィーさんが出たり入ったりして下されば、境界が確定できるだろうと予測していたのでした。
ヴィーさんの承諾を頂いて、何度も何度も実験したお陰で三つの目的は全て、叶える事ができました。しかも三つ目の研究の途中で彼女はもう一つの発見をしたのですが、これは内緒です。ええ、内緒ですなんですよ。ごめんなさね。
でも、あなたが必死になって護ろうとしてくれた”復光”と”消灼”の情報を、兄はあなたを監禁して奪って行ったのでしたね。あなたが監禁されている間に、兄はあなたのLuCy内に残された記録からあの二つがどうやって起されるのか、読み取ったのでした。あの時は兄が何の為にそれらを欲しがっているのか理解できませんでしたが、今でははっきりしています。兄は自身の行動を邪魔する者を”消灼”で抹殺したかったのですね。その為なら何の関係も無い人びとを幾ら巻き添えにしてでも兄は排除したかったのだ、と。本当にあの兄は人類に害しか齎しませんね。
監禁後のあなたは、ルウさんの手を借りて、あなたのLuCyを盗み出してCADからの脱走を果しました。脱走後のあなたは、あの獸達の居る山中を抜け、シルヴァニャへ潜入したのでした。道中大変だったでしょう。特に獸達は獰猛でしょうから……そうでも無いのですか。冬山で巣穴を持たない個体が獰猛なだけなんですか。それは知りませんでした。冬でなければ、こちらから音を出して進めば良いのですか。相手が自主的に避けてくれるんですね。道中何事も無くて良かったです。
それにしてもシルヴァニャであなたの取った行動には驚きましたよ。いえ、ルシエラさんから聞いて知ったのですけどね。いきなり山中で穴を掘り出したとか。そして深く潜った後、自身を仮死状態にしたんですってね。幾らルシエラさんの支援があったとは言え、身を隠す為とは言え、随分思い切った行動に出たものですよ。そのお陰で今こうしてあなたとお話しできている訳ですけどね。本当に心臓が縮むかと思いました。そんな、心臓なんて無いじゃないですか、て。勿論比喩ですよ比喩。意地悪ですね。
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ヴィーさんの身体は今、LuCy着用のままシルヴァニャの大地で冬眠状態にありますが、明日目覚めさせるという事でよろしかったでしょうか。LuCyに備わっているキュベレイ9さんの端末のお陰で代謝も抑えられ、身体機能も万全の状態です。
目覚められた後は……LuCyを使ってドゥームズ感染者を一人一人治癒されるのですね。LuCyの動力源は……まあ、あの動力源をバックパック並みの大きさにしたものを彼女が開発済みだったなんて。わたくしにも黙っているなんて、ちょっと、つれないじゃありませんか。なにを笑ってるんですか。もう、ふふふ。分りました。頑張って下さいね。あなたの願いが成就される事を願っています。
ルウさんにも宜しくとお伝えください。お二人とも、もうCADに戻られる事は無いのですよね。ええ、兄を失いますし、あなたによる治癒が完了すれば、あの機関自体、存在意義を失いますから戻る必要も無いでしょうね。あなたが治療している間は、ルウさんが護衛してくださるのでしょう。心強い仲間がいらっしゃって良かったですね。
では、あなたの目覚めと動力パックの移送については、作戦名【大地が眠る間に】としますね。【大地に眠る間に】ではないのか、ですか。いえいえ、【大地が眠る間に】で間違いないですよ。ルシエラさんとキュベレイ9さんは何時でもあなたの側に今すから、何でも相談してください。
それではヴィーさん最後に。あなたが、個人的な恨みや憎悪を乗り越えてルシエラさんの想いを継ごうとされたその決意と献身に、わたくしは心をうたれました。その苦難を乗り越える強さ、わたくしも見習いたいものです。でも、ルシエラさんの想いを叶える事だけが、あなたの人生ではないですよ。ご自分の幸せも是非見付けて、叶えて下さいね。ルウさんなんてどうですか。え、違うんですか。どうみてもお似合いだと思いますけどね。うふふ。まあ、お任せしますけどね。ご自身の幸せを諦めないでください。
ノアさん、あなたとは直接お別れの挨拶はできませんが、わたくしの思いが伝わりますように




