↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/169

70.王都へ向かう途中

 メリッサ側の話です。少し戦闘シーンがあります。苦手な方はお気をつけください。


 もうすぐ日が暮れるというのに、兵士達が慌ただしく動いている。

 まだやる事があるのか、大変だなと思いながらもメリッサは宿の中に入った。

 まだ東領内だが、明日の早朝に出れば夕方には王城に到着出来るだろう。

 そう思いながら、案内された宿の一室に入っていった。


 ケレース王国内は大分復興したとは聞いていたが、セマルグル王国に比べたらかなり質素な作りの建物ばかりだ。

 初めてセマルグル王国に行った時の驚きと、今の驚きは似ているかもしれない。

 隣の国なのにこんなに違うのかと。



「二年前だったらもっと驚いていたかも……」



 メリッサは連合国軍としてケレース王国に行った人達に惨状を聞いていた。

 メリッサがケレース王国出身だと聞いて、わざわざ教えに来てくれた人もいた。

 聞いた話によると道や建物は損傷が激しく、荒廃の限りを尽くしていたと表現した人もいた。



「野菜も収穫出来ているようだから、これでもかなり良くなっているのよね」



 国民が着ている服も襤褸(ぼろ)を何度も繕っているようだったと言っていたが、今は皆小綺麗な格好をしている。

 モコシュ大公国をはじめとする国から古着が送られたと聞いた。

 ケレース王国伝統でない異国風の服もちらほら見られるのは、それでなのだろう。


 メリッサは部屋に夕食を運んで貰い、食べ終わった後に湯浴み用の湯も運んで貰った。

 食堂もあったが、イワンから託された荷物があり目を離したくなかったので、運んでくれるようにお願いしたのだ。

 同じ頼みをする人は他にもいるようで、少しお金を渡したら快く引き受けてくれた。




 翌朝メリッサは宿を出て、朝一番の王都行きの駅馬車に乗った。

 メリッサの他にはがっしりとした体躯の男性二人がいた。

 この二人はメリッサの護衛だが、特に話しかけられる事はなく他人のふりをしている。


 メリッサは帰国者の体を装っており、荷物を持っていても怪しまれないので、一般人のふりをして荷物を運んでいる。

 実際にメリッサは平民なのでかなり馴染んでいると思われる。

 護衛も軍人だと思っていたが、とても自然に一般人に溶け込んでいる。

 メリッサは武器も何処に持っているのだろうと思い、何度かチラリと見てみたがさっぱり分からなかった。



「それでは出発いたします」

「ちょっと待ってくれ!」



 出発の合図があってすぐに二人の男が乗り込んで来た。

 一人は五十代ぐらいの男性で、もう一人はなんとも形容しがたい雰囲気の男性だった。


 馬車は左右に長い椅子が設けられており、メリッサは左側の一番前に座った。

 護衛の二人はメリッサの正面と右隣に座り、今乗り込んできた二人組は左右の一番後ろの席に向かい合って座った。



「よろしいですか?では出発いたします」



 メリッサはいよいよ夕方には王城に到着するのだな、恋人にも会えるかもしれないと思うと緊張してしまった。

 出発して十分ほど経過した頃、メリッサは話しかけられた。



「お嬢さんはどちらに行かれるのですか?」

「……え?私ですか?」

「ええ、女性は貴女しかおりませんよ」



 謎の雰囲気の人物がメリッサに話しかけてきた。

 お嬢さんと言われる年齢ではないので反応が遅れてしまった。



「王都の親戚に家に行くのです。その人は一人暮らしなので、降灰したら一人だと心細いとのことで私が行くことになりました」

「そうでしたか」



 とっさについた嘘だったが、信じてくれたようだ。

 話しかけてきた人はメリッサの斜(はす)向かいに移動してきた。



「貴方はどちらに行くのですか?」

「私も王都の祖母の家に行くのですよ。やはり年寄りの一人住まいは困るようです」



 メリッサはケレース王国内の老人はかなり少ないと聞いていた。

 皆、子や孫など若い人々に食べ物を譲って餓死していったと聞いた。

 道中、老人達を見たがどの人達も同居している人がいたようだ。

 王都に老婆を一人にしておくだろうかとメリッサは思った。

 あり得ないわけではないが、話をメリッサに合わせてきたような感じがして気持ちが悪かった。



「そうでしたか。一緒に乗り込んだそちらの方とはどのような関係なのでしょうか?」

「父ですよ」



 それはおかしいとメリッサは思った。



「だとすると貴方は養子、あるいはお母様の連れ子ですか?」

「え?」

「骨格が全く似ていないので、もしかしてご存じなかったのですか?だとしたらすみません」

「……」



 僅かな沈黙の後、斜向かいの人物が動き、メリッサに何かをしようとした。

 しかし護衛が素早く反応したため、メリッサは危害を加えられることはなかった。



「ぐっ」

「貴様何者だ!」

「くそっ!」



 この騒動を見て、一番後ろの席の男性は馬車が走っているのにも関わらず、飛び降りていった。

 着地後、受け身をとってすぐに立ち上がり、来た道を一目散で逃げていった。



「ここは俺がやる!お前はおっさんを追え!」

「おう!」



 メリッサの隣にいた護衛はあっという間に馬車から飛び降り、そのまま走って逃げた男を追いかけていった。

