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独身貴族は異世界を謳歌する~結婚しない男の優雅なおひとりさまライフ~  作者: 錬金王
四章

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独身貴族は流し素麺機を作る


 ホムラの店を出ると、そろそろ包丁が研ぎ終わったと思い包丁屋に戻る。


 店内に入ると、職人はさっきと変わらない姿で包丁を研いでいた。


 シャッシャッシャとリズムのいい音が木霊していた。


 職人が包丁を砥石から離し、水で洗い始めたところで声をかける。


「できているか?」


「そこにある」


 包丁を綺麗な布で拭いながら職人が頷きながら言った。


 愛想はないが、この男は無駄な言葉を喋らないので好感が持てる。


 互いに無駄な定型文を言い合って、人生における貴重な時間を消費しないからな。


 職人の示した場所の見ると、先ほど俺が渡した包丁ホルスターがテーブルの上に置かれていた。


 ホルスターの中から預けた包丁を取り出して確認してみる。


 研ぎ終わった包丁は白銀の輝きを放っていた。


 微かに歪んでいた刃は見事に整っている。


「やっぱり素人の手入れとは違うな」


「当たり前だ」


 しみじみと呟くと職人が答えた。


 俺も自分で手入れをしているが、ここまでの輝きと形を作り出すことはできない。


 改めてプロの職人の凄さを実感した。


 二本の包丁をしっかりと確認すると、ホルスターに戻してマジックバッグへと収納した。


「料金は?」


「合わせて二千二百ソーロだ」


 このサイズの包丁であれば、一本千百ソーロで研いでもらえるのか。


 これならもっと頻繁にやってきてメンテナンスをしてもらっても良いかもしれないな。


「……お前さんの手入れも悪くない。そのまま大事に使ってやれ」


 研ぎ代金を払い終わると、職人はポツリと言った。


 これは褒められたのだろうか? 確かめようにも男は話は終わりだとばかりに次の研ぎ作業に入ってしまった。


 無表情なので判別がつかないが、プロの職人にそう言ってもらえるのは嬉しいことだ。


 包丁屋を出ると、燦々とした太陽の輝きが降り注ぐ。


 王都は気温がもっとも高い時間を迎えていた。


 昼前には賑わっていた道具屋通りも、人の交通量が少し減っており、軒先で塩を舐めながら一休みしている者も見受けられた。


 さすがにこれだけ暑いと、ゆったりと散策する気持ちも失せてしまう。


「家で素麺でも食べるか」


 ちょうど歩き回ってカロリーを消化し、お腹も空いてきたところだ。この辺りで家に戻ることにしよう。


 道具屋商店街からアパートに戻ると、何故かトリスタンとパレットがいた。


 玄関口でうろちょろしており不審極まりない。


「なんであいつらがここに……?」


 今日は休暇を取るということは、伝言板にしっかりと書いてあるので把握していないことはないだろう。


「お前たち、何してるんだ?」


「あっ! ジルクさん!」


「休暇なのにやって来るとは、なにか大きなトラブルでも起きたのか?」


 休日である俺の家にわざわざやってくる理由など、それしか思い当たらない。


 今はクーラーの販売が始まったばかりだ。


 面倒なトラブルでも起きていれば、俺が対応せざるを得ないだろう。


「いや、そういうわけじゃないですよ!」


「……じゃあ、なんでここにいる?」


 何の用事もないのに休暇中の俺の家にやってきたというのか? そうだとしたらとんでもない嫌がらせだ。


「え、えっと、それは……」


「私がお願いしたからなんです!」


 言い淀むトリスタンの代わりに意を決した様子のパレットが前に出た。


「お前がか? 一体、何の用でだ?」


「あ、あの、私の試験結果ってどうなったんですか?」


「は?」


 パレットの言葉の意味がよくわからず、間抜けな声を漏らしてしまう。


 この女は一体何を言っているのか。


「魔石の均一化はできていたのですが、気が付いたら朝でして……すごく嬉しいことがあったような気がするんですが、夢だったのか現実なのかよくわからなくて……」


「そういうわけで、パレットが合格したのか、してないのかあやふやなんですよね。俺とイスカは先に寝ちゃったので、結果はジルクさんしかわからないんです」


「色々と酷いな」


 訳を聞くと、自然とため息が漏れてしまった。


 パレットが申し訳なさそうに「……すみません」と謝った。


 遅くまで付き合ってやった俺の苦労を返して欲しい。


 昨日の結果を撤回してやりたい気分だった。


「休日なのに押しかけてしまったのは申し訳ないです。でも、結果がどうしても気になりまして。結果はどうだったんですか? 彼女はこのまま働いてもいいんですか?」


 トリスタンが尋ねると、パレットがごくりと喉を鳴らした。


 緊張した面持ちでこちらを見上げ、手をギュッと握っている。


