録音
イワンの録音風景です。
ミハイルはイワンに呼び出されたので、領城に向かっていた。
嫌な予感がしない訳ではないが、行かないわけにもいかず、急いで身支度をしたのだった。
「イワン殿下、私に何かご用でしょうか?」
ミハイルは領城に到着し、すぐにイワンのいる部屋に通された。
「おう、来たか!」
イワンはいつもと同じ笑顔だ。
と思ったが、どこか含みのある笑顔に見えた。
ニヤリと笑っているように見えたのだ。
「それで、どんなご用でしょうか?」
イワンが用件を言わないので、ミハイルは聞き直した。
「これから円盤に録音するから、その原稿を書いてくれ」
思いっきり雑用だったので、ミハイルはがっくりと肩を落とした。
ミハイルはそんな予感はしていたが、的中したのでより落ち込んしまったようだ。
「……はぁ、どのような内容になさるのですか?」
「箇条書きにはしてあるから、上手くまとめてくれ」
イワンは紙切れを一枚、ミハイルに手渡してきた。
読んでみるとお遊びで録音するのかと思っていたのに、かなり重要そうな内容が書かれていたのでミハイルは驚くしかなかった。
「これは手紙の方がでよろしいのではないでしょうか……。国王陛下に宛てたものですし……」
「面白そうでいいじゃないか。物は試しだ!」
ミハイルはイワンを考え直させる事は出来ず、結局録音する事になった。
「……よう!元気してたか?」
「イワン様、一応公式のやり取りですので正式な挨拶をお願い致します」
ミハイルはイワンの耳元でコソッと言った。
「……あっ、エレオノーラ女王陛下、並びにアレクセイ王配殿下お久しぶりでございます。……なあ、これ録音し直せないか?」
「円盤はまだ大量に出回っておりませんので、致しかねます」
ミハイルはまたイワンの耳元で小さな声で喋った。
「……え?出来ない?」
ミハイルは黙って頷いた。
「えー、あー、なんだっけ?」
「こちらです」
ミハイルは小さく声を出し、イワンが手に持っている原稿を指さした。
「ああ、そうだ。堅苦しい挨拶はなしにして、さっそく本題だ。録音出来る時間も限られているしな。まぁ、何故円盤が二枚なのかって話だな。もう一枚の方には重要な証言が録音されている。すでに捕まっている者らから得た証言だ。恐らく現在ケレース王国を騒がせているのはコイツだろう。経歴から身体的特徴何から何まで入っている。俺も聞いたが、よく見つけ出したなと感心してしまうよ」
イワンは原稿は見てはいるが読んではいなかった。
ミハイルは原稿を書いた意味は何だろうかと考えたが、すぐにやめた。
考えるだけ無駄だからだ。
「俺からは以上だ」
こんなに短いのだから、やはり手紙にすればいいのにとミハイルは思った。
「……アイテール王国の動きは大きくなっていないようだ。砦もケレースの山側にも兵を配置していない。兵はいるけど、いるだけだな。威嚇だけで実際に何かをする気はないようだ。そりゃそうだ。これから何が起こるか分からないんだから、下手に動かない方がいいに決まっている。あちらもそこまで馬鹿じゃないってことだな」
以上と言ったはずなのに、イワンは喋り続けていた。
手紙でいうところの追伸だろうか。
「……ん?以上と言ったのに喋りまくってしまった。まぁ、いいか。では今度こそ、じゃあな!」
イワンの合図で侍従が録音を止めた。
イワンとミハイルはほぼ同時に安堵の息を吐いた。
「お疲れ様でございます」
「一方的に喋るのも何だか変な感じだな!」
イワンはワハハと大声で笑った。
「……私は一体何のために原稿を書かされたのでしょうか」
「あれのおかげで緊張せずに喋れたぞ。ありがとうな!」
「それはよかったですね……」
おそらくというか絶対、セルゲイがいたら彼が原稿を書いていたのだろう。
これから暫くはこんな生活が続くのかと思うと、気が重くなるミハイルだった。
ミハイルの苦労はまだまだ続くのであった(?)
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