どうも残機って何ですか?
「だから断罪天使の剣だったんだ」
ギルド長は呟く。
「………………一体どういうことです?」
「断罪天使の剣は天使の一撃だ、それも万物の命を奪う魔王の残滓を持った天使の」
「………………魔王の残滓を持つ天使」
「最初にあいつが他の個体を吸収し始めた時、あいつの内的魔力がだんだん増えて行ったんだ」
「(内的魔力、体中の魔力の総量だったか………………?)」
「だが、外的魔力が全く増えなかった、本当に増えたのはゼロだった」
「(外的魔力? 確か、内的魔力が溢れた量だったか?)」
「だから俺達は考えたんだ、命の数………………残機が増えてるんじゃないかと」
「残機?」
アルクは聞きなれない言葉に耳を疑う。
「(命の数を増やすなんて聞いたこと無いぞ………………)」
「そう、残機だ。明らかに内的魔力の量がおかしかった、だからこの実在世界に自分という存在を何回も上書きしていたんだ」
アルクは魔法学校を出ていないので、何を言っているのかは分からないし、平常時に聞いたのなら酔い覚ましに水をギルド長に渡していただろう。だが、今は違う。
「だから断罪天使の剣なら、万物の命を、万単位の命を片手で奪う魔王の残滓を持つ断罪の天使ならば百や二百の残機なんて関係なく、殺し切れるはずだった」
殺し切ることが出来る、何百回でも、何千回でも………………何万回でも。
アルクは茫然としているギルド長に当然の疑問を投げかける。
「でも、だったら、もう一度断罪天使の剣を使えばいいんじゃないですか?」
だが帰って来た返答は絶望的なものだった。
「意味がない」
「え?」
「残滓は抜き取られた、もう、断罪天使の剣には残機を消し去る力はない、使っても街に被害を与えるだけだ」
「……そんな……………………嘘だろ」
ギルド長はただただ俯いている………………しかし。
「だけども、だけどもだ」
ギルド長は自分を鼓舞するようにぽつぽつと言葉を漏らす。
「このままでは終わらせない、やってやるさ何度でも」
俯いていた顔を上げ、龍種の頂点をただただ睨みつける。
そして腰の剣に手を掛け立ち上がる。
「ギルドメンバー全員! 聞け!」
ギルド長は叫ぶ。
「あいつを倒せる者は立ち上がれええええええええええええ!」
そう言ってギルド長は龍種の頂点に向かって飛び上がり、切りかかった。そして一太刀、真っ二つへと龍種の頂点を導いた………………!
―――後、二九五回………………。
それに続くようにジャンニャーが杖から魔法を撃ちだしドロドロに溶かして消し殺す。
―――後、二九四回………………。
またはキチリーが装着した銀の爪で八つ裂きにする。
―――後、二九三回………………。
そしてランシアがその槍で腹を貫き貫通させ殺す。
―――後、二九ニ回………………。
ギルド長が聖徒界がまた他のギルドメンバーがそれぞれの最大最高の攻撃を駆使して着々と残機を削る。一つ、また一つ勝利が、希望が近づいて来ていた………………はずだった。
そこにいる人間全員がいける! と感じていた。龍種の頂点の喉元にランシアが槍を突き刺した時に異変が起こった、ピシリッという音と共に龍種の頂点の体にひびが入り、そしてそれは全体に広がり、赤い体の下から真っ黒の体が現れた。
「ッつ!? なんだ!?」
ランシアが槍を後ろに引き距離を取る………………その一瞬前の事だ、ランシアの体を真っ黒の槍が貫いた。その槍は龍種の頂点の体から生え、ランシアだけでなく近くにいた人間全てを貫いていた。
「ぐはぁ!?!?!?!?!?!?!?」
槍を引き戻そうとしていたランシアはアンバランスな状態で体制を整えることが出来ず、頭から真っ逆さまに落っこちていく。
ドサッという音と共に地面へとランシアは叩きつけられ、ぐったりとしている。
「……まずいですね……」
龍種の頂点を倒せる火力を持たないメリッシュ一同とアルクは落ちてくる人を受け止めるために走り回っていた。
「……完全に流れが変わりました……」
アルクと共に動いていたコープルは蠢く髪を使ってカリーナを受け止めた。カリーナは助けてもらった癖に蠢く髪を見てとても気持ち悪そうに顔を引きつらせている。
「ああ、押せ押せムードだったのが完全に負け戦状態になってる」
アルクの元に振って来たのはキリオンだった、アルクは本当に……本当に一瞬だけ落としてやろうかと考えたが、しっかりと気絶しているキリオンをキャッチした。
「……このままでは街ごと私達吹き飛ばされますよ……」
マシットはハンマーをどうやってかブーメランの様に使い、ケアンの服に引っかけて手元へと手繰り寄せ、お姫様抱っこでキャッチする。そんな曲芸で助けられたケアンは何やら乙女チックな顔で照れている。
「俺の……俺の『呪い』でどうにかするしかないのか………………!」
メリッシュはひったすらに走り回り、何人も助け両手で抱えている。その中には白目をむいたクシルも混ざっていた。
「……使いたくないのなら別に使わなくてもいいんじゃない……」
コープルが降って来る人を髪で掴み取り地面へと下しながら言った。
「……ちょっとずつ克服すればいいんだから……」
そんな優しい言葉を受けて、アルクは考る………………そして決める。
「………………コープル、協力してくれ」
「……………………分かった、何をすればいい……?」
「まずは、ランシアの所まで行く!」
アルクとコープルは倒れているランシアの元へ駆け出した。