 休日に押しかけてきた罰として、このまま教えずに悶々とさせるのもアリだが、正式な従業員となる者を遊ばせておくのは勿体ない。


 結果がわからないと働かせていいものかわからないし、後でルージュが文句を言うに決まっている。


「合格だ」


「おお、マジですか!?」


「やっぱり夢じゃなかったんだぁー!」


 結果を告げると、トリスタンとパレットが手を合わせて喜び合う。


 昨夜は眠気と疲労で露わにできなかった喜びが一気に爆発したようだった。


 玄関ということもあり二人の声がかなり反響してうるさい。


「近所迷惑になるから止めろ」


「「す、すみません」」


「そういうわけだから、さっさと仕事に戻れ」


 休日まで面倒な部下たちと絡みたくはない。


「はい! それじゃあ、失礼します!」


「ありがとうございました!」


 シッシと追い払うように手を払うと、二人は機嫌良さそうに去っていった。


 休日なのにしょうもない理由で押しかけられてしまったものだ。



 ●



 自宅に戻ってきた俺は、ホムラから貰った素麺をテーブルに置いた。


「……流し素麺がしたいな」


 ただ茹でて、そのまま食べるというのも面白くない。


 せっかく夏の盛りなので、夏らしい行いをするのもいいだろう。


 とはいえ、竹は持っていないし、今から木材を加工して作るのは面倒だ。


 俺がやりたいのは、あくまで一人での流し素麺。


 大人数を必要とし、一人ではできないような流し素麺は求めていない。


 よって一人でできる流し素麺を実現するには、前世にもあった流し素麺機を作るのが一番だろう。


「……魔道具でやってみるか」


 リビングから作業室に移動。


 流し素麺機に使えそうな素材を取り出しては、作業台に並べていく。


 流し素麺機とは、流し素麺を機械的に実現させる道具のことだ。


 ざっくりと分類すると、コンパクトな回転型と立体的なスライダー型の二種類に分けられる。


 回転型だとどうして流し素麺感が薄く感じてしまうために、今回は立体的なスライダー型を作りたいと思う。


 立体スライダーの仕組みは、そう難しいものではない。


 流水桶で水を回転させ、その水を汲み上げて再利用することによって上から素麺を流す。


 前世では内蔵されているモーターの力で水が回転し、汲み上げられていたが、それは魔石で代用すれば済む話だ。


 必要な魔石は水魔石一つなのだが、少し拘りたいために無属性の魔石も使うことにする。


 水流を発生させ、汲み上げるだけなので小さな魔石で十分だ。


 まずは土台となる水流桶を作っていく。


 プラスチックのように軽く、水に強いブラックチウムを『変形』を加えて水流桶を象っていく。素麺の流れるスペースを作ると、中心部分には薬味を置けるように凹みをつけた。


 土台となる水流桶を作ると、同じくブラックチウムを加工して支柱を作る。高さは約六十センチくらいだ。


 その下には水魔石を設置して、緩やかな水流を発生させられるように魔力回路を刻む。


 流水桶にハマるように加工した支柱を設置すると、プラチウムを加工して回転台を取り付けた。


 その中にプロペラを入れてやり、氷を入れることのできるカップも付けてやる。


 支柱にスライダーを安定させるために螺旋状にアームを取り付けると、プラチウムで作った螺旋状のスライダーをパーツ別に載せていく。


 支柱の中に給水パイプを入れ、上部にプロペラを回転させるための無魔石とセット。


 魔力回路を刻んで支柱のスイッチと連動させ、なおかつ回転速度の微調整ができるように設定。


「よし、完成だ」


 必要な素材も少なく、非常に簡単な仕組みなので小一時間ほどで完成した。


 作業台の上には、見事な立体型の流し素麺機が鎮座している。


 螺旋状に取り付けられたスライダーは透明感があり、ブラックで彩られた土台と支柱はシックなイメージを与える。


 これぞ大人のための流し素麺機だ。


 手早く作れた割には中々の完成度ではないだろうか。


 思わず自画自賛してしまう出来栄えだ。


 さて、眺めているだけでは意味がない。


 早速、素麺を茹でて流してみることにしよう。


 完成した流し素麺機を手にした俺は、そのままリビングへと移動した。




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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『異世界ではじめるキャンピングカー生活~固有スキル【車両召喚】は有用でした~』

― 新着の感想 ―
一人流し素麺って虚しくならないか? …ならないんだろうな。
おひとりさまの素麺流し器を作っちゃうんだ 笑 ほんとに我が道をゆくな〜
ここまでは読んだ!次回の更新楽しみにしています。
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