77.夫婦の会話
いつも読んでくださりありがとうございます。
今回は二組の夫婦の会話です。
ケレース王国で降灰が始まって数日たった。
国民は事前に国から準備方法や手順を知らされていたおかげで、慌てる事なく清掃をしているようだ。
子どもや老人、体が不自由な者達は避難所で生活しており、たまに訪問する家族達と話をしたりしていた。
「はぁー。辺り一面が灰色だ」
夫婦は農作物にかけた布に降り積もった火山灰を落としに行ってきた。
昨日の午後にも火山灰を落としに行ったが、朝にはまた積もってしまっていた。
「火山なんてここからじゃ全然見えないのにねえ」
「自然って恐ろしいな」
言い終わって、夫はふと目元が気になったので目を擦ろうと手を目に近づけた。
「ああ駄目よ。擦っちゃ。目が真っ赤になるそうよ。隣の旦那さんもうっかり目を擦ったら真っ赤になっちゃって医者にかかったそうよ」
「いけねっ。そうだったな」
「しっかり払い落として家の中にも入れないようにしないと」
マスクをし帽子をかぶり、更に傘をさしていても、少なからず顔や頭に火山灰がついてしまっている。
服も雨具を着て防御はしているが、隙間から火山灰が入って来ているので、家の前で落とす。
一人が傘をさしてくれているうちに、もう一人が払う。
終われば交代して同様に行う。
玄関の前に庇を付け足した家もあるそうだ。
「野菜は大丈夫かしらね?」
「うーん。日光に当たってないからなぁ。早く降り止めばいいんだが」
「もう三日目よ」
「灰の掃除も大変だよな。自分の敷地を掃除するので精一杯だ。街道を兵士がやってくれるのは助かるな」
早朝に農作業を開始していると、いつの間にか彼らはやって来て清掃作業をしているのだ。
かなり重装備なので暑そうだし動きにくそうだが、あの格好だったら隙間から火山灰が入って来なさそうだ。
しかもゴーグルをしているので、目に入る心配もない。
ただ、ゴーグルは羨ましいがあんな格好はしたくないと思う人が多い。
前述のように暑苦しそうだからだ。
「あのながーい道をね」
「道が通れないと人と物が移動出来ないからな」
「雨が降って流れてくれればいいのにって思ったけど、固まっちゃうんですってね」
作物もだが、建物や道が固まってしまったら大変だろう。
建物は壊れるかもしれないし、道は通行出来なくなり、もしかしたら孤立する村落が発生するかもしれない。
「かといえば、晴れの日が続いて乾燥したら風に巻き上げられると。なんとも不便なものだな」
降灰が終わっても除去しそびれた火山灰が風に舞って人体や動物、作物についたら被害が出るだろう。
「そんな厄介な物を買い取ってくれるセマルグル王国って不思議ね」
「えーと、建材の材料になるとかだったか?」
「復興支援のためでもあるのでしょうけど、今まで使ってなかったのに凄いわね」
「ひたすら感謝するしかないな。前の王を退治してくれたし、復興も手伝ってくれているし」
「王配殿下が女王陛下を支えてくれているし」
隣の大国の王子が女王と結婚し、現在は王配としてケレース王国のために尽力してくれている。
王配は中央領の領主としても働いてくれている。
「女王様は王になったばかりだというのに、大変だろうに。変な奴等も出てきたしな」
「そうそう。やんなっちゃう」
妻は隣町に行った時に信じ切った人に話しかけられ迷惑したのだった。
「あんな明らかな嘘を信じる人もいたからなぁ」
荒唐無稽とも思える内容なのに、何故か信じてしまう人がいるのだ。
夫婦は不思議で仕方ならない。
「さんざん痛い目を見てきたのにね」
「ふんっ、痛みに酔いしれてるのか?」
「自分達は不幸だと思い続けたいのかしらね。あー信じられないわ、そんな人」
妻はうんざりしたような顔になっていた。
そのせいか、物の扱いが雑になっている。
「まっ、こんだけ灰まみれになったら嘘だったって分かるわな」
夫婦は顔や手を洗い、火山灰を落とした。
夫は妻から布を渡され手と顔を拭いた。
「心を入れ替えてくれればいいけどね」
