80.裁き
黒幕の次は首謀者だ。
一旦休憩を挟んでから裁判を行う。
「大丈夫か、エレオノーラ」
「ええ、平気よ。心配してくれてありがとう」
と言ったが、女王は少々精神的にも身体的にも疲れていた。
しかし、早期に片付けてしまいたいので午前を黒幕、午後に首謀者の裁判をする事にした。
今もまだ降灰が続いており、清掃が間に合っていないと報告があり、早くそちらに専念したいのだ。
「どんな感じで来るんだろうか」
「予想がつかないわね。尋問した兵士達の話によると、犯行を否定しているようね」
三人が捕まったのはケレース王国内に知らされた。
彼らを牢に入れ、降灰が終わるまで放っておいてもいいが、彼らの処遇を気にしている国民もいる。
特に彼らが活動や潜伏していた西領と南領で多いそうだ。
「だとすると、反抗的な態度で来るかもな」
「自暴自棄になるかもしれないわね」
「処刑されるぐらいしか道が残されていなからな」
先がないと考えた人間が何をするのか分からない。
ましてや相手は犯罪者なので、凶暴化する可能性が高い。
「重大犯罪者ですが、司法取引はなさるのですよね」
「ええもちろん。彼らの犯罪行為を全て明らかにしたいし……」
「あいつらから今後の犯罪捜査のために役立ちそうな話を聞きたいんだろ」
法務大臣目を丸くして驚いた後、苦笑した。
「左様でございますか。確かに今後の捜査に役立ちそうなほどの犯罪歴が山ほどありそうですね」
「でしょう?そう言えば、昔は弁護人っていたそうね」
「ああ、犯罪者を弁護するんだよな。冤罪の可能性があるならいた方がいいが、罪を軽くしたりなくしたりするんだろう?」
「ええ、罪人のためにね」
「正式な手続きを踏んで得た証拠でないと却下されたりしたそうですよ」
「その証拠が犯人だと証明していてもか?」
王配は険しい顔をしながら少し首を傾げた。
「偽造されたものでなくても、そうらしいわよ」
「弁護人はそういう所もついてくるのか。怖いな」
「異議ありとか却下しますって言ってみたいわね」
女王は何かの本で読んだようだ。
ちなみに却下します、は弁護士ではなく裁判長だろう。
「陛下、今日はなさらないでください。いえ、他の日もですが」
「冗談よ。アレクセイを相手に言うだけにするわ」
「え、何をするつもりなんだ?」
王配は女王の発言に一歩引いて驚いていたが、彼女の口角が上がったので、これこそ冗談なのだとすぐに気付いた。
「お戯れも今はお止めください」
法務大臣は大丈夫だろうかと少々心配になってしまった。
休憩が終わり、首謀者が連れてこられた。
黒幕ヴァシリーと同じように鎖に繋がれている。
その後、女王と王配が席に着いた。
「こんにちは。フランチェスコ、それともピエトロ、フィリッポかしら?随分色んな名前を使っていたのね」
どうやらフランチェスコが彼の本名のようだ。
最初にフランチェスコを名乗ったが、本名ではまずいと思ったのか偽名を使い出したようだ。
「陛下、どうかお許しください。旅の同行者がとんだ無礼な事をしてしまいました。彼の愚かな行動を咎めずに逃げてしまい、後悔と反省をしております」
フランチェスコは床に額を擦りつけている。
「貴方は障害未遂の共犯の罪ね」
「いかなる処罰も受けます。彼は少々短気なのですが、まさかあのような手段を使うとは思っておりませんでした。私は怖くなり、咄嗟に逃げてしまったのです」
「いつまで続けるのかしら?」
「陛下にお許し頂くまでにございます」
フランチェスコはまだ床と額を付けている。
「実は他にも複数の嫌疑があるのだけど、どうやって説明するの?」
「な、なんですって?どのような疑いがかけられているのでしょうか」
フランチェスコはここで顔を上げると、額が赤くなっているのが見えた。
そんな彼の顔はとても驚いたように目を見開いている。
「国家転覆罪と民衆煽動罪などかしら」
「なっ……何故そのような大罪が私に!」
フランチェスコは驚いて上体を後ろに反らせた。
先ほどから彼の動きが大袈裟だと、女王をはじめ他の者達が思っていた。
「貴方が雇っていた人達からの証言で人相書きも作ったのよ」
「おそらく、その者達が私を陥れるためにやったのでございます」
「何のために?」
「想像でしかないのですが、何らかの恨みを買ってしまったのでしょう」
フランチェスコはわざとらしく落ち込んで見せた。
「給料が少ないとかかしら?」
「そうかもしれません」
「貴方がどんな仕事をしていたのか聞かせてくれる?」
「私は商人でございますので、各地を回り顧客のために良い品を仕入れておりました」
「食べ物?服飾品?」
「依頼主に頼まれた物を仕入れておりました」
「人とか?」
「はい?」
フランチェスコは本当に驚いたような表情を見せた。
多分だが、この表情は本物だろう。
「人も集めたのかしら?王城で働かせるために」
「はて、何の事でございましょうか。私には皆目見当もつきません。どなたかとお間違えではないでしょうか?」
「正直に言った方がいいわよ」