 正面の護衛と斜向かいの人物は武器を構えて睨み合っている。



「てめぇ何者だ?って御者ぁ!さっさと馬車を止めろ!!」

「ひぃ!分かりました!」



 馬の嘶きが聞こえ、馬車は停止した。

 メリッサ以外の乗客の二人はまだ睨み合っている。



「もう一度言う。てめぇは誰だ。殿下に仇なす者か?それともケレース王国の敵か?」

「私はただの旅人ですよ。こちらの女性が失礼な事を言うので――」

「言ったから殺すのか?いい性格してんなぁ」

「それはどうも」

「誉めてねぇよ!」



 護衛が斜向かいの人の腹に膝蹴りを繰り出し、斜向かいの人物は躱したが馬車内は狭いので壁にぶつかりよろめいた。

 その隙に護衛は斜向かいの人物の顔面に拳を繰り出した。

 正確に言うと鼻の骨を折ろうとしたようで、護衛は見事に拳を鼻に当てた。



「オラァッ」

「ッ!」



 護衛は次に腹に数発の拳を入れた。



「ぐぁ、ゲホッゲホッ」



 斜向かいの人物は膝をついた。

 メリッサは肋が折れただろうなと冷静に見ていた。



「と、ここで馬鹿な奴だったら油断して反撃を喰らっちまうんだろうが、てめぇは殺し屋かそれに準ずる生業のもんだろ?」



 護衛はいつの間にか刃物を相手に向けていた。



「……はぁ、はぁ」



 殺し屋と言われた人物は否定も肯定もせずに床を見ているだけだった。



「何故分かったかって?逃げてったおっさんが乗って来た時は軋む音が聞こえたが、てめぇが馬車に乗り込む時はとても静かだった。気付いた理由は他にもあるが、これだけで十分だろ?」

「……」



 殺し屋は護衛が狙い通り鼻の骨が折れたのか鼻から血が垂れてる。

 床に赤い物が広がっていった。



「殺し屋が何故私を狙うんですか?」



 メリッサが狙われるとしたらイワンから預かった荷物のせいだろう、そうメリッサは思った。



「……」

「てめぇが言わないなら俺が言う。多分、誰でも良かったんだろ?」

「誰でもって、そんな……」

「てめぇ、もしかして最近ケレースを騒がしている一味じゃねぇのか?馬車に乗るまで顔を隠しているようだったからな。俺達が馬車に乗り込むのを見てたんだろ?どうせ帰国者と外国人だから、バレねぇって思ったんだろ?どうだ?」



 殺し屋は下を向いたままで表情は見えない。

 呼吸に合せて体が動くのが分かるぐらいだった。

 護衛は容赦なく殺し屋の首に刃物を当てた。



「私を人質にして馬車を乗っ取る気だった、そうなんですか?」

「だろうな。……ん?」



 王都の方角から馬の足音が聞こえてきた。

 その足音は馬車の近くで止まった。



「なんだ?」



 護衛は殺し屋の首に刃物を当てたまま、メリッサに覗くように指示した。

 メリッサは護衛の指示に従い、外を覗こうとしたら先に外から声をかけられた。



「こちらの馬車は何故止まっているのですか?何か不具合でも?」

「お!その声はマクシムか?」

「そういう貴方はイリヤさんですね」



 マクシムと呼ばれた人物が馬車の中を覗いてきた。



「こいつ、お騒がせの奴だろ。もう一人おっさんが逃げた。今はオレグが追っている」

「分かりました。二人の顔を知っているのはこの中では私だけなので私が追います。後は任せます」



 マクシムは誰かに告げて、馬に乗って追いかけて行った。



「……あいつ、今は商人してんじゃないのか?まぁ、助かったからいいけど」

「あの方とお知り合いですか?」

「ああ、あいつも殿下の部下だったんだよ。ケレースの人と結婚したから、ここで暮らしているんだ」

「そうなんですか……」

「その声はメリッサか?」



 聞き覚えのある声で名前を呼ばれたので、メリッサは慌てて声がした方を見た。



「エドアルド?!どうしてこんな所に?」



 そこにはやや困り顔をした、恋人がいた。



「おー、お迎えかぁ。よかったなぁ。感動の再会中悪いがこいつを縛るのに手を貸してくれないか?」

「では自分が!」



 兵士も来ていたようだ。

 彼はイリヤに従いながら、殺し屋の捕縛を手伝いだした。

 イリヤは手慣れたもので、縄から抜け出さないように頑丈に縛っていた。

 足にも縄が巻かれていた。



「歯には何か仕込んでないか?まあいいか」

「……」



 イリヤは殺し屋に口を開かせ、布で猿ぐつわをした。



「逃げられないよう骨も折っておいたほうがいいか?」

「ならば、私が見ていない所でやってください。それならば戦闘中に折ったと証言出来ますので」



 エドアルドが渋面で言い終え、兵士をチラリと見ると、兵士は背筋をピンと伸ばしてこう言った。



「では自分達も見ません!」

「ということは、私も見ない方がいいのですね」

「いいねぇ、お堅くなくって!」



 イリヤはニッと歯を出して笑った。

 メリッサはエドアルドと兵士達と御者と共にイリヤ達に背を向けた。



「首を折らないだけいいと思え。証言させられるんだろうから、殺したら恨まれそうだしな」



 イリヤがそう言った数秒後に骨が折れたであろう音が聞こえてきた。




 イリヤとオレグは周囲に馴染みやすそうなので護衛に選ばれました。

 次回の更新は月曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。