妻は夫が使った物とは別の布を使い手と顔を拭いた。
「捕まった奴らはどんな処罰が下されるんだろうな。下っ端はともかく、上の奴等はかなり厳しい罰になるんだろうが」
「あの宰相と同じく処刑されるんじゃない?」
あの宰相とは前王の時代の宰相である。
「うーん、実際に殺されたのを見た人がいないからなぁ。本当に処刑されたのか?」
「死刑執行したって発表されただけだものね。何でも騒ぎになるのを防ぐためとか……」
「はぁ、奴が死んだところで何かが戻る訳でもないからな。正直生きていようが、死んでいようがどうでもいい」
「あら、私は人の命を奪っておいて、のうのうと生きているなんて許せないわ。息をしないで欲しいし、心臓を動かさないで欲しいわね!」
妻のように思っている人は多いだろう。
なので国は暴動を起こさないために公開処刑にしなかったし、処刑の日程も事前に公表せず報告だけだったのだろう。
と、国は思わせているが、実際は司法取引をしたので元宰相、現在マリオを名乗る男は生きている。
生かされているの方が正しいだろうか。
「仮に生きているとしても、何かしらの刑罰は与えられているだろう。何でも前将軍らは重労働刑だそうだしな」
実際にマリオは彼が嫌いな作業をやらされている。
一日中、前王らの衣類を解体させられているのだ。
彼らはかなりの衣装持ちだったようなので、まだまだ沢山ある。
「そりゃあ、兵士だったんだから力仕事は得意でしょう。なら復興のためにやらせるべきよ」
「元文官には何をさせているんだろうな」
夫はコップに水を注いで飲み、妻の分もコップに注いだ。
「雑務とかかしらね。彼らにも重労働させちゃえばいいのに」
妻は夫から水の入ったコップを受け取って、一口飲んだ。
「力のない奴を働かせたら効率が悪くなりそうだけどな」
「あ、それもそうね。じゃあ、やっぱり雑務かしら?」
二人は念のため、玄関や窓付近を掃除した。
掃除をしてみると隙間から火山灰が入って来てしまっているのが分かる。
「その言い方は普段雑務をしている人に失礼だろう」
「そんな事を言い出したら切りがないわよ。……じゃあ汚れ物を洗うとか?」
「同じだろう。……んーまぁ、汚れ物だとすると便所掃除とかか?」
鼻が曲がりそうな作業だ。
「はぁ、どの仕事も罰でなくてもやっている人はいるものね」
「そうだな」
「だとすると、やっぱり極悪人は処刑されないと溜飲が下がらないわ」
妻は眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔になった。
「気持ちは分かるが、それこそ言い出したら切りがない。そのうち、どこからが悪人なんだってなるんじゃないか?」
「そんなの人の命を奪ったら悪人なのは決定でしょう?」
「それを言ったら、王配殿下や一部の連合国軍の人達も悪人になってしまうぞ」
王配は前王とその妻子の首を落としているし、他の連合国軍の兵士達も刃向かってきた者を殺している。
「時と場合によるわよ。多くの人を助けるためだったら仕方ないでしょう」
「百人と百一人だったら――」
「まぁ!そんな事を言う人だったのね!」
「例えばの話だよ」
「立つ位置によってどちらが善か悪か変わるけど、今回の件も前王の件も多くの人を困らせている側が悪でしょう。これは明らかよ」
「まぁな」
夫は口をへの字にしている。
そんな夫の顔を見て妻はまた不機嫌そうな顔になった。
「なぁに?釈然としない顔をして」
「明らかか不明な場合はどうしたらいいのかなって思ってな」
夫は首を傾げながらも掃除用具を片付けた。
「判断材料不足とか、どちらの言い分や行動も理解出来るってこと?」
「まあそうだな」
「そんなの、真ん中をとればいいんだから簡単じゃない。何を悩む必要があるの?」
夫婦は再び手を洗い、手を拭いた。
「おいおい、そんな簡単な話なら最初から争いにならないだろう」
「ええそうね。私達でさえ言い争いになるのだから、簡単じゃないわよね」
妻は手を拭いた布を夫に押しつけた。
