どうも、どうやら作戦があるそうです
「あいつが全部食べたならあいつだけ倒せばいいんじゃないのか?」
「それがそう簡単にはいかないんだ」
ランシアは扉を閉めてアルクの方を見る。
「一体どういうことです?」
「そうだな、ただ食ったんじゃなくて吸収してるんだ」
「……食べたんじゃなくて吸収した……?」
「そうなんだ、私達があいつらの一体を撃破したら共食いを始めた、仲間を食った龍種の頂点はさっきまで通っていた攻撃が通らなくなっていた」
ランシアは椅子に座る。
「その個体に苦戦している間に他のやつらも共食いを始めてな、最初の共食い個体を倒している間に残りはあいつ一体になっていたよ」
静まり返った部屋でギルド長が手を叩き立ち上がった。
「………………とりあえず吸血鬼が来ているかどうかに関わらず、まずはあいつをどうにかしないといけないな」
ギルド長は地図を取り出し机に広げる、地図には淡い光のマークが浮かんでいる、龍種の頂点だ。
「あいつは吸収をした後になぜだか何もしてこない、それこそ誰からの指示を待っているような感じだ」
「指示を待っている?」
「ああ、急に魔法の操作を手放したような感じだった、だからそこを突く」
突くという言葉に反応したのかランシアが槍をつくモーションをしている。
「あの手のやつはこちらから攻撃したとしても何もしてこない、だからこのギルドの全精力を持って、あいつに特大威力の魔法をぶち当てて殺し切る……!」
ギルド長はペンを龍種の頂点を表すマークへ突き刺す。そんなギルド長にアルクは一つ疑問を表す。
「だがこんな街中で特大魔法なんて使ったらここら辺が吹き飛ぶんじゃないですか?」
「当然の疑問だな、だが心配するな当然こんな所で使うわけはない。中級魔法を使うんじゃないんだ、繊細にもなるさ」
それをギルド長は無視して地図のある場所へ指を置く。
「あいつをこの何もない場所へ連れて行く、ここなら何の問題も無いだろう」
ギルド長が指示したのは、アルクが龍種の頂点の放った炎ごと消し飛ばした山の一角だった。
「………………でもそこまでどうやってあいつを連れて行くんですか?」
「どうやってってそりゃあ作戦があるに決まってんだろ………………………………………………」
ギルド長はドヤ顔で言った。
[―――――――――――――――――――――――――――――――――――――]
アルクは必死に踏ん張っていた、別に一人頑張っているわけではない。一番前には聖徒界のメンバーが、それ以外にもキリオン達やメリッシュ達、それこそ一部のギルドメンバーの全員が踏ん張っていた………………………………。
「………………作戦ってさぁ………………」
アルクは一人呟く、体全体を使って必死に踏ん張りながら。
「作戦ってこれ綱引きじゃねえかよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
アルクは龍種の頂点に括りつけられたロープを引っ張っていた。全員でオーエス! オーエス! と掛け声をかけながら引っ張っていた。
「全くぅ、ギルド長はたまに賢いけどたまに馬鹿よねぇ」
マシットがロープを引っ張りながら言う。
ギルド長が賢いの部分は引っ張る前に特大魔法に必要な魔法陣を描いておいたという部分だ、言わずもがな馬鹿の部分はこの引っ張るという行為だ。
「まあ仕方無いとは思いますけどぉ、転移魔法は対象が大きいと馬鹿みたいに魔力を使うからぁ、それなら特大魔法の方にその魔力を回したいっていうのはぁ」
オーエス! オーエス! と引っ張る。
「……特大魔法、何だったっけ。確か……」
「確か、断罪天使の剣でしょ?」
メリッシュがロープを引っ張りながら答える。
「……それ、天使を召喚し天使の剣の一撃をもって対象を討ち取る魔法……」
「天使ねぇ、一体どんな見た目なのかしらねぇ」
「絵画とかだったら白い羽で体を隠してる露出魔の変態っていうイメージだけどね」
メリッシュは笑いながらそんなことを言う、自分が信仰している宗教にも天使が多数出ている癖に。
「天使っていうと勇者に魔王を倒せというお告げを与えるのも天使だし、打倒された魔王の魂を浄化して輪廻に返したのも天使だよね」
メリッシュはさらに勇者伝説に出てくる天使の事を思い出すかのように呟く。
「確かにそうだったな、その伝説が本当だとしたら天使には魔王の魂の残滓があるって事か?」
アルクはロープを引っ張りながら思ったことを口に出す。
「……さあどうだろう、確か魔王の魂を輪廻に返す際に誤って直接触った天使がいたはずだけど……」
「そうそう! その天使って確か神からの罰で不浄の天使にさせられたんだよ!」
メリッシュは興奮した様子で答える。
「確か………………人を殺すという不浄、処刑の天使……転じて断罪の天使だったかな?」
「……へー、ちょうどこの特大魔法の名前にある天使じゃないか?」
アルクはロープを引っ張りながらそう言った、そう言った瞬間だった。
アルクは一瞬ロープが重くなったような感覚を受けた、そしてその次の瞬間龍種の頂点が動きだしたのだ。