「私が人を売り買いしたとおっしゃるのですか?」
「ええ、そうよ。証人もいるわよ。入らせて」
女王の指示で兵士が扉を開くと、何人かの男女が入室してきた。
「この者達は?」
「貴方は黙っていて。さあ、早速だけど貴方達は王城で仕事が貰えると言われて連れて来られたそうね」
「はい」
全員が頷いた。
「では、代表者に聞くわね。この部屋の中に仕事を持ちかけた人物はいるかしら?」
「おります」
一人の男性が頷いて言った。
他の者達も頷いている。
「その人を手で指してくれるかしら?」
「こちらの男でございます」
男性はフランチェスコを手で指した。
「他の皆も同じかしら?」
「はい」
全員が首を縦に振った。
「質問に答えてくれてありがとう」
「な、何かの間違えでございます。陛下、そもそも、この者達は何者なのでしょうか」
「前王とその妻の元愛人達よ」
他にも複数人いるのだが、代表して何人かが裁判で証人をしている。
「そんな者達の言葉を信じるのですか?」
「ええ、そうよ」
「この者達はあの極悪人の側にいたのですよ?」
王配はどの口が言っているんだと思い、奥歯を噛んだ。
「その極悪人に人間を提供していたのは貴方でしょう?」
「誰がそんな事を言ったのですか!」
「こちらの調べと、彼らの証言よ」
「話になりません。彼らの証言に信憑性があるとおっしゃるのですか?」
フランチェスコは前のめりになって訴えている。
近かったら唾が飛んできそうだ。
「そう言う貴方はどうなの?旅の同行者が人を暴行しようとした時に、止めもせずに一目散に逃げていった人の証言に信憑性なんてあるのかしらね?」
「あまりに衝撃的な出来事だったので、混乱して逃げてしまったのです」
「怖くなって混乱して逃げたのね」
女王は必死で訴えるフランチェスコを静かに見下ろした。
「そうでございます」
「整備された道ではなく、わざわざ森の中に入ってまで逃げたそうね」
「はい。混乱していると、自分では思っていない行動をしてしまったです」
「追跡した人によると、森の中の移動に慣れているように感じたそうよ。以前にもあの森を使ったのかしら?」
「運搬の時間短縮に使った事があるのです。信じてください!」
フランチェスコは再び唾が飛びそうなくらいの勢いで喋った。
「馬車は通れない幅の道だったそうだけどね。もしかして荷物は背負っていたのかしら」
「ええ、そうです。軽い物でしたら背負って自分の足で運んでおりました」
「あら、そうなのね。私はてっきりその荷物が自ら歩いたのかと思ったわ」
女王はふふふと笑い声を漏らした。
「っ、荷物が歩くわけないじゃないですか」
フランチェスコは焦った表情を見せた。
どうやら本当に焦っているようだ。
「人間だったら歩けるじゃない。人目を避けるために森を通過したんじゃないの?」
「まだ私を疑っておいですか?」
「ねえ、貴方達の中に森を歩いて王城まで来たっていう人はいない?」
女王の問いにすぐに反応した女性がいた。
「私は近道だからと言われ森の中を歩かされました。足が痛いと言っても王城に着けば治療して貰えるからと言われ、足を引きずりながら歩きました」
「言ったのはこの男かしら?」
「はい。変装をしていましたが、この男で間違いありません」
「嘘に嘘を重ねるなんて、何故そんな恐ろしい事が出来るんですか!」
フランチェスコは証言した女性を睨みつけたが、女性は真っ直ぐと前を見たままでいた。
「それは貴方自身に言っているの?」
「ああ陛下、犯人ありきの自白の強要じゃないですか!今すぐこんな無意味なことはお止めください!」
「無意味かどうかはこちらが決めるわ」
「大体、状況証拠だけで物的証拠がないじゃないですか。仮にですが、私が人身売買をやったという証拠を出してくださいよ」
「ピエトロ、フィリッポ……これは貴方が彼らに名乗った偽名よね。だけど書類は本名で書いていたわね。馬鹿真面目に証拠を残しておくなんて案外間抜けなのね」
女王は鼻で笑ってみせた。
練習したかいがあったと、女王は思った。
「書類とは一体何のことですか?私は王城には何も入れておりませんよ」
「ええ、元宰相の屋敷を通していたのよね。彼は最近まで忘れていたみたいだけど、屋敷を捜索してみたら壁にから書類が発見されたそうよ」
マリオが忘れていた理由は、彼の屋敷を通す物が多かったのと実際に物や人を見ていないからだ。
マリオは王配から役立たずと言われ腹が立ったので、一生懸命思い出したらしい。
「その書類に残された筆跡や指紋、掌紋が貴方の物であると証明されたらどうする?」
「……もし、その者が筆跡を普段と変えて、かつ手袋をしていたら何の証拠もありませんよ」
「ああ、それで本名で署名したのね。流石にそこまで愚かではなかったのね」
「もしもの話でございますよ」
フランチェスコはニヤリと笑った。
女王はなめられないように必死なようです。
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