69.降格
前回の後書きにも書きましたが、2月からは月水金の投稿になりました。今後ともよろしくお願い致します。
宰相は気が気でなかった。
言わずもがなメリッサが王城に向かって来ているだけで、そわそわしてしまうのに、彼女が王城に向かっている途中でイグニス島が大噴火を起こした。
しかも続報だとイグニス島は大噴火後も何度か小噴火を続けているらしい。
そのまま落ち着けばいいが、再び大噴火するかもしれない。
降灰の被害はどれくらいになるのだろうか。
街道の復旧に費やす時間はどれくらいだろうか。
それらを考えねばならぬのに、どうしてもメリッサが気になってしまい、仕事に集中出来なかった。
なんでこの時期なんだと恨んだ。
彼女に手紙を託したイワンに対しても、今噴火しているイグニス島に対しても両方腹立たしかった。
宰相はそんな子どもみたいな理由で起っている自分自身にも苛ついた。
「大丈夫ですか?」
「え、何がですか?」
宰相に話しかけてきたのは将軍だった。
表情には出さないようにしていたので、心の中を見られたかのかと思い焦った。
「何か悩んでいる様子でしたのでね」
将軍は笑顔だ。
かれの笑顔は全て見透かしている気がして、少々怖かった。
「え、ええ。何ともないですよ。それで、残党らは捕縛出来ましたか?」
「南領からの連絡によると、本人らはまだのようですね。末端構成員らは捕らえられました。すでに捕らえている者らの証言からすると残りはごく僅かのようです。その中で確定しているのが、首謀者と黒幕、殺人犯です」
「かなり追い詰めましたね」
中核の人物はこの三人だけだと考えられている。
「ですが、まだ肝心の人物が捕まえられていないのは痛いですね。判明していないだけで他にもいるかもしれませんし」
主犯格は三人だろうが、他の捕らえ逃した者が再び悪事に手を染めるかもしれないので、予め悪の芽を摘んでおきたい。
「不審者が南東領に入ったとは報告されていないので、まだ南領に潜伏しているを思うのですけど、軍部ではどのようにお考えですか?」
「南領の南部の山裾を伝って南東領に入るかもしれませんし、北上し東領に入るかもしれません。もちろん、どちらの領にも領境の見張りを増やすように言ってあるのですけど、今は降灰の対策に追われていますからね。緩くなっていて侵入出来ているかもしれませんよね」
「東領……」
宰相は俯き気味でポツリと呟いた。
「どうされました?」
「え、いえなんでもありません」
宰相はいつもと同じように振る舞おうと努力した。
「恋人が気になってるのではないですか?」
「っ、そんなことはありません」
やはり将軍はお見通しのようで、すぐに当てられてしまった。
将軍でなくとも気付くぐらい、余程鈍くなければ気付くぐらいに、あからさま態度になっていたのにも関わらず、宰相はまだ自身の言動を把握出来ていなかった。
「ちょうど今頃は東領に入っておられるでしょうから心配ですよね」
「私は宰相です。私情を挟んでいる場合ではありません」
「ええ、その通りです」
老人の声が二人の会話に割って入ってきた。
この城で老人と言ったら一人しかいない。
「ジュゼッペ殿」
「先生……」
先生は介護人に車椅子を押されてやって来た。
「陛下がお嘆きになっておりましたよ」
「申し訳ございません」
「そこで、陛下が貴方を降格するとお決めになりました」
宰相は頭を殴られたかのような衝撃に襲われた。
そんなにも愚かな行動を取っていたのだろうかと宰相は激しく動揺した。
「そ、そんな!」
宰相は焦っているが、将軍は意図に気付いてニヤリと笑った。
だが、宰相は将軍の笑みに気付いておらず、顔は真っ青になっている。
「狼狽えている暇はありませんよ。次に陛下から貴方への言伝です。使者を迎えに行けだそうです」
「え?今なんとおっしゃいましたか?使者を?」
「今頃東領にいるでしょうね。腕の立つ者を何人か付けましょう」
「ええ、お願い致します」
ジュゼッペ先生と将軍は淡々と話を進めている。
「それで、新しい宰相はどなたでしょう?」
「将軍殿もお人が悪い。私以外の人間が出来るわけないでしょう」
先ほどまで宰相と言われていた青年はポカンとしている。
ジュゼッペ先生と将軍の会話について行けていない。
「さあ、早く恋人を迎えに行きなさい。陛下に勅命を下されなければ行かないのですか?陛下もお忙しいのですから、そんな手間をかけさせてはなりませんよ」
「っ、……陛下に感謝をお伝えください」