「全員ふんばれえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」
ギルド長が大声で支持を出す。それに答えるようにさらに高く飛翔しようとしていた龍種の頂点を地面に近づけることが出来た。
「断罪天使の剣を発動する!」
ギルド長が宣言した、だがしかし、まだ龍種の頂点は街の上空にいる、こんなところで高威力の魔法を使えば街に被害が出てしまう。だがしかしギルド長は決断する、今、龍種の頂点が隙だらけの状態で倒さなければそれよりも被害が出てしまうからだ。
「(ッつ!? ここで『呪い』を使うか!? 使わなければ被害が出るが………………!?)」
周りを見渡しアルクは考える、自分の覚悟を、そして、母を、父を、妹を消し去った過去を、関わらせてしまったせいで……喋ってしまったせいで起こってしまった過ちを。
「(出来ない! 見られれば説明をしないといけなくなる、喋ればそれだけ………………)」
わかってはいる、たとえ話をしたとしてもあんなことは起こらない、そしてメリッシュ達にもばれている、今更多いか少ないかの違いでしかないと。分かってはいるが出来ない、過去の過ちは、トラウマは、そう簡単には乗り越えられない。
アルクが葛藤している間にも状況は進む、ギルド長の手によって断罪天使の剣の発動は執行された。
「天使の召喚!」
ギルド長は詠唱し剣を地面に突き刺す、そこから龍種の頂点に書かれた魔法陣と同じものが現れる。そして二つの魔法陣から光の粒子が溢れ出し、純白の天使を形作る。
「剣を持て!」
詠唱をさらに続ける。天使の手に光り輝く剣が現れ、その光が龍種の頂点を貫く。
「貫け!」
天使はその光に従い、極彩色の光を放つ剣を龍種の頂点へ向けて、そして突進する。そして光剣を龍種の頂点の背中へと突き刺す………………その瞬間だった、聞いた者を魅了するような甘ったるい声が全員の頭の中に響いたのだ。
『どもども~~~吸血鬼ちゃんのヴァンプちゃんで~~~す!』
それは時が止まったような感覚だった、天使の剣を片手で受け止める赤と黒の豪華な装飾のドレスを着た女がいた、綺麗なショートの金髪に金色の目、そして背中にはどデカい蝙蝠の翼が生えている。魔王軍四天王の吸血鬼、ヴァンプだ。
『愚かな人間ちゃん達ありがとね~~~! おかげで………………』
ヴァンプは一際残酷な表情を作り、手のひらで踊らされた愚かな人間達に絶望的な残酷な事実を告げる。
『おかげで魔王ちゃんを復活させる事が出来ちゃうじゃ~~~ん!』
ヴァンプは手で受け止めていた光剣を握りつぶし、そのまま天使の胸元に手を突き刺し、そのまま何の事もないように引き抜く………………ドロドロとした、蠢く漆黒の黒い球体を手に持ってだが。
『あちゃ~~~、魔王ちゃん可哀そうな姿になっちゃってる。残滓だけ持ってこれば何とかなるってジルドレン言ってたけど本当かな~~~?』
まっいいか、と言ってヴァンプはその球体を飲み込んだ。
『と、いうわけだから後はよろしくね~~~龍種の頂点ちゃん♪』
そのまま無数の蝙蝠へと姿を変えてヴァンプは消え去った………………全員殺せ、と、先程までとは打って変わって冷たい声で言い残して。
完全に姿をヴァンプが姿を完全に消し去った後、龍種の頂点は雄叫びを上げ大地を振るわせた。
「ッつ! まずい!」
ランシアが、雄叫びで街の建物を吹き飛ばさんとする龍種の頂点の口を閉じさせるため、長大な槍で龍種の頂点の頭を殴りつける。だが雄叫びは止まらない、頭を殴られた龍種の頂点はランシアを睨みつけ火球を作る。
「あれは!!!!!!!!」
誰かが叫んだ、それはキリオン達が一度防いだ物と同じものであった、しかしサイズは比にならない三倍、いや、五倍はあるそれを街でもなく、冒険者の群れでもなく、ただランシアに向けて放った。
「やるぞ!」
キリオンが仲間に向かって言った。キリオンが、クシルが、カリーナが、ケアンが、それぞれがそれぞれの力を使い防ごうとした、が、それは必要のない事だった。
腐ってもランシアはSランクパーティーのリーダーだ。
「こんなもの!」
ランシアは槍をバットのように振りかぶり火球を撃ち飛ばす、そしてそのまま口を開けている龍種の頂点に槍をねじりこむ。次の火球を撃とうとしていた龍種の頂点はそのエネルギーをそのまま腹の中に押し込まれ、そして。
「死ねええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
ランシアのそんな叫び声と共に腹が膨らみ粉々に爆発四散した………………が。
「やっぱりか………………」
ギルド長は何か絶望したような顔でそう呟いた。その言葉を聞いていたアルクが聞いた。
「………………やっぱりとは?」
「あいつを見てみろ」
龍種の頂点は確かに粉々に爆発した、それは見ていた者全てが確認していた、が。
「一体どういうことだ!!!!!!!! あいつは確かに爆発したじゃないか!」
誰かがそう叫んだ。
そう、そこにはいたのだ、何の事もなく、何事も無かったかのように、ランシアの槍を口にくわえて龍種の頂点はそこにいた。