「う……」
これ以上何かを言ったら喧嘩になりかねないので、夫は黙るのを選択した。
女王と王配は寝室にいた。
明日は首謀者と黒幕と対面する。
女王はその事で頭がいっぱいになっていた。
「……上手くいくかしら?」
女王は最近この言葉を何度も言っていた。
王配は他の者が言っていたら耳障りだと思っていただろうが、相手が女王なのでそうは思わなかった。
むしろ頼ってくれて嬉しくさえ思っているようだ。
「大丈夫さ。証言もあるしなんの問題もない」
「彼らが私を嘗めてかからないかも心配なのよ。やはり法務大臣に任せた方がいいのではないかしら……」
「いや、女王の威厳を見せた方がいい。エレオノーラがやるべきだ」
「そうよね。ルチアーノの時は上手くいったものね。いえ、まだ結果が分からないわね。はぁ……」
女王は自分の演技が無駄になったのだと思うと、自身の力不足を恨んだ。
最初から演技をしなくていいような威厳があったらよかったのだが、女王に威厳はないので馬鹿な女王を演じ相手の出方を見てみた。
感情の起伏を見ようと思ったのだが、ああいう場面に慣れているのかあまり反応しなかった。
「元口髭野郎は上手くやっているんだろうか」
元口髭野郎とは元宰相のマリオの事である。
何故王配がマリオを元口髭野郎と呼んでいるのかというと、彼は以前口髭を生やしていたが、今は剃剃り落としているからだ。
マリオには女王が演技をしていると匂わせる役割をしてもらったが、果たしてそれが上手く作用しているのか現段階では分からない。
「どうなのかしら?なんとしてでも、ルチアーノの口を割らせて、殺された人を明らかにしないと。せめて人数だけでもね」
「骨になっているってことは、エドアルドとメリッサに鑑定させるのか?」
二人はセマルグル王国の大学で研究していたので、かなりの腕を持っている。
「ええ。お願いしたいけど、メリッサはセマルグルに帰っちゃうのかしら?だとしたら頼めないわよ」
「一度は帰るだろうけど、その後はどうするんだろうな」
「……鑑定出来る人を増やさないとよね」
あらゆる人材が足りていない。
特に専門的な知識を持った人が少ないので、どの分野も育成が急務になっている。
「呼んだ方が早いと言うのは駄目なんだよな。育成しないといけないのだしな」
「ええ。……今回の三人の知識や経験は今後の犯罪調査の役に立ちそうよね」
「ああ、元口髭野郎よりな」
「彼も彼なりに協力してくれているじゃない。今回もそこそこ役に立ったわ」
「そこそこじゃあなぁ……。生かしてやっているのだから、結果が出なければなければ何の意味もない」
「そこまで言わなくても……。悪人の思考や視点も大事よ」
女王が言うと、王配はそうかあ?と言うので女王はそうよと返した。
「ま、今は真面目っぽく刑務作業をしているようだから許してやってもいい」
王配は鼻で笑った。
対する女王はまだ何か考えているようで、浮かない表情をしていた。
「これで、残党は全員捕まえたのかしらね。まだ他にいる可能性があるわよね」
「あいつらの組織だけでなく、他の組織や人がいるかもと?」
「ええ。何もしなければいいとは言えないわ。罪は償って貰わないと」
「セマルグルも捕らえ残しがいたようだからな」
厳重な捜査網をするりと抜け出した人物はまだいるようだ。
国を挙げて捜索中のようだ。
「もう国外に出ているかもよね」
「だろうな。今回は奴等が騒動を起こしたから存在が判明したが、ずっと潜んでいたら分からないだろうな」
「では、他のお仲間を聞き出しましょうね」
お仲間というのは首謀者の組織ではなく、他の組織や人物についてである。
「同業者か。横の繋がりがあるかもな」
だが、そう簡単に口を割るとは思えない。
長期戦になるのだろうと思うと、女王と王配はため息をつかざるを得なかった。
前半が農家の夫婦、後半が女王と王配でした。
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