「ええ、ええ、いくらでも伝えておきますよ。泣いて喜んでいたとね」
青年の頬には光る物が流れていた。
青年は慌てて頬を拭い、深く礼をしてこの場から去って行った。
「私も護衛を見繕わないといけませんので失礼いたします」
「よろしく頼みます」
将軍もお辞儀をして去って行った。
「まったく、どうしてここまでしないと動かないのでしょうね。真面目すぎるのが玉に瑕です。はぁ、出来る人間ぶっているのも不思議ですね。格好つけてしまうのは、まだまだ子どもという事でしょうかね。もう少々鍛えねばならないようです。でなければ私の恩師であり、彼の曾祖父君に申し訳が立ちませんからね」
ジュゼッペ先生はぶつぶつを何かを言いながら、女王と王配がいる大会議室に向かった。
女王はより迅速な通信手段がないかと思っていた。
しかし、鳩を飛ばすぐらいしか思いつかず、時間を無駄にしてしまった。
「どうしたんだ?」
「もっといい通信手段があればいいのにって思っていただけよ。昔の人達はとても便利な機械があって、一瞬のうちに情報をやり取りしていたっていうでしょ?今はないから考えても仕方ないのは分かっているけど、あったら今回のメリッサ殿の件や、災害のついての連絡も悩まずに済んだのにって思っちゃうの」
女王は少し口を尖らせて、ため息をふぅと吐いた。
「うん。前にも言ったかもしれないが、情報戦が激化しそうだな」
「便利になっても、そこでの戦いがあるのね」
「そういうものだ。だが、時間短縮はいいよなぁ。無い物ねだりなのは分かっているのだが、そういう話を聞いてしまうと少し体験したくなってしまう」
「電話とかいいわよね」
「なんだそれは?」
王配は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「原理は分からないけど、遠くにいる人とお話が出来るんですって」
「何か機械を使うのだろうが、便利だな」
「はぁ、何故なくなちゃったのかしらね」
「今回みたいに大きな災害があったんだろう。いや、もっと大きなやつか。地形も大分変わったらしいしなぁ」
「そうですよ。大陸の形や大きさも、かなり大きくなったそうです」
ジュゼッペ先生は女王と王配の隣に側にやって来た。
「ジュゼッペ先生、また宰相をお願いするのだけど大丈夫かしら?」
「ええ、何の問題もありません。現を抜かしている者よりかは、ずっと良い仕事をしてみせますよ」
ジュゼッペは冗談めかしながら、皺くちゃになって笑った。
「現在、大きな混乱はなく、皆落ち着いて準備をしているそうよ」
「西領や南領で残党達の虚言を信じた者達の行動はどうなっているでしょうか?」
「兵士と言い争いをする等、行動を起こした者はどちらの領でも牢に入れられたと報告があったわ」
顕在化したのはいいが、まだ隠れている者もいるだろう。
彼らが今後何かしだすかもしれない。
これは女王の悩みの種でもある。
ただでさえ、一大事なのに邪魔されるのは嫌なのだ。
「彼らには降灰の除去作業を手伝わせましょう。特に重労働になるであろう箇所がいいでしょう」
「騙されていただけなのだけど、兵士の活動の妨害するのは許しがたいものね」
「ないとは存じますが、情けをかけるおつもりはございませんよね?」
「そこまで、お優しい王様じゃないわよ。王城内の牢にいる者達にも降灰の除去作業をさせるべきかしら?」
大会議場内にいる書記がほんの僅かに反応したが、すぐに平静を装った。
彼らの変化は女王や王配、ジュゼッペは気付いていた。
「あいつらは今でも恨んでいる者がいるだろうから、精神衛生上、顔を合せない方がいいんじゃないか?」
「ではなしで。楽団員と劇団員の慰問は降灰の清掃が終了するまでなしよ。再開まではこれから起こりうる出来事の対策をまとめた演劇の練習をしてもらうことになったわ」
演劇の練習以外では他部署を手伝うと決まった。
主に掃除用具や防塵器具の点検などだ。
「彼らのおかげで国民達が降灰に備えたと聞いておりますよ」
ジュゼッペはにっこりと微笑んだ。
「それに邪魔者は大方捕らえた。準備はし尽くした。我々は今、出来る事はしたんだ」
「ええ」
女王は大丈夫だと自分に言い聞かせた。
言い聞かせるしかなかった。
先生の介護人は親族でしょう。前には「孫に頼む」と書きましたが、特に決めてないです。
少しでも続きが気になったら、評価&ブクマをよろしくお願い致します。更新の励みになります。




