メリッサとエドアルド
最初は千文字なかったのですが、書き足してみました。
「メリッサ、大丈夫か?」
女王の執務室から出て、食事と就寝のためエドアルドの屋敷に向かっていた。
「え、ええ。なんとか平気よ」
「本当か?陛下にお声をかけられた時の様子がおかしかったように見えたが?」
「……それは、あんなに美しい人は初めてみたんだもの。おかしくもなるわ」
メリッサは思い出しただけでも、頬が緩んでいるようだ。
「そんなに驚くほどなのか?」
確かに女王は美人であるが、他にも美人は沢山いるだろう。
ましてやセマルグル王国には大勢の人々がいるのだから、当然様々な美人がいるだろう。
それなのに、メリッサは女王の顔を思い出して頬を緩めている。
「様々な人を見てきたと思っていたけど、まだまだだったわ。ああっ、陛下の頭蓋骨を作ってみたいわ」
「え」
メリッサは女王の頭蓋骨に興味があるようで、エドアルドは一瞬固まった。
「頭蓋骨から復顔することはあっても、その逆って聞かないでしょ?」
「そういえばそうかもな」
「なので是非とも陛下のお顔でやってみたいの。あれだけ美しいお顔なのだから、頭蓋骨も美しいに決まっているわ!」
エドアルドは女王の両親の骨がまだ埋葬されていないのを彼女には言わないことにした。
何をされるか分からない。
周囲の人におかしく思われるかもしれないので、なんとしてでも遠ざけねばと思った。
それに、女王の気持ちを考えるととても複雑な気持ちになるので、絶対に関わらせないようにしようと心に誓った。
「エドアルドは気にならないの?」
「そこまでは……」
「すっかり宰相なのね」
メリッサは少しがっかりしてしまったようだ。
以前のエドアルドならメリッサの意見に賛同していただろうと思ったからだ。
「ああ、重要な仕事を任されたから、きちんとやりたいんだ」
「頑張ってね」
「……ああ」
エドアルドは久々にメリッサの研究熱心さに触れてに少々戸惑っていたので、上手く返事が出来なかった。
「そうだわ。陛下が医者を増やしたいから生きたまま人体実験に使用するっておっしゃた時は驚いちゃったわ。陛下のような美しい方でもあのような考えをするのね」
「陛下は推理小説をお読みになっていたそうだからな……」
「じゃあ、法医学や法人類学の知識がおありなのね」
「そのようだ」
エドアルドは女王に法人類学の本を貸したのは話さないでおこうと思った。
メリッサのことだから、女王に色々教えだすと推測出来るからだ。
「機会があればお話してみたいわ」
メリッサがうっとりとしているので、エドアルドはやはり黙っていようと思った。
女王の性格を考えると、のめり込みそうだからだ。
そのせいで女王の執務が滞っては困るし、何より王配に文句を言われるのが嫌なのだ。
「……陛下もお忙しいからな。ああ屋敷についたぞ」
二人は見張りの兵士に会釈して屋敷に入っていった。
「すごい。こんな立派なお屋敷が与えられているのね」
メリッサは屋敷内を興味深そうにキョロキョロと見回していた。
エドアルドは彼が知っているメリッサはもう少し落ち着いた感じがしていたのだが、彼女は興奮しているからかどの言動にも力が入っている。
「一人暮らしだから官舎でいいの言ったのだが、先生に宰相なのだから覚悟を決めろと言われたので屋敷に住むことにしたんだ」
「若い方が宰相になったと噂には聞いていたけど、まさかエドアルドが宰相だったなんて、正直今でも信じられないわ」
「私もまだ実感がないんだが、屋敷に戻ってくると嫌でも感じるよ。先生はそのために屋敷に住めとおっしゃったのかもしれない」
官舎とこの屋敷ではかなり違う。
雲泥の差とまでは言わないが、広さもだが調度品や装飾品が段違いに良いのだ。
「そうなのかもね。王城や領城ほどじゃないけど、とても立派ね。嫌でもって言うのはよく分かるわ」
「だろう?直に食事が届くから、食堂で待っていよう」
エドアルドはメリッサの腰に手を当てて、食堂の方を向かせて歩かせた。
「料理人が常駐してるのではないのね」
「人が足りないからな。私はいつも王城内の高官専用の食堂で食べているんだよ」
高官はほとんど妻帯者なので、夕食は家族でとる人が多い。
なので夕食は宰相一人かそれに近い人数で食べる事が多かった。
その方が給仕の手間が省けるだろうからだ。
「へぇ、そうなのね。どの話を聞いてもなんだか別世界だわ」
「そうか?」
食堂に到着したので、エドアルドは戸を開けてメリッサと共に食堂に入った。
「そうよ。私の今の暮らしとは比べものにはならないわ」
「……メリッサはケレースに帰って来る気はないのか?」
エドアルドは勇気を出して、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「……そうねぇ。今の仕事も悪くないし――」
「給料が下がったのにか?好きな事も出来ないのにか?」
「周りの人がいい人なの。伯爵夫人のエレーナ様もお若いのにとても知識が豊富な方なのよ」
セマルグル王国では貴族も平民も平等に学べる。
それも男女差なくだ。
あくまで上面ではそうなっている。
だが、それだけでも凄いことなのだ。
「私から陛下に頼んで仕事を貰えるようにする。ちょうど今は法人類学の仕事が必要になりそうだから、陛下も喜んで仕事を与えてくださるだろう」
「与えられなきゃ仕事がないなんて変よね」
現在のケレース王国の女性向けの求人は侍女しかない。
専門職はないのだ。
「陛下は変えようとして下さっている。実際に魔除けや身代わり人形を作っているのは、ほとんどが女性だ」
「ええ、セマルグルでお店に並んでいるのを見たから存在は知っているわよ。だけど、専門知識を必要とした仕事ではないわ。別に針仕事を侮辱しているのではないのよ。けれど裁縫って日々の生活でも使うでしょう?」
「……メリッサが専門職の女性の一人目になればいいだろう?」
「ねぇ、エドアルド」
メリッサはため息をついた後、眉間に皺を寄せてじっとエドアルドを見てきた。
「……なんだ?」
メリッサの睨みつけるかのような視線にエドアルドは緊張感を持った。
「そっ、そういう時はね結婚して一緒に暮らそうって言うのよ。一人じゃこの屋敷は広いからとか、そんな取って付けたような理由でもいいからっ」
メリッサはエドアルドのはっきりしない態度に業を煮やし、彼女から結婚の言葉を出したようだ。
「分かった。分かった……後でやり直すから」
「後で?今じゃなく?」
メリッサは感情が高ぶってエドアルドに詰め寄った。
「このままじゃ給仕が入って来られないだろう」
「あら……」
メリッサが戸の方を見ると、給仕達が申し訳なさそうに入って来たのだった。
めでたしめでたし……?
次回も短い話です。
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